理央 止まらない復讐
教室では、ダイチがつまらなそうに授業を受けていた。
デブゴンとユウマが消え、ショウまで鼻の骨折で全治一カ月。
気づけば、ダイチの周りには誰もいなくなっている。
一緒に笑う相手も、レンジを押さえつける役もいない。
そのせいか、最近はレンジへちょっかいを出す回数も減っていた。
一方、レンジにはまだやることが残っている。
ショウのスマホから抜き取ったデータを、一つずつ確認していた。
いじめの動画。
クラスメイトとの写真。
理央とのやり取り。
その中の一枚で、レンジの指が止まった。
画面を見つめ、口元を歪める。
「いいもの持ってるじゃん」
◇
昼休み。
レンジは隣の教室へ向かった。
黒髪のショートカットの女子生徒の前で足を止める。
ショウの幼馴染で、彼女でもある理央。
「ねえ」
理央はレンジを見るなり、露骨に顔をしかめた。
「気持ち悪いから、近寄らないでくれる?」
「あの、ショウのことで話があるんだけど」
「ここで?」
理央は周囲の視線を気にするように教室を見回した。
「みんなの前で話すの嫌だから、屋上にして」
そう言って先に教室を出る。
レンジも少し間を空けて、そのあとを追った。
◇
屋上へ着くと、理央は腕を組んで振り返った。
「それで? ショウの話って何?」
「これなんだけど」
レンジはスマホを取り出し、一枚の写真を表示する。
そこには、ショウと理央がキスをしている姿が映っていた。
理央の目が大きく見開かれる。
「はあ!? なんであんたが持ってるのよ!」
レンジは困ったように視線を落とした。
「……ショウが千円で売ってくれた」
「売った?」
理央は意味が分からないという顔で、レンジと画面を交互に見る。
「うん。それで、一万円で売ってくれたのがこれ」
指を滑らせ、次の画像へ切り替えた。
理央の顔が一気に赤くなる。
「ちょっ……え、嘘でしょ」
慌ててスマホを奪おうとするが、レンジはさっと頭上へ持ち上げた。
そして口元を緩めながら言う。
「三万円で売ってくれた動画も見る?」
「やめて!」
理央の声が屋上に響く。
レンジはスマホを下ろさず、楽しそうに理央の反応を眺めていた。
そのとき、理央の頭に以前のショウの言葉が浮かぶ。
――今日、レンジから金取ったから、新しい靴買ったんだ。
レンジへのいじめが始まってから、ショウの羽振りは急によくなっていた。
理央はずっと、レンジから金を脅し取っているだけだと思っていた。
「お願い……」
理央の声が震えた。
「その動画、消して」
目には涙が浮かんでいる。
レンジはしばらく黙ってから、スマホをポケットへ戻した。
「あのさ。もうショウとは別れた方がいいんじゃないかな」
「……何よ、それ」
「だって、ダイチから柚希を奪ったのもショウなんだよ」
理央が顔を上げる。
「え?」
「二人でこっそり会ってた」
「なんで、いじめられてるあんたがそんなこと知ってるのよ」
「偶然、見かけたんだ」
レンジは何でもないことのように答える。
「写真もあるけど、見たい?」
理央は一瞬迷ったあと、首を振った。
先ほどまでの恥ずかしさは消え、代わりに怒りが顔へ浮かんでいる。
「動画は消しておいてあげるよ」
レンジは屋上の扉へ向かう。
「嘘だと思うなら、ショウ本人に確認してみれば?」
理央が何か言う前に、レンジは屋上から出ていった。
◇
放課後。
理央はまっすぐショウのマンションへ向かった。
何度も訪れているため、ショウの母親も疑うことなく部屋へ通してくれる。
理央は勢いよく扉を開け、そのまま鞄を投げつけた。
鞄がショウの顔に当たり、鼻の固定具がずれる。
「痛ってえ! 何すんだよ!」
「あんた、柚希と何してたの?」
「は?」
ショウは固定具を押さえながら、理央を睨む。
「二人で会ってたんでしょ」
「誰から聞いたんだよ」
「レンジが見たって言ってた」
その名前を聞いた瞬間、ショウの顔が固まった。
「……レンジが?」
「それに、あいつが私たちの写真とか動画を持ってたんだけど」
「それは違う!」
ショウは慌ててベッドから身を乗り出す。
「あいつに奪われたんだよ!」
「はあ?」
「本当だって。あいつ、いじめられてるふりしてるだけなんだよ。実際は――」
「嘘ばっかりつかないでよ!」
理央の声が震える。
「レンジが、あんたからスマホを奪った? そんなわけないでしょ!」
「だから、あいつは普通じゃないんだよ!」
「もういい」
理央は床に落ちた鞄を拾い上げた。
「別れる。もう二度と話しかけないで」
「待てよ、理央!」
ショウが呼び止めても、理央は振り返らない。
扉を強く閉め、そのまま部屋から出ていった。
残されたショウは、しばらく閉じた扉を見つめていた。
レンジのやつ、ここまでやるのか……。
鼻の奥に鈍い痛みが残っている。
その痛みと一緒に、デブゴンとユウマの顔が頭へ浮かんだ。
「まさか……」
今まで、偶然だと思っていた。
しかし、すべてがレンジの仕業だったとしたら。
理央に振られた悲しみよりも、背中を這い上がる恐怖の方が大きかった。
「まずい……」
ショウは震える手で、鼻の固定具へ触れる。
「このままじゃ、俺もダイチもあいつに潰されるぞ」




