第6話 記憶戻って大混乱だった頃
五歳までは、この世界基準だと普通のガキだったと思う。思うだけで、違っていたかもしんないが。
村で生活していた俺は、ほかの家の子どもたちとチャンバラごっこみたいなのをしながら遊んでいたりした。剣と魔法が普通にあっても、子どもが使用していいのは見習いの年齢になってからと、決まりがあったんだ。素質があっても、手習い小屋でそれはきっちり言い渡されていたからな?
ともあれ、普通に木の枝とかでチャンバラごっこしてたら……運悪く、俺がひとりの攻撃を避け切れずに頭に直撃。当然のように、そいつは謝ってくれたんだけど。そこからがおかしかったんだ。
頭の中に、複数の記憶が洪水のように流れてきたってとこ。
忍者の方は、人を殺めるのを厭わず、多くの任務をこなしていたとか。
女の方は、料理の腕前が凄いのが災いして、周囲に妬まれていたりとか。
そんな男女ふたり分の記憶が一気に流れ込んできたため、俺はしばらく寝込んでしまう羽目に。医者にも見てもらったが、うわ言のように質問には答えても信じてはもらえず……結局、親にも言うのはやめておこうと、『自分で判断』したのだ。
たった五歳の子どもに、そんな判断力とか普通はない。
『すぐに相手を信用するな』
『慎重さが大事やよ』
とか、交互に話しかけてくる声に反論したくても出来なかったんだ。俺がリアンであることは変わりないけど、なにか違う人生を歩んできた過去を自然と受け入れていた。理解力がもともとあったからかもしれないが、それぞれの声と記憶で合致したんだ。
俺は、普通の人間じゃなくなったんだなって。
特に、忍者の方の記憶は生々しいものもあって思い出したくもなかったが。受け止めろとかなんとか言い聞かされて、見続けるしか……出来なかった。逆に、女の方は美味そうな料理を自分で作ることが出来る凄さに感心もしかけたが、その分周囲からの妬みに耐えきれない場面もあったから大人は大変なんだと理解した。
なら、ふたりの記憶にはない、違う時代の『俺』はもっとうまくやろうと冒険者を目指すことに決めたんだ。忍者のときに培った技術をもう一度会得すれば、魔物討伐とかで稼ぎはなんとかなるはず。
村から冒険者を目指す子どもは多かったし、俺もその道を選ぶことにした。
ただし、忍者から得た記憶を再現するのには……相当な訓練を積むしかなかったけど。
「あんた、毎日そんなぼろぼろになっちゃって……」
子どもと遊ばなくなり、自分なりに訓練しているだけとは親に告げても……あんまり、いい顔はされなかった。死に急いでいるわけじゃないが、このままくすぶっている余裕もなかった。見習いの年齢になれるまで、あと三年しかない。それまでに、あの高度な技術のさわりだけでも身につけることが出来れば……とか、野望を持っている程度だったけどよ。
はやく、ひとりになりたかったのかもしれない。
俺を叩いてしまった子どもとかとは、治ってからもあんまり言葉を交わすことはなくなったし。
俺の訓練を見ていても、ほかの子どもらからは煙たがられる始末。
邪魔、というか、関わり合いたくないとか、思われたんだろうな。きっと。
子どもはそこんとこ正直だったし、ふたりの記憶が『前世』ってわかった年頃には……俺もそんなもんかと納得は出来た。居場所がないのなら、見習いになってから村を出ることにして。
死にかけたりはしないが、それなりに危ない目にも遭ったりはした。甘えた精神じゃ、冒険者として一人前にもなれない。ほかの仕事に就くのはごめんだ。俺は俺だけでなんとか生きていきたいんだ。
(……荒んでいたな。ガキだったから、余計に)
そんなときに、料理人だった女の記憶を頼りに作った飯は……最初は加減がわからなかったので、散々だったけど。慣れたら、美味いもんが作れた。そのときの感動は今でも忘れないようにしている。
戦えるからって、日常の大事なもんまで捨てちゃいけない。
それが食事なんだとわかったときには、もう見習いから卒業する十歳だったかな? 五年も経って気づくとは前世の記憶があってもガキのままだと、恥ずかしく思ったのも懐かしい。
それから、六年かけて自分なりの生き方を見出して、冒険者の活動を続けてきたが。
まさか、伝説級の聖獣が従魔になるなんて……普通以上にあり得ない。だけど、一人前にしてやれると思うくらい、可愛いものは女だったときの記憶を振り返っても同じだった。
けど、愛玩動物にはしない。男としては、ちゃんと相棒に出来るくらいに育て上げなくちゃだな。
忍者のときは犬のしつけとか厳しくしていたけど、あんな粗雑な扱いはしたくねぇよ。そこんとこは、リアンの好きにさせてほしい。
交互の会話が復活しても、セイのことはちゃんと任せてもらいたかったからだ。
次回は土曜日〜




