32.暗闇で光り輝くもの
「チッ!次から次へと!僕達と魔王様の崇高なる計画を邪魔するなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
飛び込んできたリブに浴びせられる、ルシストの怒号と魔王の使徒による一斉攻撃。
魔力の光弾、矢を模した炎、空気の鎌、氷の剣雨。
その悉くをリブは——
「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
たった1本の剣と、己の技量をもって、打ち落として見せた。
光弾は面で捉えて弾き返し、炎の矢は横薙ぎに掻き消し、空気の鎌は縦斬りに霧散させ、氷剣の雨は1本ずつ無駄なく叩き壊す。
誰がどう見ても、完全に達人の動きだった。
「なぁ!?」
魔王の使徒の魔法師逹は、その光景に言葉を失う。
そして、それを後ろから静観している俺も。
いや、本当に規格外すぎるだろ……
「アンデットの肉体は本当に便利だな。私の直感の反応に、身体が無限に着いてくる。今ならどんな高速魔法でさえ斬り払えそうだ」
当の本人は、魔法攻撃の雨霰を全て跳ね除け、そんな事を言い出す始末。
あー、そうだった。
コイツはアンデッドだから体力無限、オマケに死体だから身体能力の限界を無視して身体を動かせる。
だから人間離れした達人の動きを、遺憾無く発揮できるわけだ。
改めてとんでもない奴を作り出してしまったと、俺は自分がしでかした事の重大さを改めて思い知る。
「ば、化け物が!」
ルシストが魔力を練った瞬間——
リブが駆け出し、懐に飛び付く。
「なにっ——」
反応が遅れたルシストに、リブが剣の面をぶち当てた。
「寝ていろっ!」
そのまま横薙ぎに払い、吹き飛ばす。
「ぐはっ——」
周りにいた魔王の使徒も何人か巻き添えに、倉庫の床を転がるルシスト。
他の奴等も、自分達の魔法を全て叩き落とした規格外を前に、どう動いて良いか分からない様子で固まっている。
そんな奴等を他所に、リブは俺の方へ駆け寄ってきた。
「すまない!遅くなった!」
焦燥に駆られたような表情で謝ってくる。
まぁ、実際のところ、俺も煽り過ぎて結構ギリギリだったしな。
「間に合ったなら結果オーライだ……」
そう笑って答えてやると、リブも小さく笑みを浮かべた。
「本当に行き当たりばったりな奴だ」
そう言うと、俺の体に刺さったままの氷剣に手を伸ばす。
「少しばかり乱暴するから歯を食いしばれ」
「……あ?」
何言ってんだ?
尋ねる前に、リブは俺の体に刺さった氷剣を引っこ抜いた。
「……ぐぎっ!?い……痛ってぇ……」
完全に不意打ち。
体に突き刺さった異物を動かされる度に激痛が走り、思わず弱々しい声が漏れる。
そんな俺に構う事なく、次々と氷剣を抜いていくリブ。
「もっと……丁寧に抜いてくれ……!痛みで意識が飛ぶ……!」
「これくらい我慢しろ!仮にも冒険者だろ貴様は!」
無茶言うなボケ。
冒険者だろうが騎士団だろうが、体の痛みに悶絶するのは生物の必然的反応だろうが。
「生に執着するクセに、無茶をする奴だ!」
説教じみた言葉を吐いたリブは、氷剣を抜き終えると、治療用ポーションの瓶を俺の口に押し当ててきた。
緑色の薬液を無理矢理流し込まれ、口いっぱいに広がる独特の青臭い苦味に顔が歪む。
オエッ、吐きそう。
強引に喉へ流し込み、息を深く吸う。
あまりの不味さに体が震えた。
「うえぇぇ〜……ホンット……治療用ポーションの味慣れねえなぁ……」
薬の味に項垂れながら、刺された傷が徐々に塞がっていくのを感じる。
昔から何本も飲んではいるが、この手の味はどうも好きになれない。
「良薬口に苦しだ。傷が塞がったなら立て」
「無理だ。見ての通り身体が縛られて動けないもんで。これ切ってくれ」
俺がそう言うと、リブは剣で縄を手早く切り解いた。
自由の身となった俺は、早々に立ち上がって痺れる手足を軽く振った。
「ふぅ〜。これでようやく魔法が使えるな」
「何だ?この縄には魔法を封じる効果でもあったのか?」
