全治一カ月
「ガキのくせに、いい度胸してんな」
短髪の男がレンジの肩へ腕を回す。
力を込められ、逃げることはできない。
「こんなダセえ奴に喧嘩売られるとは思わなかったわ」
色黒の男が顔を近づけてきた。
酒と煙草の混ざったような臭いが鼻につく。
少し離れた場所では、サングラスの男がショウの腕を押さえていた。
「俺、本当に関係ないんで」
ショウが必死に訴える。
「こいつが勝手にやっただけだから」
その言葉を聞き、短髪の男がレンジを突き飛ばした。
背中がブロック塀へ激突する。
レンジはそのまま地面へ崩れ落ちた。
「ほら、立てよ」
色黒の男が両拳を顔の前へ構える。
「相手してやるから」
レンジは立ち上がらない。
地面に手をつき、そのまま深く頭を下げた。
「すみません……許してください」
声を震わせ、何度も頭を地面にこすりつける。
「すみません。ごめんさい」
三人は顔を見合わせた。
やがて、一斉に笑い始める。
「何だこいつ。勝手に土下座したぞ」
「さっきまでの勢い、どこ行ったんだよ」
今度はショウが前へ押し出された。
「おい。金髪、お前はどうすんだ?」
「待ってくれって。俺は本当に関係ないんだ」
「仲間じゃねえのかよ」
「仲間じゃない。学校でも嫌われてる奴で――」
言い終わる前に、色黒の男の拳が腹へ入った。
「ぐっ!」
ショウは腹を押さえ、その場にうずくまる。
すぐに襟を掴まれ、無理やり立たされた。
短髪の男は、土下座しているレンジの髪を掴む。
「お前、顔上げろ」
無理やり引き起こされたレンジの顔は、涙と鼻水で濡れていた。
その情けない姿を見て、男はショウへ視線を向ける。
「おい、金髪」
「なんだよ……」
「お前がこいつに命令して、ペットボトル投げさせたんだろ?」
「違う! 本当にこいつが勝手に――」
「嘘つけよ」
ショウの腹へ、もう一発重い拳が入る。
空気を吐き出し、再び膝をついた。
短髪の男がレンジへ尋ねる。
「お前、こいつにいじめられてんのか?」
レンジは怯えた顔のまま、小さく頷いた。
三人の顔に、面白い遊びを見つけたような笑みが浮かぶ。
「じゃあ、お前がこいつを殴れよ」
「えっ……」
「いつもやられてんだろ? 仕返しさせてやるよ」
色黒の男が声を上げて笑った。
ショウが逃げようとする。
だが、すぐに二人がかりで後ろから腕を押さえられた。
「やめろ! ふざけんな!」
レンジはおどおどしながら、ショウの正面へ立つ。
「ちゃんと殴れよ」
短髪の男がレンジの背中を強く叩く。
ショウは男たちに気づかれないよう、レンジへ目配せした。
手加減しろ。
その目が、はっきりと訴えている。
レンジは小さく頷いた。
「早くしろ!」
怒鳴り声が響く。
レンジは拳を握り、一歩踏み込んだ。
レンジの目つきが鋭くなる。
次の瞬間。
乾いた音が、駐車場に響いた。
全体重を乗せた拳が、ショウの顔面へ深くめり込んだ。
押さえていた男の腕が外れ、ショウはそのまま地面へ崩れ落ちる。
ショウの鼻と口から、血が流れ出す。
「おい……」
三人の笑い声が消えた。
「こいつ、白目むいてるぞ」
「やばくね?」
男たちは互いの顔を見合わせる。
そして誰かが声をかける前に、その場から走って逃げていった。
駐車場には、倒れたショウとレンジだけが残る。
レンジは先ほどまでの泣き顔を消し、静かに立ち尽くしていた。
地面に倒れたショウを見下ろす。
意識はない。
鼻と口元から血を流し、わずかに呼吸だけが続いている。
レンジはスマホを取り出し、救急車を呼んだ。
「友達が殴られて、意識がありません」
冷めた声で伝える。
通話を切ると、レンジはショウの隣へしゃがみ込んだ。
「手加減って、よくわからないんだよな」
そう呟き、遠くから近づいてくるサイレンの音を静かに聞いていた。




