【第4話】ミラノの街
「……てか、そのダサい服は何だ?どこで買ってきたんだよ」
(えっ……!ダサい……?!)
ヴォルにお気に入りの高校のブレザーを貶されて、私はショックを受ける。
「俺が最高にかっこいい服を用意してやるよ。おい、今から『ミラノ』の街に行くぞ。」
ヴォルはズンズンと草原を歩いていく。
待って、置いていかないでよ……!
私とスライムのことなどお構いなく、ヴォルが続ける。
「これから行く街『ミラノ』は、昔、俺が滅ぼした街だ。……まあ、何十年も前の話だから、今はすっかり復興しちまったんだけどな」
ちょっと、いきなり何!?
ヴォルくん、街を滅ぼしたことがあるの?!
何で?!
頭の処理が追いつかないまま、ただ、ヴォルの後を追うしかなかった。
……本当に、どういうこと?!
青々と広がる大草原を歩きながら、私は、新たにできた相棒を見つめていた。
水色でぷるぷるとした、さっき仲間になったばかりのスライムだ。
(そういえば、この子に名前をつけてあげなきゃ。いつまでも「スライム」じゃ可哀想だし……)
私がそんなことを考えていると、ヴォルが、ふんぞり返りながら振り返った。
「おい、さくら。その雑魚をいつまでも連れていくなら、まともな名前が必要だな。伝説の黒竜たるこの俺が、特別に極上の名を授けてやろう」
ヴォルはニヤリと不敵に笑い、ビシッとスライムを指差した。
「奴の名は……『デス・ブラッド・エンド』だ! どうだ、血が滾る(たぎる)ような強者の名だろう!」
(ダ、ダサすぎる……!!!)
中二病全開のネーミングセンスに、私は衝撃のあまり声を失った(最初から声は出ないけれど)。
あまりのセンスのなさに困惑し、私は無言のまま、半開きの目でヴォルをじーーーっと凝視する。
完全なるジト目である。
「……何だよ?何が不満だ。最高にかっこいいだろう?」
私は首を全力で横に振る。
だって、あまりにもスライムが可哀想なんだもん。
「……ったく、しょうがねえな。じゃあ、何がいいってんだよ?」
私は不意をつかれる。
ダサいと批判したものの、代案を考えていなかった……!
どうしよう、何がいいかな……?
私は必死に頭を回し、空中に文字を書いてみせた。
「ぷ に 丸」
「きゅぴー!」
スライムは嬉しそうに跳ねた。
「……ぷ、ぷに丸だと? チッ、俺の『デス・ブラッド・エンド』の方が何倍も強そうだが……まあ、お前がそう言うならそれでいい」
ヴォルは不満そうにそっぽを向いたが、その心の声は、『(ぷに丸……! 牙を隠し、あえて愛らしい名で敵を油断させる高等戦術か……! どこまで計算高いんだこの女……!)』と、さらに戦慄していた。
何とか「デス・ブラッド・エンド」を阻止できた。
即興で考えた割には、いいお名前なんじゃないかな?
とにかく、一安心だね。
そんな勘違いの旅路を経て、私たちはようやく最初の街の大きな正門へと到着した。
門の前には、光る鎧を身にまとった強そうな門番が立っている。
(わ、わぁ……本物の異世界の騎士様だ。かっこいいけど、ちょっと怖いかも……)
私が緊張で身を硬くしていると、門番が鋭い視線をこちらに向けて歩み寄ってきた。
「おい、見ない顔だな。街に入るなら身分証を――」
すると、門番は顔を青ざめた。
「……ひぃ!!あ、あ、頭にあの凶暴なスライムが!!誰か助けてええええええ!!!」
門番はガタガタと震えている。
私の頭にいる「ぷに丸」が、怖いみたい。
すると、ヴォルが門番を嘲笑う。
「ハッ。こんなぷるぷる野郎に怯えてるようじゃ、この街は終わりだな。何のためにここに立ってるんだよ」
「ぷに丸」及びスライムたちは、魔物からは弱い子扱いをされているけど、街の人から見たら凶暴で、おっかない存在なんだって。
そして、この街では、前にスライムが大量に侵入してきて、手に負えなくなっていたんだとか。
やっぱり、スライムも強いんだよ!
