45.宣誓供述書(1)
宣誓供述書
私、クレール・アグネーは、正義の女神ユスティアの御名において、以下の事実が真実であることを宣誓いたします。
私は、本年7月25日、リシャンディエール城の庭園外縁部にある通称「嘆きの崖」において、自称ジェラール・コルネイユを転落死せしめ、本年8月6日、同城の客室内において、モン・コルビエ子爵家ジャン=リュック卿の未亡人、ジョルジェット・ベルタ・マルグリット・ド・ヴァランスを、同客室にあった金属製の花瓶で殴り、殺害いたしました。
これらはすべて私一人の独断であり、共犯者は存在いたしません。
シムノー公爵ご夫妻には、長年眼をかけていただいていたのに、このような仕儀となり、本当に申し訳なく思います。
すべての始まりは、3年ほど前、伯母君であるレディ・ジョルジェットに会うため、魔導騎士団エドモン・ニーン少尉がリシャンディエール城を訪問したことです。
ニーン少尉は、レディ・ジョルジェットの末の妹君がニーン騎士爵家の子息に嫁ぎ、儲けた方です。
レディ・ジョルジェットは、子がないまま夫君を失った上、生家と婚家の不和により、両家から弾き出された不幸せな方で、友人であるシムノー公爵夫人ベアトリス様を頼って暮らしていらっしゃいました。
レディ・ジョルジェットは、苦難の多い人生を歩むうち、盗癖という悪癖に染まってしまわれ、お身内にも、多くの友人にも見放されていたのです。
ただ、父君を早くに失われ、苦労して魔導騎士団の騎士となられたニーン少尉だけは、騎士学校時代に、レディ・ジョルジェットから支援を受けていたこともあり、伯母君を慕い続けていらっしゃいました。
レディ・ジョルジェットは、持参金の多くを婚家に奪われ、わずかな信託財産と婚家に押し付けられた沼地くらいしかお持ちではありませんでしたが、ニーン少尉を相続人に指定しておられました。
ニーン少尉は、魔導騎士団の騎士とは思えないほど、優しい、優しすぎるほどの方でした。
少尉が2度目に城を訪れた時、私たちは将来を誓いあいました。
彼は、魔導騎士団で、孤独でした。
彼と似た人は、周りにいなかったから。
私もまた、リシャンディエール城で孤独でした。
私に似た人も、周りにいなかったから。
私たちは互いの孤独を知り、かえりみて、初めて自分達が孤独だったことを知りました。
そして、この人と手を取り合えば、きっと幸せになれると信じたのです。
私は、すぐにでもニーン少尉に嫁ぎたかった。
彼と一緒なら、どんな苦労でもできると思っていました。
けれど、彼の考えは違いました。
ただの少尉、しかも資産を持たない身では、各地を転戦しつつ暮らすほかない。
子が生まれ、育てるとなった時、もしその子に才能があっても、十分な環境を与えてやることは難しい。
まずは、まとまった資金を貯め、その後に結婚しようと彼は私を説得しました。
思えば、私と結婚すれば、レディ・ジョルジェットに縁を切られると彼は予測していたのでしょう。
彼は、私への手紙も町の郵便局留めで送ってきました。
しかも、町の噂にならないよう、女性の名前で。
伯母君の援助も遺産も期待できなくなる以上、結婚は十分な資金が貯まってからでなければならない、それまで誰にも知られてはならない、彼はそう考えたのです。
しばらくして、彼はもっとも危険な「魔の森」付近の任地に配属されたと手紙で知らせてきました。
みずから志願したのです。
「魔の森」ならば手当も多く、戦果を上げれば、出世もできます。
3、4年も頑張れば、結婚資金が十分貯まるだろうと、彼は喜んでいました。
私は、彼にそんなことはしてほしくなかった。
心配で心配で、毎朝「魔の森」のある東に向かって、今日一日、彼が無事であるよう、祈りを捧げてきました。
公爵閣下は若い頃、魔導騎士団で活躍された方。
片眼を失った「魔の森」がどれほど恐ろしいところなのか、生々しいお話をしてくださったことがあったからです。
彼は魔獣狩りに励み、半年に1度の休暇の折りには必ずリシャンディエール城を訪ねてくれました。
周りに気取られないようにしなければならないのは大変でしたが、彼の顔を見て、その声を聞けることは至上の喜びでした。
森の中を、こっそり二人きりで散歩できたこともありました。
ですが、あと1ヶ月ほどで、彼がまた来てくれるという時に、コルネイユが城にやってきました。
コルネイユは、レディ・ジョルジェットに取り入り、例の沼地に魔石が埋まっていると言いはじめました。
レディ・ジョルジェットは、その話に食いつきました。
彼女にとって、その話は救いの光だったからです。
しかし、シムノー公爵閣下は、逆に心配されました。
彼女の沼地は、もともとは生家が持参金として用意した資産であがなったもの。
実は莫大な価値があったとなれば、生家も婚家も手を尽くして彼女から取り上げるだろうというのです。
閣下がレディ・ジョルジェットに説明された時、私も同席しておりました。
そんなことになったら、きっとエドモンは弾き出されてしまう。
困ったことになったと思いました。
コルネイユは、私に関心があるようでした。
沼地で魔石を発見したことを発表したら、自分の名も上がる、大金持ちになれるなどと気を惹こうとしてきました。
そんな発表、私は絶対にしてほしくないのに。
7月25日の昼、コルネイユは、今夜、散歩につきあってほしいと声をかけてきました。
ちょうど満月の夜でしたから、中庭を少し歩くくらいなら問題なかろうと思いました。
魔石の発見を公表するのは、もっと後にしてほしいと、頼みたかったからです。
ですが、コルネイユは言葉巧みに、中庭から外れた木立に私を誘導し、沼地で見つけたという魔石のかけらを私に押し付け、自分のものになればいくらでも贅沢をさせてやるなどと、つまらないことを言い始めました。
無理やり抱きすくめられかけて、突き飛ばして逃げました。
コルネイユは怒り狂って、追ってきます。
必死に逃げ惑ううち、庭園の北にある、通称「嘆きの崖」という崖の近くまで来てしまいました。
大暗黒期の末、魔獣の大群から逃げて来た人たちが、リシャンディエール城に逃げ込めば助かることがわかっているのに、崖が越えられなくて何百人も亡くなった伝説が残っているところです。
コルネイユと私はもみ合いになり、私は咄嗟に魔力をそのまま放ちました。
あの男は、間の抜けた顔で、カンテラを握ったまま後ざまに崖から落ちてゆきました。
でも、あの男はただの詐欺師だったのですね。
バティスト卿は、コルネイユの言うことはおかしい、まともな技師とは思えないとはっきりおっしゃっていました。
卿は正しかったのです。
若君方がいらっしゃる前に、コルネイユの言葉を信じ込んでしまっていたレディ・ジョルジェットや私は、バティスト卿はわざと難癖をつけているのだと思いこんでおりました。
バティスト卿は、ご友人のフレデリック卿の母君であるレディ・イレーナにやけに馴れ馴れしいコルネイユを一目で嫌われたのが、明らかだったからです。




