【第23話】魔界の気まぐれ門番
イケメン二人の生着替えステージによって灼熱のデスマウンテン火山を突破した私たちは、ついに魔王城の城門前へと辿り着いた。
しかし、城門の周りは巨大な黒い石壁で囲まれており、不気味に入り組んだ「迷路ゾーン」が行く手を阻んでいた。
その迷路の入り口には、禍々しい魔力を放つ、巨大な「喋る石像(門番)」が鎮座している。
私たちが近づくと、石像の目が怪しく赤く光り、地響きのような声が響き渡った。
『これより先は、魔王様お抱えの「嘘つきお断りゲート」である。進みたければ、この審判の光を浴び、己の心にある「最も恥ずかしい秘密」を声に出して告白せよ。ただし、門番である我が「面白くない」と判断した場合は、ゲートは開かぬ。その場合は、さらに奥底にある別の秘密を搾り取ることになるぞ……!』
(な、なにその最悪なプライバシー侵害セキュリティシステムーーー!? しかもお気に召さないと開かないって、ただの門番の趣味じゃん!!)
私の心の中の絶叫を無視して、迷路の入り口が怪しい光に包まれる。
どうやらここを通るには、どうしても自分の恥ずかしい秘密を暴露しなければならないらしい。
「ハッ! くだらねえ。そんなもん、力ずくでぶっ壊して進めば――」
ヴォルが不敵に笑い、拳を構えて一歩前に踏み出した、その瞬間だった。
バリバリバリッ!!!と激しい紫色の電撃が天井から降り注ぎ、ヴォルの巨体を直撃した。
「がはっ!? クソ、なんだこれ……力が、抜け……っ」
「トカゲ! ……ふむ、なるほど。ルールに従わなければ、物理的な破壊すら無効化してペナルティを与える仕組みのようですね」
レオンが冷静に分析しつつも、その額からは冷や汗が流れている。気高き宮廷騎士である彼にとっても、「恥ずかしい秘密を暴露しろ」という要求は、死を命じられるよりも過酷なものだった。
『さあ、まずはそこの黒き竜の化身よ。己の最も恥ずかしい本音を語れ!』
石像がヴォルを指名する。
審判の光が容赦なく彼を照らし出した。
ヴォルは顔を真っ赤にしながら、プライドを振り絞って、私の頭の上でポヨンポヨンと呑気に跳ねているぷに丸を思い切り指差した。
「クソ、言えばいいんだろ、言えばよぉっ!! ……実は、いつもさくらの頭の上で美味そうに特等席を陣取ってる、そのゼリー野郎が羨ましくて仕方ねえんだよ! 俺だって……本当はさくらの頭の上に乗っかって『きゅぴ〜』とか言って甘えたいんだよ畜生ーーー!!」
「きゅぴ〜〜?」
(ええっ、ヴォルが私の頭に乗ったら首の骨が折れちゃうよぉぉぉ!!っていうかぷに丸に嫉妬してたの!?)
しかし、軽快な正解音は鳴らなかった。
門番の石像は「ふーん」と退屈そうに鼻を鳴らした。
『……却下。愛嬌を狙ったか? だが我が求めているのは、もっと男としての尊厳が消し飛ぶような泥臭い本音だ。お気に召さぬゆえ、ゲートは開かん。さあ、さらに恥ずかしい第二の本音を吐き出せ!』
「な、なんだとぉっ!? ふざけんじゃねえぞコラ!!」
バリバリバリッ!!!と、さっきの二倍の電撃がヴォルに落ちた。
「ぎゃあああ!?」とワイルドな悲鳴を上げて、あの最強のヴォルがその場に四つん尋になって震えだす。
「分かった! 分かったから落とすな!! ……実は、肉ばっかり食ってるように見せてるけど、本当は生クリームたっぷりのイチゴパフェが死ぬほど大好きなんだよ! 甘いものに目がねえんだよ!! 毎日三食パフェでも良いくらいなんだよ!!」
最強の竜の化身が、涙目でパフェへの愛を絶叫させられる。
(ギャップ萌えが凄すぎるよヴォルくん……! 後で私がいくらでもパフェ奢ってあげるから元気出してぇぇぇ!)
『うむ、まあまあだな。では次、そこの金髪の騎士よ。汝の恥ずかしい本音を語れ!』
ターゲットがレオンに移る。
レオンは、きゅっと唇を噛み締めながら、スマートな立ち姿のまま覚悟を決めたように目を閉じた。
「……ミラノの騎士として、嘘はつきません。私の本音をここに宣言します。……実は昨晩、さくらさんが夢に出てきまして……! 私の差し出したカレーライスを美味しそうに食べるさくらさんと手を繋ぐという、あまりにも幸福な夢を見てしまい、今朝から思い出すたびに一人でニヤニヤが止まらないのです!!」
(「手を繋いでカレー食べる」ってレオンくん純情すぎない!? 眩しい笑顔の裏でそんなこと考えてたの!?)
だが、石像はまたしても無情なエラー音を鳴らした。
『……却下。ただのチェリーな騎士の初恋ポエムではないか。もっとこう、日頃のキザな態度が台無しになるような、裏の努力的な恥ずかしさが欲しい。さあ、第二の本音を語れ! さもなくば天罰だ!』
「くっ……! 主の前で、これ以上の尊厳破壊を受けるというのですか……! ですが、背に腹は変えられません……っ!!」
レオンは前髪をくしゃくしゃに掻きむしり、真っ赤な顔をして叫んだ。
「さくらさんの前でいつでもスマートな騎士でいるために! 私は毎晩寝る前にベッドの中で、『フッ、私に任せてください(キラーン)』みたいな格好いいセリフとポーズを鏡の前で何度も何度も練習しています!! 陰で必死に格好つけてるだけなんですーーー!!」
(裏で努力してたのーーー!? 鏡の前でキラーンってやってるレオンくん想像したら可愛すぎて無理なんだけど!!)