私の万物同調が門番に向けて発動される。
『(スライム一匹だけでも恐ろしいのに、こんな奴を従えているこの二人は何者だァ?!特に、女の子の方は頭にスライムが乗っているのにも関わらず、微動だにしない!きっと何かやばい力を隠し持っているに違いねえ……!!)』
(いやいや、何も持ってないよ?!攻撃力も10しかないし!!)
呆れた顔をしたヴォルは、「俺らはあんたと遊んでる暇はないんだ。おい、ここ通るぞ」と放つ。
こうして、私たちは門を通ることに成功した。
遠くで門番の「ひいいいぃぃぃ……」という声が聞こえる。
ちょっと、驚かせすぎちゃったかな……?
私たちは街を少し歩いてすぐにある、お洒落なミラノの呉服店へとやってきた。
喋れない私の代わりに、ヴォルが店員に向かってぶっきらぼうに言い放つ。
「おい、こいつに似合うまともな服を出せ。動きやすくて、それなりに上質なやつだ」
(ちょっと、態度が大きすぎるよ……!!)
しかし、店員さんは表情を変えることなく、「お任せください!」と満面の笑みで倉庫へと向かっていった。
何だか、申し訳ないなあ……。
程なくして、店員さんが白のマントがついた旅装服を持ってきた。
(う、うわぁ……すごく可愛いけど、私なんかが着て大丈夫かな……?)
不安に思いつつも、私は店員さんに促されて、お店の奥の試着室へと入った。
慣れない異世界の服に苦戦しながらも、なんとか着替えを終える。
(よし……これで大丈夫かな?)
シャーー、とカーテンを開けて、私は外にいるヴォルの前に姿を現した。
「待またせ」と言いたげに、私は無言でモジモジしながら、服の裾をぎゅっと掴んでヴォルを見上げた。
(どうかな……? 変じゃないかな?)
その瞬間。
ヴォルは目を見開き、顔を耳まで一瞬で真っ赤に染め上げた。
「――っ!?」
すると、私の万物同調のスキルが大音量で叫ぶ。
『(うおおおおおおおおおおお!! なんだそれは反則だろクソがぁぁぁ!!! 可愛すぎるだろ!! なんだその破壊力は! 俺の放つインフェルノより威力が高いぞ!! 胸が苦しい、心臓が爆発しそうだ……っ! しかも、超かっこいい!カッコ可愛いってやつだ!!店員ナイスすぎるうううううぅぅぅああああああ!!!!)』
(ひ、ひぃ!怒ってる?!ごめんなさ__)
「店員!!! お買い上げだ!!!」
ヴォルは叫ぶと同時に、懐から金貨の袋を取り出し、カウンターへバシャァァン!!!と豪快に投げつけた。
「お釣りはいらん!! 早くしろ!!」
あまりの勢いに店員が腰を抜かしている間、ヴォルは私から思いっきり目をそらし、ふいっと背を向けた。
「おい、さくら! 早く行くぞ!」
そう吐き捨てると、ヴォルは耳まで真っ赤にしたまま、ものすごいスピードでスタスタと早足で店を出ていってしまった。
「……きゅ、きゅぴ?」
ぷに丸が、不思議そうに首を傾げる。
(ちょ、ちょっと待ってよ!やっぱり物凄く怒らせちゃったのかな?! 置いてかないでよぉぉぉ!!!)
私は新しく買ってもらった可愛い旅装服の裾をひるがえしながら、慌ててヴォルの後ろ姿を追いかけるのだった。




