↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/34

【第26話】魔界の四天王戦


 

 

私たちは闘技場の最深部へと足を踏み入れた。

 

 

しかし、そこに待ち受けていたのは、今までの和解が嘘だったかのような、本物の絶望だった。

 

 

ゴオオオオオオッ!!!

 

 

ザザーーーーッ!!!

 

 

バリバリバリバリッ!!!

 

 

大地を揺るがす地鳴りとともに、闘技場の奥から、同時に三匹の巨大な影が姿を現した。

 

 

全身から触れるものすべてをドロドロに溶かす本物の業火を噴き出す「火竜」。

 

 

激流の如き水圧の障壁を纏い、あらゆる物理攻撃を受け流す巨大な「水竜」。

 

 

放置すれば視界を焼き尽くすほどの凶悪な稲妻を周囲に放ち続ける「雷竜」。

 

 


「グルアアアオオオオンッ!!!」




 

 

三匹の竜が同時に放った咆哮は、闘技場の天井を粉砕せんばかりの破壊力を持っていた。

 

 

魔王軍四天王の残るすべてが一堂に会した、最終防衛線。

 

 


「おいおい、一度に三匹もお出ましとは、豪華な葬式になりそうじゃねえか!」




 

 


「ええ、ですがさくらさんの前です。不様に負けるわけにはいません!」




 

 

ぷに丸からお茶をいただき、何とか体力を回復していたヴォルとレオンが、鋭い目つきで同時に武器を構えた。

 

 

いつもの内面での言い合いをしている余裕など一切ない。

 

 

二人は限界を超える魔力を一瞬で練り上げ、地面を爆破するように蹴り出した。

 

 


「オラァッ!! インフェルノ!!」




 

 

ヴォルが強力な一発をお見舞いし、火竜へと肉薄する。

 

 

激しい炎と炎の衝突。

 

 

火竜が巨大な爪で黒炎を受け止めるが、その背後から、目にも留らぬ速さで神速の光が駆け抜けた。

 

 


「紫電一閃(しでんいっせん)!!」




 

 

レオンの放った極大の雷撃が、水竜の纏う水の障壁へと突き刺さる。

 

 

水に電撃が伝わり、バチバチと激しい閃光が闘技場を包み込んだ。

 

 

水竜が苦悶の声を上げてのけぞる。

 

 

いつもなら手柄の奪い合いをするはずの二人が、今は完璧な呼吸で、お互いの死角をカバーし合っていた。

 

 


「おい金ヅラ! 右から雷竜のブレスが来るぞ!」




 

 


「分かっています! 光の盾(イージス・ウォール)!!」




 

 

レオンが展開した巨大な聖なる盾が、雷竜が放った極太の稲妻ブレスを間一髪で弾き返す。

 

 

その火花が散る隙間を縫って、ヴォルが漆黒の弾丸となって雷竜の懐へと飛び込んだ。

 

 


「へっ、たまには役に立つじゃねぇか、金ヅラの割によぉ!」




 

 


「フン、その言葉そっくりお返ししますよ、トカゲ。貴方の背中は私が守ります!」




 

 

激しく激突する二人の戦士と、三匹の巨竜。

 

 

ヴォルが宙を舞い、火竜の尻尾の痛烈な一撃を間一髪でバク転しながら回避する。

 

 

その着地を狙った水竜の激流ブレスを、レオンが長剣を振るって発生させた衝撃波で真っ二つに叩き斬った。

 

 

戦場は炎が吹き荒れ、水飛沫が舞い、稲妻が爆発するカオスな破壊の空間と化していた。

 

 

二人のコンビネーションは間違いなく過去最高であり、文字通り躍動感のある猛攻を仕掛けていた。

 

 



 

 

 

……だが、相手は魔王軍の四天王が三匹。

 

 

数十分に及ぶ超激しい死闘の末、二人の体力と魔力は確実に削り取られていった。

 

 

三匹の竜が三位一体となり、炎の水蒸気爆発と電撃を組み合わせた複合魔法を放ち始めると、ヴォルとレオンは次々と吹き飛ばされ、ついに闘技場の壁に激しく叩きつけられて膝をついた。

 

 


「はぁ、はぁ……っ、クソ……威力が、落ちねえ……!」




 

 


「くっ……三匹同時の連携、これほどとは……っ」




 

 

身体から汗と血を流し、息を切らす二人。

 

 

それを見た三匹の竜は、眼窩(がんざ)を凶悪に光らせ、二人を、そして真ん中に立つ私を完全に仕留めるための、最大級の極大合体ブレスのチャージを始め、喉を赤く、青く、黄色く光らせた。

 

 


(ひ、ひええええええ!! どうしよう……!! 私の『万物同調』のスキルで本音を聞こうとしても、あの子たち、完全に戦いのトランス状態に入ってて『殺す! 滅ぼす!』っていう本能の咆哮しか聞こえないよぉぉ!!)




