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36.疑惑はめぐる(1)

 とりあえず、夜も遅いし、今日はここまでとなった。

 血気盛んなカトー大尉は、今からジョルジェットの部屋の外を掘りに行くと言い出したが、地面を掘り返した跡など、今日調べた時にはなかった。

 範囲を広げて調べなおすにしても、夜中の捜索では見つけにくいし、明日の朝にしなさいとカタリナに諭され、部下に全力で頷かれたカトー大尉は諦めた。


「くへー……なんというか、疲れましたね……」


 客室棟一階の小サロンで、ソレルはへにょりとなった。

 今日の総括がてら、夜のお茶でもとなったのだが、カタリナの部屋で飲もうとしたら、アドバンに「こんな夜中に、令嬢の部屋で?」と片眉を上げられたのだ。


「ほんとね。城の中を右往左往していただけなのに」


 ルシアンは指折り数え始めた。


「まず、使用人の調査票の整理と分析。

 メイドのアリエルの聞き取り。

 レディ・ジョルジェットの部屋の調査。

 休憩を挟んで、レディ・ジョルジェットの窓の外の調査。

 コルネイユの部屋の調査。

 レディ・イレーナへの聞き取りと手紙の回収。

 レディ・ベアトリスへの聞き取り。

 遊戯室の調査。

 コルネイユが転落した崖の調査。

 レディ・ジョルジェットの遺体の調査。

 テレサの聞き取り……と。

 なかなかの一日でしたね」


「コルネイユの話が、急に出てきたのがね……

 それにしても、実質、明日一日しかないの、さすがにキツいわ」


 カタリナは唇を噛んだ。


「いやしかし、さっきの様子だと、カトー大尉はテレサを無理に告発しないんじゃないですか?」


 寝る前なのでと、アドバンが淹れてくれた、ほんのり甘いハーブティーを飲みながら、ソレルは首を傾げた。


「どうかしら。

 明日の朝、襟飾りは埋められてなかったってなったら?

 あなたが見たのは人魂、やっぱり犯人はテレサだと意気揚々と宣言しかねないわ。

 『よしッ わかったッ 犯人はやっぱりテレサだッ!』てね」


 カタリナは、カトー大尉の例のアレを完コピして見せた。

 やたらめったら再現性が高いが、全然笑えない。


「確かに。そもそもあのあたり、物を埋めにくい気もするんですよね」


 建物の周辺は石畳。

 庭の周囲は芝生で埋められ、土が露出しているのは、ローズマリーなど灌木の下くらい。

 もうちょっと範囲を広げれば花壇もあるから、そちらかもしれないが。


「でしょ?」


 カタリナはため息をついた。


「しかし、パズルのピースはかなり揃ってきているはずです。

 あともう少しで、絵が見えてくるのでは」


 身を乗り出して、ルシアンが励ます。

 カタリナは苦笑した。


「……十中八九、これかな、と思うことはあるの。

 でも、確証はないし、どうやって立証できるのかもわからなくて」


 ソレルは驚いた。

 こっちは五里霧中なのに、カタリナには犯人のあてがあるというのだ。


「それは、一体いつ掴んだのですか?」


 勢い込んで問うルシアンに、ふふ、と笑ってカタリナは誤魔化した。


「吹けば飛ぶようなうっすい状況証拠が、たなびいているだけなのよ。

 それに、動機がね……

 なぜレディ・ジョルジェットは、殺されたのか。

 そこをはっきりさせないと、どうにも」


 珍しく、カタリナの顔が曇っている。


「ほんっと難しいわ、この事件。

 明日は、どうしよう……」


「まだ、秘書のクレール・アグネーに話を聞いてないじゃないですか。

 彼女は第一発見者です。

 あの時の説明以外にも、なにか見聞きしているのでは?」


 ルシアンはカタリナに提案した。


「それに、公爵閣下のお話も聞いてません。

 そうだ、フレデリック卿は?

