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【第28話】魔王とショッピング


 

「一緒に世界のシステムをぶっ壊して、みんなで平和に暮らしましょう!」というスケッチブックの優しすぎるメッセージ。

 

 

あるいは「世界樹の雫」の聖なる癒やしの光によって、孤独に魔界の呪いを背負い続けていた魔王様の涙腺は完全に崩壊した。

 

 

ゴゴゴゴゴゴ……ッ!!

 

 

魔王様が世界の呪いから解放された瞬間、魔王城全体を揺るがす地鳴りが響き渡り、空間を満たしていた禍々しい闇の障壁がサラサラと光の粒子になって消え去っていく。

 

 

世界の防衛システムは、さくらの優しさを前に暴走する暇さえなく、完全に浄化されてしまったのだ。

 

 


「あぁ……身体が、軽い……っ。何百年も俺を縛り付けていた呪いが、この少女の文字によって跡形もなく消えていく……!」




 

 

涙を拭いながら、魔王様は信じられないものを見るような目で自分の手を見つめた。

 

 

朝夕の光が差し込む中、ラスボスとしての威厳を完全に脱ぎ捨てた魔王様は、満面のひまわりのような笑顔を私へと向けた。

 

 


「さくらちゃん! 俺、ずっとこの暗い部屋に引きこもってて、四天王たちから聞いてた王都の最新ショッピングモールに死ぬほど行きたかったんだ! 雫のお礼に、今からみんなで一緒にお買い物に行こう!!」




 


(……ええっ!?)




 

 


 

 

 

というわけで、世界の最終決戦を大突破した私たちは、なぜか数日前に訪れたばかりの、あのイオンモール風の最新ショッピングモールへと舞い戻っていた。

 

 

しかも、そのメンバーの中には、頭に巨大な二本の角を生やしたまま、カジュアルなパーカーを羽織った魔王様の姿があった。

 

 

「わあぁぁ! 何この『ふーどこーと』って場所! ポテト美味しそう! ねぇねぇさくらちゃん、このお洋服、俺に似合うかな!? どれがいいかなあ!」

 

 

魔王様は完全にテンションがブチ上がった女子高生のように目を輝かせ、次から次へとショップをハシゴしては、私に満面の笑みでお洋服を合わせてくる。

 

 

そんなウキウキモードの魔王様の姿を少し後ろから見つめながら、

 

 


「「…………は?」」




 

 

ヴォルとレオンの二人が、完全に魂の抜けたような顔で、声を揃えて呆然と呟いていた。

 

 


「おい金ヅラ……俺の聞き間違いじゃねえよな? あいつ、さっきまで『とくと味わうがいい』とか言って俺たちを殺しかけてた魔王だよな……? なんでさくらと仲良く『どれがいいかなあ』とか言って服選んでんだよ……」




 

 


「分かりません……私にも、何が起きているのか皆目見当がつきません……。さくらさんは魔王の魂をハッキングするだけでなく、その精神を王都の最先端ファッションに染め上げ、完全なる傀儡(かいらい)にされてしまったというのですか。真の支配者、恐ろしや……っ!」




 

 


(二人とも違うのーーー! 魔王様はただ、ずっと引きこもりで寂しかった反動でお買い物を楽しんでるだけなの!! 怖がらないでお勧めのお洋服選んであげてぇぇ!!)




 

 

私が困ったようにオドオドしていると、紳士服売り場でミラノの王様の服選びをしていた魔王が、ふと申し訳なさそうに眉を下げて私を振り

返った。

 

 


「あ、そうだ。さくらちゃん……よく考えたら、今まで俺の魔獣が、人間たちの国や街にたくさん迷惑をかけちゃったよね……。これ、俺からミラノの王様へのお詫びの品として、何か買って持っていきたいんだけど、どれがいいかな?」




 

 


(魔王様……! なんて優しくて、なんてマメで良い方なんだろう……っ!!)




