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銀のドラゴン 外伝  作者: Aju
第1章 ハンター下条
20/28

20 ー戦ー (鬼乃平柊子)

 ビオトープで作っているというその魔法陣は、すでに80%以上仕上がっていた。

 なぜ、これまで『黒』側は、これに気付かなかったのだろう? ガライの話では、環境技術研究所の中にも『黒』が潜伏しているらしいのに——。


 柊子はマフラーで顔の下半分を隠すようにし、さらに、首から垂らしたマフラーの端でドングリを隠して、ビオトープに沿って歩いていた。

 工事に携わっているのは、全員が『白』らしかった。アルバイトやボランティアもいれば、業者もいる。

 立場は違っていても、組織的に集められた『白』の兵力であるらしかった。


 これほどの動きを『黒』側が見過ごしていたというのは、どういうことだろう?


 柊子は、ふと気配を感じて、ビルの角に体を半分隠した。

 20メートルほど先の交差点を、数人の人間が談笑しながら歩いて行くのが見えた。環境省の人間や、工事関係者らしい。

 その中に———


 彼がいた。


 間違いない。「かずまくん」だ。

 成長し、青年の顔つきにはなっているが、その面影は柊子が見まごうはずがないほどに、あの頃のままだった。その優しそうな笑顔も——。


 すぐに、彼の姿はビルの陰に入って見えなくなった。

 ハンター下条は、やはり「かずまくん」だった——。


 柊子は相変わらず無表情だったが、もしその場にガライがいたなら、柊子の微表情に「動揺」を読み取っただろう。

 ついに———

 「敵」として対峙しなければならないのか・・・・・。




 ガライは2週間ほどかけて、ドローンを使って怪しまれないよう少しずつ空撮した写真をつなぎ合わせて、全体像を組み立てた。

「間違いない。このビオトープネットワークとやらは、『魔法陣』だ。未着工の部分があるが、どれも全部空き地っぽい。すぐ工事にかかれる場所だ。・・・もう、報告するか——?」


 言いながら、ガライは逡巡している。

「確実な報告にするには、計画図のコピーが欲しいが・・・」

「環境技術研究所には、あるんじゃない?」

 ガライはイラついた表情を見せた。

「そんなことは、分かってる! 簡単に盗み出せるようなものなら、中に潜伏している下っ端にやらせるさ。

笹島という強い魔導士がかけた鍵の魔法で守られているらしいんだ。」


 ガライなら破れるだろうが、彼はそこに侵入することを恐れていた。

 もし、ハンター下条が罠を張っていたら・・・・。

「わたしが行こうか?」

「行ってくれるか?」

 ガライは、露骨にホッとした顔をした。




 ニューヨークの判断は、早かった。

 ガライたちがニューヨークに報告をした翌日の夕方には、四天王から全ての『黒の魔導士』に攻撃命令が出た。


 破壊せよ!

 破壊せよ!

 破壊せよ!!


 四天王自身がニューヨークを飛び立った——という情報も入った。

「やるぞ! オレたちだけで阻止は難しいとしても、四天王が来るまで時間を稼ぐことができれば、オレたちの地位も盤石ってもんだ!」

 柊子は、ガライを冷ややかな目で見た。

 結局この人は——、闇だのなんだのと言いながら、つまらない「希望」を持ってるんだ。


 柊子はマントを着て、アジトのマンションの玄関ドアに向かった。

「どこに行くんだ?」

「ビオトープを壊しに——。」

 ガライが、恐れとプライドをスプーンでかき混ぜたような笑いを見せた。

「そんな危険な場所に行かなくても、オレたちにはやり方があるだろう。」


 ガライはベランダに出ると両手を広げた。その周りに、何本もの赤黒い光の蛇が現れる。

 ガライはそれを南に向かって放った。

「自衛隊を操る。この2週間の間、オレがただドローンだけ飛ばしてたとでも思うのか? 何体ものカタツムリを見つけておいたのさ。」


 ばかばかしい。

 と、柊子は思った。


 そんなもので止められるとでも思っているのか? 情報によれば、あのジョージ・コーウェルまで現れたというじゃないか。

 この工事現場に集まっているのは、おそらく敵の精鋭中の精鋭だろう。通常兵器なんて、いや、核ミサイルだって役には立つまい。

 最後は、魔導力対決になる。


 結局——。と、柊子は思う。

 ガライは逃げているだけだ。現状から、自分が置かれた状況から——。


 柊子は8階のベランダから、夜の闇の中へふわりと跳んだ。

「どこへ行く? おい、シューコ!」

 柊子は答えない。妖力を使って空気抵抗と重力を操り、ゆっくりと降下する。

「おい! 危険だ! 行くな! 行くな、シューコ!」

 頭上でガライの声が聞こえるが、柊子は無視した。ガライの声は、最後の方は泣き声のような響きに変わっていった。

「オレを置いて逝かないでくれッ———!」



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