 

 

今までのように、面白いお悩みやコンプレックス、あるいは恋バナで和解する余地が、この三匹には一ミリも見当たらなかった。

 

 


(これまでみたいに、和解するのは難しそう……っ! このままだと、ヴォルくんもレオンくんも、私もぷに丸も、みんな丸焼きの消し炭になっちゃうよぉぉぉ!!)




 

 

恐怖のあまり、私は涙目でガタガタと震えながら、せめて盾代わりにしようと、現実世界から唯一持ってきていた「学校の教科書」を胸の前にギューッと強く抱きしめた。

 

 

その時だった。

 

 

ピカァァァァァァァァァッ!!!!!




(……えっ!?)






私の胸の中で、古びた学校の教科書が、見たこともないような神々しい、あるいは禍々しい虹色の光を放ち始めた。

 

 

ページがパチパチと音を立てて勝手に捲れていく。

 

 

見ると、そこにあった現代の国語の文章が、眩しい魔力の幾何学模様へと、ものすごい勢いで書き換わっていた。

 

 

それは、現実世界の思い出の品が、この異世界の強大な魔力と、私が今までに出会って心を通わせてきた全ての仲間たちの絆に反応し、世界に唯一無二の「召喚魔道書」へと覚醒した瞬間だった。

 

 


(きょ、教科書が……魔道書になっちゃったぁぁぁ!?)




 

 

私が驚愕していると、魔道書のページから、まばゆい光の柱が闘技場の床に何本も、何本も突き刺さった。そして、その光の中から、これまでに出会ったポンコツで愛しい仲間たちの姿と、そのあまりにも愛らしい「本音」が一挙に大集結して響き渡った!

 

 

まず前衛に現れたのは、巨大な壁となって三匹の竜の前に立ちはだかる巨獣たち。

 

 


『(ぷに丸のおかげで熱中症が治って元気100倍だぞ!)』




 

 


『(皮膚の泥が綺麗に落ちて、気が狂いそうな痒みから救ってくれた恩を返すぞ! でもやっぱり手足は短い!)』




 

 


『(カルシウム補給バッチリで関節バキバキ言わなくなったぞ!)』




 

 

デスマウンテンで熱中症になりかけていた「マグマス」、神話級の体がかゆい巨亀「グラウンド・タートル」、そしてヴォルが取ってきたお魚を食べた骸骨「スケルキング」が強固な前衛盾陣形を組む!

 

 

三匹の竜の極大合体ブレスをドゴオオオオンッ!!と完全に無傷で受け止めてみせた。

 

 


『(本当はただ広いところでボール遊びがしたかっただけなんだワン!)』




 

 


『(餓死寸前だったのを、ぷに丸にお裾分けされて泣いて喜んだ恩を今返すぞ!)』




 

 


『(今の私のキューティクルは手入れ万全で美意識MAXよ!)』




 

 

ミラノの街を襲おうとした獣犬『ギガ・フレアハウンド』がボールを追うような突進で火竜を押し返す!

 

 

そして、迷宮でひもじい思いをしていた人喰い箱『ミミックス』が水竜にガブッと噛み付き、ヴォルとレオンに泥を飛ばされ憤慨した『カマイタチ』の風の刃が雷竜の防御を切り裂く!

 

 


『(腰痛が治って超絶ウルトラ絶好調じゃわい!)』




 

 


『(さくらちゃんのレーダーがあればもう方向音痴で迷子にならないぞ!)』




 

 

腰痛持ち古竜『メクラファイザー』が鋭い空中機動で雷竜を翻弄し、家が分からなかった霊鳥『フェニックス』がまばゆい翼で闘技場を照らす!

 

 

さらに、黄昏の洞窟から駆けつけたアイツも巨体をくねらせた。

 

 


『(太陽の女神さくら様のために、戦うよぉ!)』




 

 

寒がりの神話級の妖蛇『ウロボロス』が、寒さにガタガタ震えてとぐろを巻きながらも、その巨大な尾で火竜を豪快に薙ぎ払う!

