21 ー再会ー (鬼乃平柊子)
ついに———
ハンター下条数馬と対峙する柊子
柊子は闇の中をビオトープに向かって進んだ。
進みながら(わたしは本当は何がしたいんだろう?)と柊子は考えた。
柊子がビオトープにたどり着く500メートルも手前から、すでに激しい戦闘が繰り広げられていた。
『黒』はその赤黒い蛇で、『白』は白く光る光の剣で、互いの生命を消し去ろうという戦いを繰り広げている。
互いに魔導力があるから簡単には死なないが、それでも腹わたを路面にまき散らした黒いフード付きマントの死体が2つ3つ、そこらに転がっていた。
あたりは、血と糞尿の匂い、それに絶え間なく現れては『白』に襲いかかってゆく使い魔たちの生臭い臭いが立ち込めていた。
柊子のような「殺し」の現場にいたことのある者でなければ、息もできないのではないか?
実際、道の隅で吐いている『黒』もいた。
『白』の死体がないのは、『黒』が押されているからではなく、『白』は傷つくとすぐ治癒者がやって来て、その者を治療しながら後方へ下げてしまうからだ。
『黒』にはそういうことがない。仲間を助けようとする『黒』は、ほぼいない。
柊子は『白』の負傷者を、治癒者もろとも蛇で切りつけた。
周囲にいた『白』が「盾の魔法」でカバーしようとしたが、柊子の蛇はその「盾」ごと切り裂いた。
一瞬のちには、「盾」を使った『白』も切り裂いて、空いた空間に踏み込んでゆく。
ふり返って『白』が死んだかどうかなど、確認はしない。柊子は、そういう嗜虐性とは無縁だった。
ただ、その顔に、怒りのような表情が現れている。「作った」表情ではない。
柊子はここにきて、表情を取り戻し始めているようだった——。
使い魔たちよ。小さき者どもよ。
怒れ!
何者が——、
お前たちに、我らに、「存在するな」などと言えるのか!
柊子の蛇は、圧倒的な力で暴れまわった。
そうしてできた空隙に、小さな妖魔どもが喜々としてなだれ込んでいく。
そんな柊子の胸に、まるで場違いな装飾品が1つ、首から下がって揺れている。
しかしそれがなければ、あるいは柊子はとっくに「柊子という形」を維持できなくなっているのかもしれなかった。
これだけが石造建築のキーストーンのようにして、柊子という人型をかろうじて保たせているようだった。
奥へ進むほど、戦いは激しさを増していった。
10メートル進むために、どれほどの時間がかかるのか——。どれほど殺し合わなければならないのか——。
これが「戦場」なんだ——。と柊子は思った。
これに比べたら、柊子が踏んできた「殺し」の現場なんてオモチャみたいなものじゃないか——。
なぜ、こんなことを、わたしたちはしなくちゃいけない?
いつの間にか柊子の表情に表れているのは、怒りではなく、哀しみに変わってきている。
自分が何がしたいのかも分からなくなるほどに殺し合いを続けて、ようやくビオトープの姿が見えた頃、柊子はこの世ならぬほど美しいものを見た。
黄泉の国からやってきたのかと思うほどに、白く美しく輝く小さな花びらが無数に舞っている光景だった。
その花びらに触れた妖魔も、柊子の蛇も、ぼろぼろと崩れるように消えていった。
すぐ後からやってきた光の剣が、呆然と眺めている柊子の脇腹と肩をえぐった。
「!——ッ」
並みの人間ならすぐに治療しなければ助からないほどの重傷だが、妖力がその部分を補って出血を止めた。
柊子が、花びらと光の剣がやってきた方を見上げると———
そこに、白く輝く「かずまくん」がいた。
かずまくんは、この世の全ての悪を滅ぼそうとするような顔で、光の剣と花びらを無数にあたりへ放ち続けていた。
それは1匹の神獣のようでさえあった。
なんという美しさだろう。
ああ・・・、これを見るために、わたしはここまで・・・・。
もう十分。これで・・・・。
わたしはこのまま、無数の『黒』の1人としてかずまくんに殺されよう——。
そして、はたと柊子は思い至った。
馬鹿だな。わたし・・・。
初めからそうすればよかったんじゃないか——。
気に入らない世界を全部壊そうとするより、わたしが目を閉じればよかっただけじゃないか。
わたしが目を閉じさえすれば、「わたしの世界」はすべて消えて無くなるじゃないか——。
そうすれば、こんなにいっぱい人を殺さなくて済んだのに・・・・。
馬鹿だな——。わたし・・・。
その時、猛烈な風が、柊子のフードを後ろへ吹きとばした。