 晩餐では、妙に沈んでいらっしゃる様子でした。

 なにかお気づきのことがあるのかも」


 ソレルものっかる。


「そのあたりから、かしらね……」


 カタリナは、気のない様子で頷く。

 傍に控えていたアドバンが、一歩進み出た。


「お嬢様。手詰まりならば、お休みになるのが一番かと。

 いずれにせよ、明日は犯人を追い込まねばなりません」


「……そうしましょうか」


 カタリナは立ち上がると、ぐぐっと伸びをした。

 猫のような仕草だ。


「じゃ、明日の朝は8時半集合ってことで。

 どこから取り掛かるかは、状況次第ね。

 ソレル、起きられる?」


「お、起きます。たぶん!」


「よろしくね。ちゃんと起きないと、アドバンが起こしに行くわよ」


 カタリナはソレルを軽く脅して笑うと、ひらひらと手を振り、アドバンを従えて階段を登っていった。




 ルシアンと別れ、ソレルは部屋に戻った。

 ベッドは綺麗に整えられ、寝間着なども用意されている。

 カーテンも閉ざされ、あとは寝るだけだ。


 まずは風呂に入ることにした。

 シャワーでは疲れが取れないので、湯を溜めてミントを混ぜたバスソルトのサシェを放り込み、脚を伸ばして温まる。


 カタリナは、犯人の目星がついているようなことを言っていた。

 一体、誰なのだろう。


 ソレルが気になるのは、やはりイレーナだ。


 コルネイユ死亡時のアリバイは一応あるが、ジョルジェット殺しについては、ぎりぎり機会もあるし、動機もある。

 カタリナはぼかしまくっていたが、過去のいざこざ──おそらくは道ならぬ恋をうっかりジョルジェットに相談し、結果的に弱みを握られる形になっていた雰囲気だ。

 実際、ジョルジェットの部屋に入って、手紙を持ち出したりもしている。


 しかし、手紙を取り戻したかったのなら、なぜ殺した時に回収して、さっさと焼いてしまわなかったのかという問題がある。

 殺害が発覚した時点で、徹底的な捜索が行われていても、おかしくなかったのに。


 ま、そうならなかったのは、イレーナがカトー大尉に飛び出していったフレデリック達を探すよう命じたから。

 最初から、ジョルジェット殺害後は晩餐に遅れて目立ったりしないよう、ただちに控えの間に向かい、巧く近衛騎士を誘導して外部犯捜索に向かわせ、その隙に手紙を隠滅するつもりだったのではないか、と疑うことはできる。


 次は、フレデリック。


 母親が詐欺師同然の男に引っかかっていたなど、20歳の大学生には大変な恥辱だ。

 もし、イレーナとコルネイユの関係に気づいていたのなら、コルネイユ殺しの動機は十分にある。

 仮にコルネイユをホイストの合間に殺し、深夜、手押し車を庭師の倉庫から持ち出すとかして、崖まで運んでいったとする。

 それを、たまたま起きていたジョルジェットが目撃したとしたら──


 いや、どうだろう。

 フレデリックの部屋は、中庭とは反対側だ。

 北側の崖に運ぶのなら、わざわざ中庭を経由するより、どこで殺したにせよ、まずは自分の部屋に死体を引き込み、窓から外に出した方が絶対にいい。

 中庭を経由しないのなら、ジョルジェットが目撃する機会はほぼほぼない。

 

 そもそも、今日の昼、コルネイユの話を持ち出したのはフレデリック。

 その時、イレーナを気にしていたようだった。

 つまり、あの時点で、フレデリックはイレーナとコルネイユの関係を明確に掴んでいたわけではなく、軽く蒸し返して、母の反応を見たいくらいのところだったのではないか。

 そして、イレーナは感情的に反応し、フレデリックは後を追った。

 その後なにがあったのか、晩餐にイレーナは欠席、フレデリックは沈んでいるという流れになる。

 母と息子の間でいさかいでもあったのではと思うが、フレデリックがコルネイユを殺していたのなら、さすがにカタリナの前で引き合いに出さないだろう。


 それよりも──

 もし、イレーナの過去の「過ち」が、仮にフレデリックを妊娠した頃の話なら。


 フレデリックが、浮気相手の子ではないかと疑われる可能性が、出てくる。

 ジョルジェットが暴露するつもりはなくても、彼女は母子にとって致命的な脅威となる。

 ジョルジェットと彼女が持っている手紙を、なにがなんでもこの世から消し去りたいと決意してもおかしくない。


 ベアトリスがジョルジェットをこの城に招いて三年。

 一度は社交界から消えたと思っていたジョルジェットが実家に居座っているのは、イレーナにとって強いプレッシャーになっただろう。

 とうとう、イレーナはフレデリックに自分に都合の良いように「苦境」を打ち明け、母子はバラバラに城にやって来て、ついにジョルジェットを取り除く──


「あ。でも……違うか」


 ソレルは、ぽつりと呟いた。


 昼餐の時、フレデリックはジョルジェットのことを「毒にも薬にもならない」と揶揄していた。

 あの時の表情は、素でそう思っているとしか見えなかった。

 それに、そういう思惑で城に来たのなら、いくらなんでも、イレーナはコルネイユと関係を持ったりしなかっただろう。


GW終わってもうた…

次回から、朝更新とさせていただきます。

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― 新着の感想 ―
>GW終わってもうた… あ、いきなり朝に更新になっていたのはそういうことでしたかw おつかれさまでございます(ToT) 作品と関係ない感想ですみませんm(_ _)m
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