第2話 ふわもこは聖獣・フェンリル
荷物の中からタオルを取り出して、軽く水気を取ってから手櫛で悪いけど梳いてやる。
するすると、手触りのいい毛並みになって……乾いていくとだんだんとふわもこになっていくとような?? こりゃ、無害な小魔物とかをテイムする女の子の気持ちがわからんでもない!! てか、俺の直近の前世女だし??
そっちではたしか、『テレビ』って箱とかで動く絵で動物出てるの喜んでた気がする。今の俺も、もちろん可愛いものは嫌いじゃないぞ? もこもこになっていく毛を何度も手櫛できれいにしてやると……それが気持ちいいのかで、頭をぐりぐり押し付けてきた!!
(か、かわえぇえええ!!)
忘れかけていた、母性本能。
女だったときの、可愛いものに対するときめき感!!
これ、堪らんぞ!! 怪我はしている様子ないから……食べてなくて、少し弱っているだけか?? だったら、と、収納のスキルである『インベントリ』の中になにか食べれそうなものはないか探してみた。
「……まだ、パンは少し残っていたな?」
それと、手づくりのジャーキー。酒はまだ飲酒法の関係で成人してないから飲めないけど、アテになるつまみとかはよく作っては食べたりしている。ふわもこの方に振り返れば、おいで~と言う前に口を閉じた。
だって、なんか。まるで躾の行き届いた動物かなんかのように、行儀よく座っていたんだ。ちょっと警戒心を持って構えていると、そいつは尻尾を振り出した。
『ありがとう。きれいにしてくれて』
「……念話?」
耳と言うか、頭に直接響いた気がした。たしか、女の方の娯楽関係で知った単語だと、『テレパシー』とも呼ばれている意思疎通の方法。絵空事だけど。
けど、今俺が生きている世界は全然そんなのが当たり前にある時代だ。人間が魔法も使えるし、魔物や精霊だって普通に生活をしているところだってある。このふわもこは……魔物だとしても、上位に値するものかもしれないが礼を言うところを見ると、知能は持っていても害悪関連じゃないかもしれない?
『うん。君に届くように頭の中へ送っているんだ。今少し、弱っているから口じゃちょっとしゃべれなくて』
「……お前、何?」
『ぼく? 信じられないだろうけど、フェンリル。の、幼体』
「へ?」
孤高の聖獣とも言われる、伝説上の生き物。
この時代の図鑑とかには、絵でしか載ってなかったが……もっとでかくて、毛並みもさらふわのあれが??
幼体と言ってたけど、子どもでこの存在感? レア過ぎない、俺の運??
『身体をきれいにしてくれてありがとう。……それ、なぁに?』
念話ことテレパシーを続けるフェンリルは、俺が持っていたパンに興味があるようだ。腹も減っているから、普通なら口で話せるのが出来ないって言ってたな?? 食べるか差し出してみたら、匂いを何度か嗅いでからかじり出した。
がつがつ、って、そこは獣らしくがっつく様子が……マジで、前世の小動物のようでいて可愛いな? つか、ウサギとか犬とかみたいな愛嬌がある感じ。忍者のときは、殺伐とした時代だから娯楽とかの遊戯だなんてもってのほか。仕事しろって、本能で生きてただけの機械人形のような生活してたからな? 擦れてたもんだ。
「美味いか?」
『うん! 美味しいね!!』
「……足りるか?」
「ううん、だいじょ……あ、しゃべれてる!!」
「お。たしかに」
自分でしゃべれるようになっているから、回復も早いようだ。
とはいえ、せっかくの伝説の聖獣との出会いをここで終わりにはしたくない。巣に帰る必要はあるか?と聞けば、『帰れない』と返事をされた。
「ぼくね。独り立ちしなくちゃいけない時期だったんだ」
幼体とは言え、ひと通りの躾が終わったら……フェンリルの場合、巣立ちをしなくてはいけないらしい。そのひとつが、人語のように言葉の知能を得てからとか基準は親次第。こいつの親はその基準で巣立ちをするように言いつけたそうだ。
子犬かどうかの、まだ赤ん坊にも見えんのに……親の言いつけとは言え、しんどいだろ?
俺だって、せめて冒険者になったのは二年前だぜ? 試験とかちゃんと受けて。そんな指導無しでいきなりぽい、かよ。酷くないか??
「ひとり、か?」
「うん。こっちに来たのはね。いい匂いがしたからなの。お兄ちゃん、なにか食べてたの?」
「ああ。自分で作ったもんをな? 俺、料理出来るから」
「すごいなあ。色んなこと出来て」
「……ちなみに、狩りは?」
「う~ん。この身体だけど、風魔法は得意だからゴブリンくらいまでは狩れるよ?」
「う~~~~ん」
正直思う。
やばい。このままだと、こいつ自活出来ずに野垂れ死ぬ可能性が高い。
知能とかはちゃんとあるけど、自分より大きなものを狩れてもゴブリンとかは最低レベルだ。俺でも、オークは余裕で狩れるくらいなのに。
(……連れて行くのか?)
(可愛ええんやし、テイムしたり??)
なんかわからんけど、頭ん中で前世のふたりが語りかけてくるような考えが浮かんだ。男は消極的、女は俺と同じような楽観的な答え。
悩みに悩んだが、こんな機会をみすみす逃したくもないし……実は、こいつに愛着も湧き始めてきている。
だったら、と、フェンリルの前に手を差し出した。
「ん?」
「俺もソロ……ひとりだ。色々教えてやっから、ふたりでペア組まないか?」
「ペア?」
「いっしょに生活するってこと。俺は冒険者だから、生活のいろははそれなりに教えれるぜ?」
「! いいの!!?」
「ああ。……ということで、従魔契約ってもんをした方が安全だから。名付けてもいいか?」
「名前もくれるの!?」
本当はさみしんぼで甘えたがりなガキと同じなんだな? そんなことで喜んでくれるとは思わなかったが、反対意見もなさそうだから頷いてやった。
そうすると、俺の懐に飛び込むように寄ってきたので受け止めた。
「よろしくな。……汝の名は、『セイ』。その瞳の色の意味」
「はい。セイは主様にお仕えします!! えっと」
「俺はリアン。よろしくな?」
「うん!!」
まさか、幼体でも伝説の聖獣とタッグを組む日が来るとは思わなかったけど。
この日を境に、俺の人生もまた大きな変化があるとは予想してなかったなあ……。セイが可愛いからいいんだけど!!
(それもまた生き方のひとつ……)
(ペットじゃないんやから、ちゃんとお世話しんしゃい)
と、脳内会話がなんかよぎるのは……なんでだ?? セイと出会ったことで一番に増えたのは、まずそれだった。
次回はまた明日〜




