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第10話 村長の酒
その日の夕方、村長のオルドが家に顔を出した。
手には小さな壺を持っている。
「少しばかり、取れたてのを持ってきた」
と笑って、父に差し出した。
「最近、村の調子がええな。作物も順調だし、怪我人も少ない」
父が壺を受け取りながら
「そうですね」と短く返す。
俺は座ったまま、会話を聞いていた。
オルドの目が、ちらりと俺の方を向く。
「レインも、ちゃんと働いてるみたいだな」
「普通にやってるだけです」
「普通が一番大事だ。この村は、それで十分だからな」
オルドはそう言って、満足そうに頷いた。
特に深く追及する様子はない。
ただの挨拶代わりの訪問だ。
夜になって、父がその酒を少しだけ開けた。
家族四人で、ささやかに杯を傾ける。
母が「最近、みんな穏やかでいいわね」と笑い
カイルも「争いごともないしな」と相槌を打つ。
俺は酒の香りを嗅ぎながら、静かに思った。
自分が分けた幸運が、本当に村全体に影響しているのかは分からない。
だが少なくとも悪い方向には進んでいない。
小さな積み重ねが
空気を変えているのかもしれない。
窓の外ではいつもの虫の声が聞こえていた。
今日も何事もなく一日が終わろうとしている。
それでいい。
俺は杯を置き、夜の闇を見つめた。




