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ショウの土下座

ショウは鼻骨を骨折し、全治一カ月と診断された。


ダイチとショウの彼女の理央が見舞いにやってくる。


ショウは鼻を固定する器具が取り付けられていた。


「いったい誰にやられたんだよ」


「言っただろ、3人組の輩に絡まれたって」


「ダイチくんが一緒にいればよかったのにね」


理央が残念そうに言う。


「まあな」


ダイチが笑う。


ショウは本当のことは、誰にも言えなかった。


レンジから毎月金を脅し取っていたこと。


レンジに殴られて怪我をして失神したこと。



数日後。


レンジは、ショウが暮らすマンションを訪れた。


インターフォンを押すと、女性の声が返ってくる。


『はい』


「ショウくんと同じクラスのレンジです。休んでいる間のノートを届けに来ました」


少しして、オートロックが解除された。


玄関では、ショウの母親が申し訳なさそうな顔で待っている。


「わざわざありがとう。ショウ、ずっと学校を休んでるから助かるわ」


「いえ。授業が遅れると大変だと思って」


レンジは愛想よく笑い、数冊のノートを差し出した。


「せっかくだから、顔を見ていってあげて」


母親に案内され、ショウの部屋へ向かう。


ベッドに寝転がっていたショウは、入ってきたレンジを見た瞬間、勢いよく体を起こした。


鼻には白い固定具がつけられ、目の周りにはまだ腫れが残っている。


「なんでお前が来てんだよ!」


「休んでる間のノートを届けに来たんだ」


「ふざけんな!」


廊下から母親の声が聞こえた。


「ショウ、せっかく来てくれたのに喧嘩しないの!」


「うるせえ!」


足音が遠ざかるのを待ち、ショウが声を落とす。


「怪我が治ったら覚えてろよ。今まで以上にボコボコにしてやる」


レンジは何も答えない。


ただ、ベッドの前まで静かに歩いていく。


「何だよ、その顔」


次の瞬間、レンジの手がショウの鼻を覆う固定具を掴んだ。


「ぐあっ!」


そのまま、ゆっくりと力を込める。


折れた鼻に鋭い痛みが走り、ショウの顔が歪んだ。


「や、やめろ!離せ!」


レンジは無表情のまま手を緩めない。


ショウが腕を振り払おうとしても、傷に響いて力が入らなかった。


「ショウ、謝れよ」


「ふざっけんな……!」


レンジの指に、さらに力が加わる。


「ぐっ! 分かった! 悪かった!」


それでもレンジはやめない。


「悪かったよ! 本当に止めてくれ!」


無言のまま器具を掴み続ける。


「お願い、頼む。許してくれ」


涙を流すショウを見て、ようやくレンジは手を離した。


ショウは鼻を押さえ、荒い息を繰り返す。


「お前、あの時といい何考えてるんだよ」


レンジは答えない。


そして、代わりにポケットからスマホを取り出した。


画面に映っているのは、ファミレスで柚希と向かい合うショウ。


「これ、覚えてるよね」


ショウの顔が固まる。


続けて、金髪の男と柚希がキスをしているプリクラを表示した。


「……なんだよ、それ」


レンジは笑いながら二枚の画像を並べる。


「ダイチが見たら、勘違いしちゃうんじゃないかな」


事情を知らないダイチが見れば、ショウが柚希に手を出したと思われてしまう。


「ふざけんな。俺は相談された、それだけだ!」


「ダイチが、信じてくれるといいね」


「ついでに、理央にも見せてあげようか。二股かけられてますよって」


「やめろよ」


ショウの声から、先ほどまでの勢いが消える。


レンジはベッド脇の椅子へ座り、穏やかに笑った。


ショウが不思議そうに見る。


「お前、本当になんなんだよ。いじめられてるときと全然ちがうじゃねえか」


レンジが冷たい目で言う。


「そうだよ。だからお前は俺の言うことを聞くしかないんだよ」


ショウは鼻を押さえたまま、黙ってレンジを見つめていた。


「……言うことって、何だよ」


「今まで撮ったいじめの写真と動画、全部よこせ」


「は?」


「僕をいじめてるところ。スマホに残してるよね」


ショウの顔がわずかに引きつった。


「もう消したよ」


レンジはショウの鼻の器具を掴む。


ショウは反射的に顔を背けた。


「分かった! 分かったから触るな!」


「どうやって渡すんだよ」


レンジは手を差し出した。


「お前のスマホ、よこせ」


「そ、それは」


「データだけ抜き取ったら返してやるよ」


「本当だろうな?」


レンジが頷く。


ショウはロックを解除してレンジに渡した。


レンジはさっそくスマホを操作して、ショウの方へカメラを向ける。


「何してるんだよ」


ショウが尋ねる。


「ついでに謝罪動画もとらせてもらう」


「謝罪動画?」


「今まで、お前らがやったことを全て話せ。そして最後に土下座しろ」


ショウは固まった。


「嫌なら、お前の鼻は一生直らないぞ」


レンジが脅すように睨みつける。


ショウは観念するしかなかった。


唇を震わせながら、いじめが始まった経緯を話していく。


ダイチがレンジを目の敵にしたこと。


デブゴンやユウマも加わったこと。


自分が撮影役を務め、教師に見つからない場所でいじめを繰り返していたこと。


自殺するまでいじめを止めないと言ったこと。


毎月五万円を脅し取っていたことまで、すべて口にした。


「次は、土下座かな」


「……もういいだろ」


「僕みたいに服ぬいでやる?」


ショウは意味を理解し、顔を強張らせた。


ショウはベッドから下り、床に膝をついた。


両手をつき、額をフローリングへ近づける。


「今までいじめて、すみませんでした」


「聞こえない」


「今までいじめて、本当にすみませんでした!」


鼻の痛みと屈辱で、ショウの目に涙が浮かんだ。


「もう一回!」


レンジは満足するまで何度も謝罪を繰り返させた。



その夜。レンジはショウのスマホから自分のスマホにデータを移していた。


肘をつきながら、データを見る。


旧校舎のトイレで蹴られる自分。


制服を脱がされ、笑われている姿。


土下座を強要され、頭を踏みつけられる動画。


画面に映る自分を見ても、レンジの表情は変わらない。


すべてのデータの転送が終わると、レンジの口元が緩んだ


「いろいろ、やられちゃったな」


まるで大切な思い出を眺めるような声だった。



数日後、ショウの家へ小さな荷物が届いた。


ショウは袋を開けて中を見る。


そこには、真っ二つに折れたショウのスマホがあった。


ショウはスマホを握ったまま動けなかった。


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