第9話 見守っていたのはこちらも
(勇ましい姿を見せてくれた……)
我が子が、すぐに従魔にさせられたのには驚いてしまったが……いきなりの独り立ちをさせたことに、我はそれなりに悔いてはいたがあの子のためだと、突き放す形をしてしまった。
フェンリルの巣立ちは、早ければ早いほどいいとされているのは、口伝で我が母に聞いただけのこと。
だから、我も我が子には同じことを強いた。適度に狩りは出来るし、餌も取ってこれる。人語も話せるようになったのなら、もう我の手を借りる必要はない。
宣告したときは、落ち込んだ表情を見せていたため……もう少し、とも思ったが、いいや、と己を律した。
下手に甘やかしては、気高き聖獣フェンリルの誇りが許さない。ある程度の自活が出来るのであれば、群れを離れる。我も同じようにして、母から離されたのだ。違うことを我が子に施すことをしてはいけない。
だが、まさか。
我が子がいきなり、人族の従魔になるとは予想外過ぎたのだが。
(……しかし、良き主のところに行けたのだな)
適当に狩りに出ていた時に、聞こえた我が子の遠吠え。
しかし、大袈裟に反応しては離れた意味がない。影からそっと覗いていたのだが、人族に見守られていながらゴブリンの群れを排除していた。的確に魔法を繰り出し、ゴブリンらを殲滅したときのあの勇姿は……甘えただけの、我が子の姿ではなかった。わずかながらも聖獣の片鱗を見せてくれたことには、我としてもほっと出来た。
やはり、突き放した身としては、それなりに親としての心がまだまだ残っていたのだろうか。
(幼い幼いと、思っていたが。主を持つことで、変わったかもしれない……)
あのような、勇ましい姿。我が下にいたときは見たことはなかった。見せるつもりもなかったのかもしれない。それはそれで、いくらか哀しい気にもなるが、突き放した我が抱いても意味がないものだ。
「誇り高く、生きよ。我が子よ」
気高く生きる、孤高のフェンリルではないにしても。
あの子があのこらしく生きていけるのならば、それはそれでいいのかもしれない。
我が母の教えを守ってはいないが、それがひとつの生き方ではない。我とて、あの子の勇姿を見て思ったくらいだ。次の子を産む機会があれば、兄はそうだったのだぞと教えることが出来る。
とは言え、番のフェンリルは最近なかなか巣には戻ってこないのだけれど。
(この地に居続けることはないだろう。あの主の装いは『冒険者』というものだったからな……)
世を広く見聞し、多くの土地を訪れ、すべての感情を養う機会を得ることとなるだろう。少しばかり羨ましいが、我と過ごす時間は終わったのだ。あの子を突き放した者として、引き留める権利などない。あの子はあの冒険者と共に、これから長い時間を過ごすのだ。あの冒険者が潰えるその時まで、ずっと。
我らフェンリルの生を思えば、短い期間でも充実した時間を過ごしてほしいものだ。
そんな親心を抱くくらいに、我もいくらか変わったのだろう。今となってのことだが。
ひとまず、巣に引き返すことにして……番が戻っていないか、確認を取ることにした。戻ってはいなかったが、独りだけの巣は少しだけ悲しい気持ちになったのは……仕方がない。
あのやわらかな小さい我が子はもういないのだ。悔いても、意味がない。我が生きよと突き放したのだから。
次回は土曜日〜




