【第20話】エルフの森パレード
「――さあ、森の同胞たちよ!我がエルフの森の危機を救ってくださった、偉大なる魔王・さくら殿の凱旋パレードの始まりです!盛大にお祝いをしましょう!」
エルフの女王「エルフレイア」の神聖な声が響き渡ると同時に、緑豊かなエルフの森は、一瞬にして光と音のあふれるお祭り会場へと変貌を遂げた。
ピリリ、トコトン、と森の精霊たちが木の枝や葉っぱを使って、軽快で美しい音楽を奏で始める。
周囲の空中では、小さな光の妖精たちがパチパチと弾けながら、お祝いの紙吹雪のようにキラキラとした光の粉を降らせていた。
(わあぁぁ……!すっごく綺麗……!夢の国のパレードみたい……!)
私はエルフたちが用意してくれた、綺麗なお花で飾られた豪華なオープン馬車の特等席に座り、心の中で大はしゃぎしていた。
頭の上にはぷに丸が「きゅぴ〜」とご機嫌に跳ね、隣にはピンクのリボンをつけたカマイタチが「さくらちゃん、今日も世界一可愛いわよ!」と言いたげに自慢の毛並みをすり寄せてくる。
ただ、一つだけ大きな問題があった。
森を救った大英雄として、エルフの住民たちが道の両脇から「さくら様ーーー!!」「偉大なる魔王聖母様ーーー!!」と、熱狂的な大歓声を送ってきているのだ。
(ひ、ひえええええ……!!目立ってる!人生で一番目立ってて、恥ずかしすぎて心臓が口から飛び出そうだよぉぉぉ……!!)
インドア派で目立つのが何より苦手な私は、歓声を浴びた瞬間、緊張で喉の筋肉が完全にロックされてしまった。
もちろん、声なんて一歩も出ない。
顔を真っ赤にしながら、パニックで直立不動のまま、お人形のようにガチガチに固まってフリーズするしかなかった。
そんな私の「沈黙の威圧」を前に、沿道に並ぶエルフの精霊たちは、手作りの美味しそうな料理をこれでもかと馬車に向かって差し出してきた。
森の新鮮な果実を使ったタルト、香ばしく焼かれた謎の魔獣の串焼き、エルフ秘伝の甘いハニー特製ジュース――。
パレードの熱気と緊張、そして何より下山からの空腹が限界に達していた私の鼻に、それらの美味しい匂いがダイレクトに突き刺さる。
(すっごく美味しそう……!!お腹空いたなぁ……)
声が出ない私は、ただ目の前の美味しそうな串焼きやタルトを、よだれが出そうなのを必死に堪えながら、無言でじーーーっと見つめることしかできなかった。
すると、馬車の両脇を固めていた二人の過保護な騎士たちが、その私の「無言の視線」を敏感に察知し、凄まじいスピードで動き出した。
「なるほど、さくらさん!あの精霊たちの料理に、毒や罠が仕込まれていないか警戒されているのですね!」
レオンが純白の甲冑を響かせながら、瞬時に出店へと走り、タルトやジュースを片っ端からスマートに買い占めてきた。
「ハッ、さくらがそんな大層なこと考えるかよ!ただ食いたいだけだろ。ほらよ、さくら、この肉が一番美味そうだぞ!」
ヴォルも負けじと、めちゃくちゃに大きな串焼きを両手いっぱいに抱えて戻ってきた。
二人が馬車の上に山積みにした料理を前に、私は「わぁい!」と心の中で大喜びし、さっそく無言のまま、串焼きを小さな口でもぐもぐと食べ始めた。
ついでにタルトをパクリ、ハニージュースをごくごくと飲み干す。
(おいしい……! エルフの料理って、優しくてすっごく美味しいよぉ……!)
国家的な大歓迎パレードの最中だというのに、主役の私が周囲の歓声を完全に無視(おびえて見られないだけ)して、美味しそうに料理を食べまくっているその姿を見て、沿道のエルフたちはゴクリと息を呑んだ。
「み、見ろ……。あの大歓声と崇拝の視線を浴びながら、眉一つ動かさず、堂々と串焼きを食べていらっしゃる……!」
「国家的な祭典の最中だというのに、一切の緊張を感じさせないあの佇まい。これぞ、常識に縛られない『真の支配者』の余裕というものか……!流石は魔王様だ……!!」
(違うのーーー!みんなの顔を見るのが恥ずかしいから、下を向いて食べてるだけなのーーー!!)
