表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/21

レンジの日常

この半年で、レンジは学校で話す相手を失っていた。


クラスメートはもちろん、他のクラスの生徒も同じ。


廊下ですれ違っても目を逸らされ、声をかけても聞こえないふりをされる。


おそらく、学校のグループチャットでレンジを無視するよう、ダイチが指示を出しているのだろう。


今では、最も会話を交わす相手がいじめっ子グループという有様だった。


朝、レンジが教室へ入ると、自分の机と椅子が消えていた。


珍しいことではない。


「おはよう、レンジくん」


ダイチが笑いながら手を上げる。


その周りでは、ショウたちもニヤニヤしていた。


レンジは辺りを見回すが、クラスメイトは見ないふりをする。


ホームルームがはじまり担任の男性教師が入ってくる。


「先生。僕の机と椅子がありません」


担任は書類から顔を上げ、大きなため息をついた。


「またか。誰がやったか知らないのか?」


「知りません」


担任は教室へ来ると、生徒たちを見回した。


「レンジの机を知らないか?」


誰も答えない。


しばらくして、ショウが手を上げた。


「朝、焼却炉の近くで見ましたよ」


「そうか」


担任はレンジへ顔を向ける。


「じゃあ、取ってきなさい。授業が始まるから急げよ」


「……はい」


焼却炉までは校舎の裏を回らなければならない。


机と椅子を抱えて戻る頃には、一限目が始まっていた。


「遅刻だぞ」


一限目の教師はそれだけ言い、黒板へ向き直った。



体育の時間。


レンジがロッカーを開けると、体操着には油性ペンで落書きがされていた。


背中に大きく『うんこ』。


胸元には、歪んだ顔と意味の分からない悪口。


ダイチたちの仕業に決まっている。


着替えなければ、今度は授業をさぼったと言われる。


レンジは黙って袖を通した。


体育館へ入った瞬間、笑い声が広がる。


「似合ってるぞ、レンジ」


ダイチが腹を抱えた。


女子たちも口元を隠しながら笑っている。


そこへ、高齢の体育教師が近づいてきた。


「おい、お前。なんだ、その格好は」


「落書きされていました」


「されましたじゃないだろう」


「でも…」


教師は呆れたように眉をひそめた。


「自分の物くらい、きちんと管理しなさい。物を大切にできない人間は、何をやっても駄目だぞ」


レンジは高齢の教師の顔を見つめた。


誰が見ても、本人が書いたものではない。


それでも教師は、面倒事をレンジの管理不足で片づけようとしていた。


レンジは力ない声で返事をした。


「はい…すみません」


説教が終わった頃には、準備運動がほとんど終わっている。


その日の体育は強制的に見学にさせられた。



昼休み。


「レンジ、パン買ってこい。ダッシュな」


ダイチたちが、欲しいパンや飲み物を次々に口にする。


「お金は?」


「後でわたすよ」


「さっさと行けよ。売り切れてたら殺すよ?」


「……わかった」


ショウたちが笑う。


レンジは財布を持ち、教室を出た。


戻ってきた頃には、昼休みが半分ほど過ぎている。


パンを渡しても、誰も代金を払おうとはしなかった。


レンジは自分の席へ戻り、鞄から弁当箱を取り出す。


蓋を開けた瞬間、デブゴンがわざと机にぶつかってきた。


弁当箱が机から落ちる。


ご飯とおかずが、床に散らばった。


「悪い。足が当たった」


ダイチたちが笑う。


デブゴンはダイチ達の席にもどりハイタッチをしている。


レンジはしゃがみ込み、床に落ちたおかずを拾い始めた。


「うわ、汚い」


近くにいた女子が小さく呟く。


「まじで、いじめられてる奴きもいんだけど」


別の女子が露骨に嫌な顔をする。


レンジは何も答えない。


床に散らばったご飯を、一粒ずつ弁当箱へ戻していく。


教室には、楽しそうな笑い声が響いていた。


昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。


レンジは弁当箱の蓋を閉じ、窓の外へ目を向ける。


その口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。


隣の席の女子生徒は、気味悪そうにレンジから目を逸らした。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