 

 

魔王様のピュアな心遣いに、私は感動のあまりスケッチブックをぎゅっと抱きしめた。

 

 

私たちは一緒に一生懸命お土産を選び、王様に一番似合いそうなふかふかの『最高級シルクの裏起毛パーカー(紺色)』と、王都で大人気の『銘菓・マカロン詰め合わせ大容量パック』を、魔王様からのお詫びの品として購入したのだった。

 

 

 


 

 

 

楽しいショッピングを終えた私たちは、お詫びの品を両手いっぱいに抱え、ミラノの王城へと向かい、王様との謁見の間に通された。

 

 

玉座に座るミラノの王様は、私たちの姿――特に、パーカーを着た魔王様が高級な手土産を持って後ろに控えているのを見た瞬間、顔面を真っ青にしてガタガタと生まれたての小鹿のように震えだした。

 

 


「ひ、ひえええ……ッ! し、沈黙の聖女さくら殿……! そ、その背後にいる、禍々しい角を生やした御仁は、まさか……本物の魔王、様……っ!?」




 

 

王様が恐怖のあまり卒倒しそうになっている前で、魔王様は「王様、今まで迷惑かけてごめんね!」と、満面の笑みでお詫びの最高級パーカーとマカロンの箱を、王様の前の机へとスッと差し出した。

 

 

私は声が出ないため、無言のまま直立不動のポーズで寄り添い、いつものスケッチブックに文字を書いて王様に見せた。

 

 


『王様、魔王様が『今まで魔獣たちがたくさん迷惑をかけちゃったよね』って心を痛めて、お詫びの品を自分で選んで買ってきてくれたんです! どうか受け取って、これからは魔界も人間界もみんなで仲良くしましょう!』




 

 


「…………っひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?(失神寸前)」




 

 

さくらちゃんの手書きのメッセージを読んだ王様は、目を血走らせてガタガタと椅子ごとひっくり返りそうになった。

 

 


『(な、何ということだ……っ! あの沈黙の覇王さくら殿が、完全に配下にした魔王を後ろに従え、あえて魔王自身の口から「今まで迷惑をかけたな、次は国ごと消すぞ」と言わせ、笑顔で「これが貴様の棺桶と最後の晩餐だ、仲良くしよう」と、最凶の国家転覆の脅迫を仕掛けてきているぞーーー!? 四天王だけでなく魔王まで手下に収めるとは、この少女こそが世界の真の黒幕……!!)』




 

 


「は、拝領いたしまするゥゥゥ大魔王さくら様ァァァ!! 魔王様ァァァ!! ミラノの国は、本日より永遠に貴女様たちに従属いたしまするぅぅぅ!! パーカー、毎日着ますぅぅぅ!!」




 

 


(だから違うのーーー! 魔王様が自ら『迷惑かけちゃったよね』って反省してお土産を渡しただけなのにぃぃぃ!! )




 

 


「はっはっは、さくらちゃん! 王様もパーカー気に入ってくれたみたいだし、これでみんな仲良しだな!」




 

 

魔王様がのん気に笑う横で、私は勘違いの凄まじさに、スケッチブックで顔を覆ってその場にしゃがみ込みたくなるのだった。

 

 

 


 

 

 

その後、お祝いの式が行われる街の巨大な広場へと、私たちは移動した。

 

 

広場には、何千人もの市民や兵士たち、そしてティオくんまでもが大集結していた。

 

 

パパパーーーーアンッ!!!!と、鳴り響くファンファーレ。

 

 

空に舞い上がる五色の紙吹雪。

 

 


「「「沈黙の聖女、さくら様万歳ーーーー!!!!」」」




 

 


「「「世界を救った最強の軍師、さくら様万歳ーーーー!!!!」」」




 

 

広場を埋め尽くす人々から、地鳴りのような歓声と拍手が沸き起こる。

 

 

ラスボスである魔王様を笑顔でお買い物仲間に従え、王様すらも一瞬で跪かせた私の姿に、街の人々は最大級のお祝いの式を執り行ってくれたのだ。

 

 


「おいおい、人間どもがさくらを崇めてるぞ」




 

 


「さすがさくらさん、侮れないですっ……!」




 

 

壇上に上げられた私は、あまりの人の多さと大歓声のプレッシャーに、喉の筋肉が完全にロックされてガタガタと震え、お人形のように完全にフリーズして言葉を失っていた。

 

 


「おお……見よ、あの世界を制覇してもなお、一切驕る(おごる)ことのない『沈黙の覇気』を……!」




 

 


「畏れ多くも、我々を無言で見守ってくださっている……! 尊い……!」




 

 

人々はさらに勝手に感動して涙を流し、広場全体の熱気は最高潮に達するのだった。

 

 


(違うのーーー! 私はただ怖くて固まってるだけなのーーー!! 早く式が終わって欲しいよぉぉぉ!!)




 

 

私の心の中の切実な叫びを乗せて、手元にある覚醒した魔道書(元・教科書)が、まるでさくらちゃんのこれからの輝かしい未来を祝福するように、ほんのりと優しいピンク色の光を放ち輝いていた。

 

 

(第4章へつづく……)


 

 


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