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39.屋上の決戦

「……グスタフ。この城、紅首鳥がいるのね」


 カタリナは空を見上げたまま、訊ねた。


「ええ。城のてっぺんの給水塔の屋根に、代々住み着いとりまして。

 今のつがいに代わって、4、5年になりますかの。

 近在で一番強いつがいがここに住むけん、『空のお館様』『空の奥様』ちゅうて呼んどります」


「あら、かっこいい。

 確か、紅首鳥って、カラスみたいにピカピカしたものを集めるのよね?」


「さいです。巣を飾り立てて、他のつがいに、ワシらはこんなにイケとるんじゃいうて見せびらかすんですわ。

 雛が巣立つと、一度自分で壊して巣を造りなおすけん、その時期は落ちてきた古い巣の掃除が大変らしゅうて。

 わけわからんものが混ざっとるから、ようよう調べなならんし。

 昔、値打ちもののハットピンが出てきて、誰のもんじゃいうて大騒動になったと聞きました」


「そう。巣を造り直すのって、いつ頃なの?」


「雛の巣立ちが、だいたい5月の終わりか6月の頭。

 今はもう、新しいのが出来て、せっせと飾りよるでしょう」


 カタリナは、きらんと眼を輝かせた。


「グスタフ。わたくし紅首鳥の巣を調べたいわ。

 今すぐによ!」


「え? 今すぐ??」


 グスタフが目を白黒させる。


「そりゃいったい、どういうアレだ?