 

 

そして、仕上げに最強コンビが舞い降りた。

 

 


『(やだっ、ヴォル様がピンチじゃない! 良いところ見せて結婚するんだから!)』




 

 


『(さくらちゃん、さっきの恋バナのアドバイス通りヴォルにツンツンした!? でもまずは、目の前の邪魔者を吹き飛ばしちゃいましょう!)』




 

 

崖から落ちそうになっていた雪女『シャーベラ』の妖艶な絶対零度の吹雪と、『風竜』の凄まじい暴風が合体し、三匹の竜の足元と翼を一瞬にしてカチコチに凍りつかせ、完全に動きを封じ込めた。

 

 


(みんな、みんな……っ! 本当に大集結してくれたんだーーー!!)




 

 

私が声にならない感動でスケッチブックを掲げる間もなく、完璧な隙が生まれた。

 

 


「おいトカゲ、動けるか!?」




 

 


「当たり前だろ、これだけの最高の舞台を用意されて、寝てられるかよ!!」




 

 

ヴォルとレオンが、最後の力を振り絞って跳躍する。

 

 

「きゅぴ〜!(僕たちもいるよ!)」と、分裂してこんがり温まった二匹のぷに丸たちが二人の武器に吸い込まれ、極大の属性バフを与える。

 

 

黒炎と雷撃、そしてぷに丸のエネルギーが混ざり合い、一つの巨大な巨大な光の刃となって、動けない三匹の竜の脳天へと真っ直ぐに振り下ろされた。

 

 

「オラァァァァァァァッ!!」

 

 

「これで終わりですッ!!」

 

 

ドガアアアアアアアアアアンッ!!!!!

 

 

 


 

 


闘技場全体が爆発的な光に包まれ、大爆発の煙が巻き起こる。

 

 

やがて煙がゆっくりと晴れていくと、そこには、翼を焦がされ、完全にボロボロになり、これ以上の戦闘は不可能だと悟った火竜、水竜、雷竜の三匹が、がっくりと首を地面に落としていた。

 

 

三匹の竜は、私たちの圧倒的な絆の力、そして何より、一言も喋らないまま過去のあらゆる伝説の化け物や四天王たちをすべて従えて呼び出した私の「底知れぬ智謀(魔道書)」に、完全に恐怖し、戦意を喪失していた。

 

 


『(な、何なんだあの黒髪の少女は……。スライムから、数千年の古竜、果ては四天王まで、我が魔王軍を苦しめたあらゆる強者をいつの間にか全員手懐け、召喚獣として従えていただと……!? 化け物だ、あの少女は真の魔王、いや、世界の支配者だ……! 逆らったら魂まで消される……!!)』




 

 

三匹の竜は慌ててその場に這いつくばり、諦めの声を上げて、完全に平伏して降伏の意を示したのだった。

 

 


「……流石はさくらさん。ご自身の学校の教科書を最強の魔道書へと昇華させ、これまで和解したすべての魔物たちを率いて四天王を完全制覇するとは。真の支配者の器、このレオン、骨の髄まで感動いたしました……!」




 

 


「へへっ、さすがさくらだ。これで四天王は全員全滅、全員お前の手下だな!」




 

 

興奮冷めやらぬ様子で、ヴォルがそろそろと私に近づいてきた。

 

 

そして、ふと疑問に思ったように首を傾げる。

 

 


「……あ、そうだ。さくら、さっきお前、あの風竜となんでお茶会してたんだ……? 俺たちが命がけで戦ってるってのに、なんかスケッチブックに文字書いて、アイツと楽しそうに喋ってただろ?」




 

 

ヴォルのその質問を聞いた瞬間、私の脳裏に、先ほど風竜さんから言われたアドバイスがフラッシュバックした。

 

 


『(あいつの心の一番深いところにあるのは、さくらちゃんへの過保護な独占欲だけよ! だから、次のエリアではちょっとツンとして「私、怒ってます」ってアピールしてみなさいな! あいつ、焦って犬みたいにワンワン謝ってくるから!』




 

 


(……よし。今こそ、風竜さんのアドバイスを実践するとき……っ!)




