策士
休日。
レンジは美容院で髪を金色に染めた。
待ち合わせ場所へ現れたレンジを見て、柚希は吹き出す。
「どうしたの、その頭」
「今日だけだけ、特別」
「せっかくだからプリ撮ろうよ」
二人はゲームセンターへ入り、プリクラ機の中へ入った。
肩を寄せ、笑いながら何枚か撮る。
最後の一枚。
レンジは柚希の腰へ手を回し、顔を少し横へ向けキスをした。
出来上がったプリクラをポケットにしまう。
柚希と別れると、その日のうちに髪を黒へ戻した。
◇
レンジの部屋。
二人はベッドに腰掛けながら、ダイチの話をしていた。
「まだ連絡来る?」
「来るけど、言われたとおり無視してる」
「共通の友達からはっきり伝えてもらった方がいいかもね」
柚希は少し考える。
「じゃあ、ショウに頼んでみようかな。ダイチの中学からの親友だし」
すぐにショウへ連絡し、二人だけで相談したいと伝えた。
ショウは、ダイチには黙っておくという条件も受け入れた。
◇
数日後。
ファミレスで、柚希はショウと向かい合っていた。
「ほかに好きな人ができたから、ダイチとは別れたいの」
「ダイチから聞いてるよ。誰なの?」
「二人とも知らない人。ダイチが来ると嫌だから言えない」
柚希はレンジを守るため、相手の名前を伏せた。
「それだと、俺が言っても納得しないだろうな」
ショウが苦い顔をした。
店の外では、レンジが二人の姿をスマホで撮影している。
帰宅後。
レンジは、ショウと柚希が向かい合う写真と、金髪の自分が柚希とキスをするプリクラを並べた。
どちらも、使い方次第で意味が変わる。
レンジは二枚を眺めながら、静かに笑った。
「さて、攻略開始といくか」
◇
数日後。
レンジのスマホが鳴った。
画面に表示された名前は、ショウ。
「……もしもし」
『おう、俺だ』
電話の向こうから、いつもの軽い声が聞こえる。
『月末だからさ。分かるよな?』
「……お金でしょ」
『明日、必ず持ってこいよ。間違っても学校で渡すな』
それだけ言って、通話は一方的に切れた。
ショウは学校でのいじめとは別に、毎月レンジから金を巻き上げている。
――金を払えば、ダイチがやりすぎたときに止めてやる。
――俺が止めなかったら、お前はそのうち殺されるぞ。
学校で受け取ろうとしないのは、ダイチに知られたくないからだ。
見つかれば、金はダイチと分けなければいけない。
ショウは仲間に隠れて、自分だけ甘い汁を吸っていた。
レンジは通話の切れたスマホを見つめる。
そして財布の中身を確認した。
◇
翌日。
レンジは指定されたとおり、駅から少し離れた路地で待っていた。
夕方になり、商店街には仕事帰りの人や学生が行き交っている。
しばらくすると、ショウが何度も周囲を確認しながら近づいてきた。
「持ってきたか?」
レンジが答える前に、ショウは片手を差し出す。
財布から一万円札を三枚抜き取り、その手に乗せた。
紙幣を数えたショウの顔が険しくなる。
直後、レンジのすねに鋭い蹴りが入った。
「痛っ……」
「おい、足りねえじゃねえか」
ショウは三万円をポケットへ押し込む。
「毎月五万って言ったよな?」
「ごめん。今はこれしかなくて」
「ふざけんなよ」
「銀行で下ろすから……」
ショウは舌打ちし、顎で先を示した。
「さっさと行け」
レンジは足を引きずるように歩き始める。
ショウも少し後ろからついてきた。
「逃げんなよ」
低い声が背中へ飛んでくる。
レンジは返事をせず、商店街の外れへ向かった。
人通りは次第に減り、古い雑居ビルや閉まった店が目立ち始める。
「おい」
ショウが苛立った声を出す。
「こんなところに銀行なんてあんのかよ」
「もう少し先……」
そのとき、雀荘の前で話している三人組が見えた。
全員ジャージ姿。
一人は金色のネックレスをつけた短髪の男。
もう一人は色黒で、袖口からタトゥーが覗いている。
残る一人は、夕方にもかかわらずサングラスをかけていた。
大声で笑いながら、駐車場の入り口を塞ぐように立っている。
レンジは鞄から飲みかけのペットボトルを取り出した。
そして、三人の足元へ思いきり投げつける。
ボトルが地面へ当たり、中身が勢いよく飛び散った。
「うおっ!」
三人が驚いて飛び跳ねる。
すぐ後ろを歩いていたショウも、何が起きたのか分からず目を見開いた。
「何だ、お前!」
短髪の男がレンジへ詰め寄る。
残りの二人も加わり、逃げ道を塞いだ。
ショウは気配を消すように後ろへ下がる。
しかし、サングラスの男がその腕を掴んだ。
「お前も仲間だろ。どこ行くんだよ」
「いや、俺は――」
言い訳を聞く者はいない。
二人はそのまま雀荘脇の駐車場へ連れていかれた。




