033⚫️オレのをつかえ!
その村で人々は狩りと採集、そして少しばかりの農作で生計を立てている。 井戸と雨水が水源であり、子どもたちも貴重な働き手だ。娯楽と呼べるものはほとんどない。 暗くなると女たちはおしゃべりを楽しみ、男たちは日に一杯の薄い酒を飲み、歌う。
だが、年に数回だけ“映画”がやってくる。
行商人が古びた映写機とフィルムを携え、広場に到着するのだ。 白布をつぎはぎしたスクリーンを竿に通せば、それだけで簡素な’映画館’ができあがる。
涼しくなった夜、村人たちはなけなしの日銭を握りしめて集まってくる。 村のほぼ全員が赤茶けた地面に座り、胸を高鳴らせて上映を待つのだ。
3・2・1──。
カウントダウンが映し出され、音の割れるスピーカーから音楽が流れ出すと、一斉に歓声が上がる。
物語は単純な勧善懲悪モノだ。 虐げられた人々を助ける主人公。それを邪魔する悪党たち。
ついに主人公は単身、悪のアジトへ乗り込む。 アップテンポの音楽、目を見張る格闘シーン、美女を救い出し、ボスに迫る! 観客は熱狂の渦に包まれる。
行け! やれ!
だが、悪党どもも狡猾だ。 主人公は追い詰められ、四方を囲まれてしまう。
「ふっ、ふっ、ふ。貴様もここまでだな! あの世で後悔しな!」
無手の主人公は絶体絶命。 それを見ていた村の男たちは、もう居ても立ってもいられない。 腰に差した愛用のナイフを、一斉に抜き放った。
「オレのを使え!!」
何本もの本物のナイフが、スクリーンの主人公をめがけて飛んでいく。
──当然だが、ただの白布のスクリーンは無惨に裂けた。
興行主は慌てて映写機を止め、一時中断を宣言する。 我に返った男たちは、きまり悪そうに頭を掻きながら、散らばった自分のナイフを回収するのだ。
白布は手際よく縫い直され、“無事に”映画会は終わりを迎える。 村人たちは高揚した気分冷めやらぬまま、家路につく。
ああ、おもしろかった。
明日も早朝から働かねばならない。 それでも、人々の心は満たされている。
「どうしたの、ルドルフ? 元気ないじゃないの」
「それが、マリカさん……ボク、スランプみたいなんですよね。小説のアイデアが前ほど出てこなくて。」
「なるほど。じゃあ昔の“映画”なんか見てみたら? 結構おもしろいよ。ヒントになるかも。」
「あっ、そうですね! 前に観た“砂漠のヒーロー”、あれはよかったです!」
「どんなストーリーなの?」
「虐げられた人々を颯爽と救うワイルド・ガイが、ついに単身、悪の巣窟に乗り込んで大暴れするんですよ! オススメです!」
グレッグ調査艦隊は、今日も冷たい宇宙空間を静かに進んでいる。
休憩時間が終わりに近づき、マリカとルドルフは手元にあったカップとお菓子の包み紙を片づけ始めた。
どれほど世界線が変わり、宇宙の果てであろうとも、
人生の楽しみはいつでも、
いろいろなところにあるものなのだ。