二人の最強の猛者たちが、それぞれの羞恥心で完全に使い物にならなくなり、地面に突っ伏して魂が抜けたようになっている。
本音を言っても開けてもらえず、追加の告白でさらに辱めを受けるという、まさに精神的お仕置き部屋状態だった。
『さあ、最後は真ん中の黒髪の少女よ。汝らの仲間の恥ずかしい本音は十分に搾り取ったが、肝心の汝がお気に召す本音を出さねば、このゲートは永久に開かぬぞ! 嘘をつかずに本音を述べよ!』
ついに順番が私に回ってきた。
激しい審判の光が私を包み込む。
(ひ、ひえええええ!! 私、声が出ないからお喋りできないよぉぉ! このまま何も言えなかったら、嘘つき判定と同じになってあの超強力な電撃を食らっちゃうの!? 痛いのは嫌だよぉぉぉ!!)
喉の筋肉が恐怖と緊張で完全にロックされる。
冷や汗が止まらず、私はお人形のようにガタガタと震えながら、どうにか愛用のスケッチブックとペンを取り出した。
(そうだ、声が出ないなら……文字で書けば、電撃は回避できるかもしれない……っ!)
でも、嘘を書いたらあの電撃が落ちてくる。
二人のあんなに可愛い秘密を聞いちゃった後だし、私も本物の「いちばん恥ずかしい本音」を書くしかない。
私は顔を真っ赤に染め、ガタガタと震える手で、スケッチブックの真っ白なページに必死にペンを走らせた。
恥ずかしすぎて、書いている最中も涙がこぼれそうになる。
そして、書き終えたページを、覚悟を決めて門番の石像――そして、背後にいるヴォルとレオンに向けて、バッと突き出すように掲げた。
そこには、私の震える手書きの文字で、こう書かれていた。
『さっきのデスマウンテン火山で、二人が暑がって服を脱いだとき、私、恥ずかしくて両手で顔を覆って「見ちゃダメぇぇ!」って思っていたけど、実は指の隙間からヴォルのバキバキなシックスパックと、レオンさんの胸元を、一瞬たりとも見逃さないようにガン見して網膜に焼き付けてましたーーー!! ごめんなさーーーい!!』
「…………っ!!」
「…………っ!?」
迷路ゾーンに、私の恥ずかしい乙女の大暴露が完全に公開された。
私は恥ずかしさのあまり、そのままスケッチブックで自分の顔をすっぽりと隠し、その場にしゃがみ込んでしまった。
しかし、その文字をじっくりと読み終えた瞬間。
ヘニャヘニャと座り込んでいたヴォルがガタッと勢いよく立ち上がり、頭を抱えていたレオンの目が、これまでにないほど爛々と輝きだした。
『(さ、さくら……ッ! お前、俺の身体をそんなにガン見して……網膜に焼き付けてただと……!? パフェのことなんかどうでもいい! 次の戦闘からはずっと上半身裸で戦ってやるよ!!)』
『(さくらさん……ッ! なんという幸福……! 毎晩の鏡の前での練習など、貴女の網膜を彩る糧になるのであれば安いものです! あぁ、今すぐこのシャツのボタンをすべて引きちぎって、その目に練習の成果を焼き直して差し上げたい……ッ!!)』
二人の過保護な男たちの男としてのプライドが音を立てて大爆発し、猛烈なドヤ顔と真っ赤な顔で、スケッチブックの裏に隠れている私にグイグイと詰め寄ってきた。
尊厳破壊されていたはずの二人が、一瞬でポジティブな暴走状態に突入したのだ。
(ひぃぃぃ! 近い近い! スケッチブックを覗き込もうとしないでレオンくん! 脱ごうとしないでヴォルくん! 恥ずかしくて死んじゃうよぉぉぉ!!)
すると、門番の石像が、さくらの心音のログと、二人の男が大満足して覚醒した光景を見て、ガタガタと骨を震わせた。
『――す、素晴らしい……! 己の愛らしい煩悩を完璧に書面に晒し、先ほどまで絶望していた仲間たちを瞬時に狂喜乱舞させ、さらなる力を引き出すとは……! これぞ、計算し尽くされた真の統率力! 我、これ以上ないほどお気に召したぞーーー!!』
ピンポーン! ピンポーン! ピンポーン!!
迷路の奥の巨大なゲートが、ものすごい勢いでガラガラと開き始めた。
門番は私の手書き暴露に大満足し、勝手にゲートを開けてくれたのだ。
(は、恥ずかしい……!私の秘密で開いた……)
「流石はさくらさん。あえてご自身の愛らしい煩悩をスケッチブックに書き記すことで、私たちの士気を爆発させ、門番すらも完全に掌握するとは。やはり貴女こそ真の支配者です!」
「へっ、さすがさくらだ。俺の筋肉に免じてゲートも開いたな。行くぞ、このまま魔王をボコりにな!」
「きゅぴ〜〜〜〜っ!」
分裂した二匹のぷに丸が、恥ずかしさで顔を真っ赤にしてスケッチブックを盾にしている私の周りを、冷やすようにポヨンポヨンと楽しそうに回っている。
一言も喋れない女子高生、姫乃さくら。
己のピュアな秘密をスケッチブックに健気に書き綴り、周りのイケメンたちの過保護度を限界突破させながらも、結果的にゲートを大突破した彼女の歩みは、魔王城へと進んでいくのだった。