「あぁ。魔法式の構築を阻害する効果があってな。お陰で死霊魔法もロクに使えなかったよ。ったく、こんなモンまで持ってやがるとは、用意周到な連中だ事で」
きっと、来たる聖天教との戦いに備えていたんだろう。
この程度の小細工で、あの暴力聖女様が止められると思えないけどな……
「では、そんな小細工を受けながら、貴様はどうやって私に声を送ったんだ?」
あぁ、コイツは俺の命令の声を辿って此処まで来たんだもんな。
そりゃ気にもなるか。
「コイツはそもそも『新たに構築される魔法式の阻害』が出来るだけで、もともと施法されてる魔法式はコレじゃ解けねえよ。だから元々アンタにかけてた『リバイブ』の魔法儀式には作用しねえ。だから俺は、元々作ってたアンデッドに声を届け放題だったってカラクリよ」
俺とリブは、死霊魔法の儀式によって目に見えない魔力の繋がりができていて、死霊魔法の命令はそれを介してリブに伝えられる。
だから、魔力さえあれば、リブに命令を聞かせる事も出来る。
たとえ、この城塞都市内で別行動を取っていたとしても。
「分かるか?選ばれし者気取りの自称福子くん。アンタは俺に、『魔法式構築阻害』じゃなく、『魔力そのものを阻害する拘束』を掛けるべきだったんだよ。そうすれば、完全犯罪が成立して、今頃俺を排除できてた」
視線をリブから外し、フラフラと立ち上がるルシストに向ける。
「……なるほど。僕の勧誘を長々と悠長に断ったのも、そのオモチャを呼び寄せる為か……」
脇腹を抑えながら、ルシストは俺の手口を推理する。
声が震えてるところを見ると、あばら骨にヒビでも入ったか?
そんな状態でよく立ち上がったもんだ。
「人聞きが悪いぜ?コイツは俺のオモチャじゃなくて契約相手。面倒で手のかかる、旅の連れだ」
隣に立つリブを親指で示し、俺は答えた。
「外道の死霊魔法師風情が……!死体を旅のパートナー扱いか……!」
よろける足を一歩前に、俺逹を睨み付けるルシスト。
まぁ、そうだよな。
自分でもどうかしてると思うよ。
散々死を弄んで来た俺が、今更コイツだけ、願いを聞いてやろうだなんて。
やっぱり、慣れないことはするもんじゃない。
まぁ、その言葉を撤回するつもりもないがな。
「貴様にこの男を外道と罵る資格はない。この犯罪者予備軍共が。コイツを外道と罵って良いのは、コイツの死霊魔法で弄ばれた死者本人か、清く正しく生きてきた善良な市民だけだ!」
隣に立つリブが、一歩前に出てルシストを睨み返す。
魔力の声垂れ流しで、俺とコイツの会話はリブも履修済み。
コイツらの計画も動機も、リブには丸分かりだ。
「貴様ら、魔水晶だけでは飽き足らず、魔石まで大量に盗み出しているな?そのおかげで魔石が高騰し、アレビラ砂丘の生態系を脅かしかけている始末」
どうやらリブはリブで、コイツらへ通ずる手掛かりを得ていたらしい。
魔石に、魔水晶の大量盗難。
なるほど。
聖天教に正面切って喧嘩を売れるような自信は、盗んだ魔石や魔水晶の備蓄が源だった訳だ。
「その負荷を負うのは、貴様らの魔王信仰とは縁もゆかりもない、この都市の人々なのだぞ!貴様らの身勝手で、ただ平穏にこの都市で暮らしている人々の生活も脅かされているんだ!」
張り上がるリブの怒号。
調査の過程で、この都市の空気に触れたようだな。
住民の事まで考えてやがる。
いや、コイツなら、そうでなくともこう言うだろう。
いつだって、他人のために成せることを全力でやり通す。
その真っ直ぐな生き方が、俺にはただ眩しい。
俺や、ルシスト逹が今まで生きてきた暗闇の中で触れる事の出来なかった光を、コイツは爛々と放っている。
少なくとも、俺の目にはそう映ってしまった。
「貴様らは外道と呼ぶにも不相応な、正真正銘の悪党共だ!何の関係もないセガナドの民を、自分達の思想に巻き込んで滅ぼすような、身勝手極まりない最低最悪のクズ共だ!狂人共に、ネクロを外道とも、忌み子とも罵る権利などない!」
立つのもやっとな様子のルシストに、リブは切先を向ける。
死してなお失う事なく放ち続ける、眩いほどに高潔に輝く、霊魂を内に秘めて。
「貴様らのその捻じ曲がった感情!歪んだ思想もろとも、叩き斬ってやる!」