 こっちは、お嬢様の気まぐれに振り回されてる暇はないんだが」


 カトー大尉が、カタリナに噛みつく。


「だーかーら! 犯人はレディ・ジョルジェットと揉み合い、決定的な遺留品を窓の外に残してしまった。

 レディ・ジョルジェットがぶん投げたんじゃないかと、わたくしは思っているけれど」


「な、なんでだ??」


「付け襟が、後ろから引きちぎられていたからよ。

 大切な物を、外に投げ捨てようとするレディ・ジョルジェットを止めようとして、犯人は付け襟を引っ張ったんじゃないかしら」


「あ」


 ソレルとルシアン、カトー大尉は顔を見合わせた。

 確かに、絵的にはしっくり来る。


「でもその場では、投げ捨てられた証拠を回収する余裕はなかった。

 だから、犯人は深夜、魔法で光を灯して、ローズマリーの茂みを探したのよ」


「で??」


「昨日のお昼に、わたくし達もこの茂みを探したのに、それらしい物は見つからなかった。

 犯人は無事証拠を回収したんだろうって思いこんでいたけれど、また探しに来たってことは、回収できてなかったってことじゃない」


 カタリナはローズマリーの茂みのあたりを指した。


「いくら『ライト』で照らしたって、雨の夜にこんな大きな茂みを探すのは難しい。

 あなた達、警備の者だけじゃなく、従僕達も城の内外を警戒してるんだから、その隙を突かなきゃならないんだし。

 犯人は、最初の夜、探し物を見つけることができなかったのよ。

 そして、翌朝、朝イチで紅首鳥が見つけて、巣に持ち帰った。

 そうとしか、考えられないわ!」




 というわけで、大騒動になった。


 紅首鳥が巣をかけているのは、屋上にある給水塔の屋根のてっぺん。

 執事の指揮で、城の営繕を担うお抱えの職人達が、長梯子を抱えて屋上まで上がった。

 グスタフ以下庭師達もくっついてくる。


 朝っぱらからなんだなんだと、公爵もやってきた。

 原稿は無事あがったそうで、ソレルは恐懼した。

 バティストも合流したが、フレデリックはまだ起きてこないそうだ。


 胸壁で囲まれた本館の屋上は、奇妙な空間だった。


 城自体が高台にあるだけあって、見晴らしはとても良い。

 小高い丘が連なった間を流れ行く川。

 遠く、青く霞んでみる山並み。

 近くの宿場町が、おもちゃのように小さく見える。


 しかし、屋上は、あちこちに林立する煙突で、めちゃくちゃごちゃごちゃしている。

 鬼ごっこをしたら、永遠に勝負がつかなさそうだ。


 その一角にある給水塔は、小さな納屋くらいの大きさで、屋根は尖った四角錐。

 スレート葺きの屋根にはメンテナンス用の足がかりがあるが、壁にはなにもない。

 その屋根の縁に、職人たちがわらわらと梯子を立てかける。

 幸い、風はほとんどないが、紅首鳥が警戒心剥き出しで、威嚇するような鋭い鳴き声を上げながら、びゅんびゅん飛び回りはじめた。

 翼を広げると、1m以上ある鳥なので、なにげに怖い。

 登っている途中に襲われかねないので、グスタフの指揮で庭師達が竿を振り回す。

 しばらくやりあって、ようやく諦めたのか、鳥達はどこかに飛んでいった。


「私が行きましょう。

 誰か、梯子を抑えていてくれたまえ」


 ルシアンがジャケットをぐいっと脱いで、ソレルに渡してきた。


「伯爵閣下に、そんなことをさせるわけには参りません。

 この城を警備する責任者として、私が行きます!」


 カトー大尉も制服のジャケットを脱いで、なんでかソレルに渡す。


「こういうのは、慣れとるもんが行くのがええ。

 ワシが行きますけ」


 まだまだ若い者には負けないとばかり、グスタフが帽子を脱ぐと、カトー大尉のジャケットの上にぽんと置いた。


「なにを言ってるんですか! 一番若い僕が行きます!」


 バティストがいきり立って、ジャケットをさらに重ねてきた。

 ジャケット三着と帽子一つを押し付けられて、落としそうになったソレルはあわあわする。


 ふぬ、と四人の男は睨み合った。

 なんだかんだで、皆、カタリナの前でいいところを見せたいのだ。

 公爵が呆れ顔で仲裁しようとするが、全然まとまらない。


「面倒ね。わたくしが参ります。

 アドバン。皆様に下がっていただいて。

 ゼルダ。梯子を」


「は」


 カタリナはさくっと宣言すると、いつの間にか紛れ込んでいたゼルダに梯子を抑えさせた。

 乗馬用のドレス姿で、するすると上り始める。


「皆様、お下がりください。

 お嬢様のおみ足をちらりとでも目にしたら、この凶暴侍女がなにをするかわかりませんので」


 不穏なことを言いながら、仏頂面のアドバンが心配顔で寄ろうとする男性陣を押し返す。


「皆、下がれ」


 公爵がみずから下がり、皆、一斉に下がった。

 カタリナは、あっという間に屋根に取り付く。


 だが、撤退したはずの紅首鳥が、急に戻ってきた。


「あああああッ 危ないッ!!」


 鳥達は、矢のようにカタリナに襲いかかる。

 一羽は右上の上空から。

 屋上すれすれを飛んで来たもう一羽は、左下から。


 この近辺の覇者だけある、見事な挟撃体勢だ。


「ライト!」


 カタリナは、右上を振り仰いで、手のひらを突き出し、素早く叫んだ。

 一瞬、なにも見えなくなるほど強い光が閃いて、皆、慌てて腕で眼をかばいながら顔を背ける。


「防御結界ッ」


 カタリナは即反転して、左下の鳥には透明な魔力の「壁」をぶち当てた。

 げいん、と結構な音がする。


 あえなく、紅首鳥は二羽ともぼとりと屋上の上に落ちた。

 ひくひくもがいている。

 気絶したようだ。


「勝利! わたくしの勝利ですわ!」


 カタリナは、片手を天に突き上げた。


「鳥にしては悪くない作戦だったけれど、このわたくしを蹴落とそうだなんて、百億年早くてよ!」


 カタリナは、心地良さげに高笑いしている。

 鮮やかすぎる手並みにぽかんと口を開けたまま、男たちは拍手するしかなかった。


「というわけで、お宅拝見っと……」


 カタリナは、てっぺんまで上がると紅首鳥の巣を漁りはじめた。

 ぽいぽいと、放り投げられたがらくたが落ちてくる。


 夏至祭りの、ぴかぴかした飾りがついたガーランドの切れ端。

 なにかの金具。

 カフスボタン。

 キラキラ光るビーズでできた小銭入れ。

 外れてしまった拍車の歯。

 カーテンを留める、金色の房紐。


「……あったわ! これよ!」


 カタリナは、ペンダントかネックレスのようなものを掲げて確認すると、手にしっかり巻き付け、するすると屋根の上から降りてきた。

 危なげなく屋上に降り立ったカタリナのドレスと髪を、ささっとゼルダが整える。


 公爵が、足早に近づいた。


「カタリナ。なにを見つけたのだ?」


「魔導銀製のロケットペンダントですわ。

 これが、レディ・ジョルジェットが殺された理由……」


 カタリナはロケットを開き、公爵に中身をそっと見せた。

 公爵の顔色が、目に見えて変わる。


「……なんということだ……!」


 公爵は息を呑んで、軽くのけぞった。




 公爵は、ひどく顔色が悪い。

 カタリナも、沈痛な面持ちだ。


 どういうことなのか、誰も聞けないまま、撤収となった。

 紅首鳥は無事意識を取り戻し、「覚えてやがれ」とばかりに鳴き交わしながら、よたよたと大空に飛び立っていく。


「んあ? なんだ? あの制服は憲兵隊に見えるが」


 カトー大尉が、城の南側を指した。

 確かに下の街道に、騎乗した騎士が三騎見える。

 カトー大尉達と違い、ズボンに金色のサイドラインが入っている。

 城に向かっているようだ。


「憲兵隊?」


 はっと、公爵とカタリナが眼を見交わした。

 王立騎士団の憲兵隊は、貴族関連の犯罪の捜査も行う。


「レディ・ジョルジェットの件にしては、反応が早すぎます。

 コルネイユの件でしょう。

 あの男、やはり詐欺師だったようです」


 カタリナは、コルネイユの部屋から、ジョルジェットの地所の登記簿の写しが出てきたと告げた。


カタリナ「あら? 葉室先生からメールだわ…なになに? 鳥の巣を探せ??」(※26話の感想欄参照)


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ついにジョルジェットが殺された真相が……!! 全然関係ないのですが、庭師のグスタフさん、喋り方が僕の縁の地の方と訛りが似てるんですが、もしかしたら同郷なのでは…??w
 紅首鳥おっきいな!   習慣からしてカラスくらいの大きさかと思ってたら、サギとかコウノトリみたいな鳥なんですね。  昭和の白黒写真で、木の電柱の上にコウノトリの巣が乗ってるのを見たことありますけど、…
>>カタリナ「あら? 葉室先生からメールだわ…なになに? 鳥の巣を探せ??」 このカタリナ様が終始敬語を使ってそうな賢人の正体は…?
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