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銀のドラゴン 外伝  作者: Aju
第1章 ハンター下条
21/28

21 ー再会ー (鬼乃平柊子)

ついに———

ハンター下条数馬と対峙する柊子



 柊子は闇の中をビオトープに向かって進んだ。

 進みながら(わたしは本当は何がしたいんだろう?)と柊子は考えた。


 柊子がビオトープにたどり着く500メートルも手前から、すでに激しい戦闘が繰り広げられていた。

 『黒』はその赤黒い蛇で、『白』は白く光る光の剣で、互いの生命を消し去ろうという戦いを繰り広げている。

 互いに魔導力があるから簡単には死なないが、それでも腹わたを路面にまき散らした黒いフード付きマントの死体が2つ3つ、そこらに転がっていた。


 あたりは、血と糞尿の匂い、それに絶え間なく現れては『白』に襲いかかってゆく使い魔たちの生臭い臭いが立ち込めていた。

 柊子のような「殺し」の現場にいたことのある者でなければ、息もできないのではないか?

 実際、道の隅で吐いている『黒』もいた。


 『白』の死体がないのは、『黒』が押されているからではなく、『白』は傷つくとすぐ治癒者ヒーラーがやって来て、その者を治療しながら後方へ下げてしまうからだ。

 『黒』にはそういうことがない。仲間を助けようとする『黒』は、ほぼいない。


 柊子は『白』の負傷者を、治癒者ヒーラーもろとも蛇で切りつけた。

 周囲にいた『白』が「盾の魔法」でカバーしようとしたが、柊子の蛇はその「盾」ごと切り裂いた。

 一瞬のちには、「盾」を使った『白』も切り裂いて、空いた空間に踏み込んでゆく。

 ふり返って『白』が死んだかどうかなど、確認はしない。柊子は、そういう嗜虐性とは無縁だった。

 ただ、その顔に、怒りのような表情が現れている。「作った」表情ではない。


 柊子はここにきて、表情を取り戻し始めているようだった——。



    使い魔たちよ。小さき者どもよ。

    怒れ!

    何者が——、

    お前たちに、我らに、「存在するな」などと言えるのか!



 柊子の蛇は、圧倒的な力で暴れまわった。

 そうしてできた空隙に、小さな妖魔どもが喜々としてなだれ込んでいく。


 そんな柊子の胸に、まるで場違いな装飾品が1つ、首から下がって揺れている。

 しかしそれがなければ、あるいは柊子はとっくに「柊子という形」を維持できなくなっているのかもしれなかった。

 これだけが石造建築のキーストーンのようにして、柊子という人型をかろうじて保たせているようだった。



 奥へ進むほど、戦いは激しさを増していった。

 10メートル進むために、どれほどの時間がかかるのか——。どれほど殺し合わなければならないのか——。


 これが「戦場」なんだ——。と柊子は思った。

 これに比べたら、柊子が踏んできた「殺し」の現場なんてオモチャみたいなものじゃないか——。

 なぜ、こんなことを、わたしたちはしなくちゃいけない?


 いつの間にか柊子の表情に表れているのは、怒りではなく、哀しみに変わってきている。




 自分が何がしたいのかも分からなくなるほどに殺し合いを続けて、ようやくビオトープの姿が見えた頃、柊子はこの世ならぬほど美しいものを見た。


 黄泉の国からやってきたのかと思うほどに、白く美しく輝く小さな花びらが無数に舞っている光景だった。

 その花びらに触れた妖魔も、柊子の蛇も、ぼろぼろと崩れるように消えていった。


 すぐ後からやってきた光の剣が、呆然と眺めている柊子の脇腹と肩をえぐった。

「!——ッ」

 並みの人間ならすぐに治療しなければ助からないほどの重傷だが、妖力がその部分を補って出血を止めた。


 柊子が、花びらと光の剣がやってきた方を見上げると———

 そこに、白く輝く「かずまくん」がいた。


 かずまくんは、この世の全ての悪を滅ぼそうとするような顔で、光の剣と花びらを無数にあたりへ放ち続けていた。

 それは1匹の神獣のようでさえあった。


 なんという美しさだろう。

 ああ・・・、これを見るために、わたしはここまで・・・・。


 もう十分。これで・・・・。

 わたしはこのまま、無数の『黒』の1人としてかずまくんに殺されよう——。

 

 そして、はたと柊子は思い至った。


 馬鹿だな。わたし・・・。

 初めからそうすればよかったんじゃないか——。

 気に入らない世界を全部壊そうとするより、わたしが目を閉じればよかっただけじゃないか。

 わたしが目を閉じさえすれば、「わたしの世界」はすべて消えて無くなるじゃないか——。

 そうすれば、こんなにいっぱい人を殺さなくて済んだのに・・・・。


 馬鹿だな——。わたし・・・。


 その時、猛烈な風が、柊子のフードを後ろへ吹きとばした。



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