 

 

私は声が出ないため、無言のまま、ヴォルの方をキッと見据えた。

 

 

ミラノの街やお茶会での楽しげな雰囲気を一変させ、わざとらしくプイッと顔を横に背け、スケッチブックを胸の前にギューッと抱きしめて「ツン」とした態度を取ってみせた。

 

 

雪女のシャーベラさんに見惚れて鼻の下を伸ばしていたヴォルへの、私なりの可愛いお仕置き(やきもち)だった。

 

 

すると、それを見たヴォルの顔が一瞬にして真っ青になった。

 

 


『(ガ、ガァァァァーーン……ッ!!! さ、さくらが……俺に思いっきり冷たい……!? え、なんで!? 俺、マジでなんか嫌われるようなことしたか!? うわあああああ、さくらに嫌われたら俺、生きていけねえええええ!!)』




 

 

頭の中に絶望の雷でも落ちたかのように大ショックを受けたヴォルは、パニックのあまり、すぐ隣に立っていたレオンの身体へと、がしっと全力でしがみついた。

 

 

大嫌いなはずの天敵であるレオンの服の胸元をギューッと掴み、その胸に頭を埋めてガタガタと震えだしたのだ。

 

 


「ちょっ……!? 何をするのですかこの不潔なケダモノはーーーっ!!!! 離れなさい!! 暑苦しいですし、私の甲冑が貴方の汗と涙で汚れるではありませんか!!」




 

 


「うるせええええ! 頼むからちょっと抱きつかせろよ金ヅラぁぁぁ!! さくらが顔すら合わせてくれないんだよぉぉぉ!!」




 

 


「それは最初からでしょう!! いい加減にしなさい、またビンタしますよ!!」




 

 


(……ひ、ひええええええええ!!)




 

 

想像の10倍くらいヴォルが凹んで、天敵のレオンさんに泣きつくという修羅場に発展してしまったのを見て、私は一瞬で罪悪感に襲われた。

 

 


(ご、ごめんなさいヴォルくん……っ! 私、ちょっと調子に乗って意地悪しすぎちゃったよぉぉ!! そんなにショックを受けるなんて思わなかったの!!)




 

 

申し訳なさで胸がいっぱいになった私は、慌ててスケッチブックを開き、ものすごいスピードでペンを走らせた。

 

 

そして、しがみつき合っている二人の目の前へ、涙目でバッとスケッチブックを掲げた。

 

 


『ヴォルくん、ごめんなさい! 本当は怒ってないの! さっきの氷山で、ヴォルくんが雪女のシャーベラさんに見惚れてて鼻の下を伸ばしてたのが、なんだかちょっとだけ……その、面白くなくて、やきもちを焼いて意地悪しちゃっただけなの! 嫌いになってないから、お願いだから泣かないでぇぇぇ!!』




 

 

私の「直筆の謝罪とやきもち告白」を読んだ瞬間。

 

 

ピキィィィン!!と、ヴォルの動きが完全に停止した。

 

 

彼はレオンの胸元からパッと頭を離すと、耳まで真っ赤に染めながら、信じられないものを見るような目で私のスケッチブックを凝視した。

 

 


「さ、さくら……。お前、俺が別の女を見てたから……やきもち焼いて、怒ってたのか……?」




 

 

私が恥ずかしさで顔を真っ赤にしながらコクコクと小さく首を縦に振ると、ヴォルの絶望に染まっていた顔が、一瞬にして世界一幸せそうなアホ面へと生まれ変わった。

 

 


『(うおおおおおおおおお最高ォォォォォォォ!!! なんだよそれ可愛すぎるだろ!! シャーベラ? 誰だっけそれ!? 俺の網膜にはさくらしか映ってねえよ!! よっしゃぁぁぁ、さくらと仲直りだぁぁぁ!!!)』




 

 


「げっ、現金なトカゲめ……。さくらさんの大いなる慈悲に救われたというのに、その調子の乗り方、やはり万死に値しますね」




 


「……ハッ、べ、べつに嬉しくなんか……!か、勘違いするなよ、さっきのは四天王を倒せた喜びの抱擁だ!」




 

 

慌てて訂正をするヴォル。

 

 

それを見て冷ややかな目を向けるレオン。

 

 

二人のいつも通りのやり取りを見て、私はホッと胸をなでおろしながらも、(……あぁ、良かった。でもやっぱり、私の直筆のやきもち告白文が二人の目にバッチリ晒されてるの、今さらものすっごく恥ずかしくなってきたよぉぉぉ!! 忘れてぇぇぇ!!)と、再びスケッチブックで顔をすっぽりと隠してしまうのだった。

 

 


「きゅぴ〜〜っ!」「きゅぴ〜〜っ!」




 

 

降伏した三匹の竜の頭の上で、二匹のぷに丸たちが、二人の無事な仲直りを祝うように、楽しそうにポヨンポヨンとダンスを踊っていた。

 

 

 


一言も喋れない女子高生、姫乃さくら。

 

 

絆の総力戦で四天王を完全降伏させ、過保護な相棒との絆も深めた彼女の歩みは、いよいよ魔王城の最奥へと進んでいくのだった。

 

 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。