私がもぐもぐとお腹を満たしていると、馬車の左右にいる二人の男が、お互いに視線を交わしてバチバチと火花を散らし始めた。
昨夜の誓いを経て、二人は「どちらがよりさくらちゃんにアピールできるか」で頭が一杯になっていたのだ。
「おい金ヅラ。お前さっきから飯を運ぶだけで、全然さくらを楽しませてねえじゃねえか。見てろ、俺の『本物の力』ってやつをよ!」
ヴォルがそう言うと、不敵に笑って前方へ跳躍した。
彼が両手を大きく広げると、パレードの上空に向けて、凝縮された紅蓮の炎がドバァァァッ!!!と打ち上げられた。
その炎は、空中で形を変え、さくらちゃんの髪を甘噛みしているぷに丸の形や、巨大な竜の形となって、まるで夜空を彩る大輪の花火のように美しく弾けた。
「どうだ、さくら!俺の『炎の芸術』は!お前のためだけに特別に見せてやったんだからな!」
ヴォルはふいっと顔を背けて耳の裏を真っ赤にしながらも、これでもかというほどのドヤ顔を私に向けてきた。
「フン、相変わらず野蛮で熱苦しい演出ですね、トカゲ」
すかさず、レオンが白銀の長剣を抜いて前に出る。
「さくらさん、真の洗練された美というものをお見せしましょう!『白雷の舞』――ッ!」
レオンが華麗なステップを踏みながら長剣を振るうと、刃から放たれた美しい紫電の雷光が、精霊たちの奏でる音楽のリズムと完全にシンクロして空中で激しく躍動した。
雷光は私を包み込むような美しい蝶の形を形作り、バチバチと幻想的な光の粒子となって周囲に舞い散る。
「いかがですか、さくらさん!貴女の紳士たるこのレオン、ハルバートの雷撃は、貴女の美しさを引き立てるための装飾に過ぎません!」
レオンは胸に手を当てて優雅に一礼し、これまた完璧に輝くような「ドヤ顔」を決めてみせた。
バリバリバリッ!ゴオォォォォ!
上空で激しく交差する、最強の黒竜の爆炎と、王国トップ騎士の神速の雷光。
パレード会場は、二人の最高級の「ドヤ顔」と派手すぎる魔法演出によって、ひっくり返るほどの大盛り上がりを見せていた。
(ひ、ひええええええ!!二人とも、お祭りだからって芸が派手すぎるよぉぉぉ!!火の粉と火花が馬車に飛んできて普通にあぶないし、これじゃお祝いパレードじゃなくて、完全に魔王の空中戦だよぉぉぉ!!!)
私は、飛んでくる火花に怯えて、持っていた串焼きを握りしめたまま、完全に白目を剥いてガタガタと震えながら直立不動で固まってしまった。
恐怖のあまり、完全に言葉を失っている。
すると、私の「万物同調」のスキルが、大歓声を上げる沿道のエルフたちから、最大級の「勘違いの本音」を同時に強制受信した。
『(お、恐ろしや……!あの上級騎士と古竜の、世界を滅ぼしかねないほどの猛烈な炎と雷の余波を……あの黒髪の魔王様は、座ったまま瞬き一つせず、ただ「沈黙の覇気」だけで完全に押さえ込んでいらっしゃる……!)』
『(しかも、あの二人ほどの強者が、あの少女の一瞥を貰うためだけに、必死になって己の最大魔力を「芸」として捧げている……。間違いない、あの黒髪の少女こそ、万物を統べる絶対の支配者、新たなる「沈黙の魔王」だ……!!)』
沿道のエルフたちは、畏怖と感動のあまり、一斉にその場にバサバサと跪き、熱狂的な「魔王様、万歳!!」の大歓声を上げ始めた。
「……フッ、どうやらエルフどももお前の偉大さに気づいたようだな、さくら」
「ええ、さくらさんの御前で、良い手合わせができました」
ヴォルとレオンの二人は、お互いにそっぽを向きながらも、私の前で良いアピールができたと満足げに鼻を鳴らしていた。
(違うのーーー!!二人とも格好良くドヤ顔決めてるけど、やってることただの過保護な爆破芸人だし、私はただ安全に美味しいものが食べたかっただけなのにぃぃぃ!!!)
「きゅぴ〜〜〜んっ!(お肉おかわり〜〜!)」
ぷに丸だけが、私の持っていた串焼きの残りをポヨンと奪って、実においしそうにもぐもぐと食べていた。
一言も喋れない女子高生、姫乃さくら。
エルフの森を救い、美味しいものを食べまくっただけの彼女の休日(?)は、過保護すぎる二人の男によるド派手なドヤ顔芸によって、世界を震撼させる「魔王軍の本格始動パレード」として、歴史に深く刻まれてしまうのだった――。
(第三章へつづく……)




