19.たとえ外道と呼ばれても
洞窟調査の依頼から、数日が経った頃——
「だぁぁぁぁぁっ!!邪魔くせえなこの植物!」
視界を埋め尽くさんと、ウヨウヨ動く蔦を切り落としながら、俺は前へ進んでいく。
死体から貰ったこの剣も、リブのと模擬戦闘で得た付け焼き剣技も、これだけの数の前では役に立たない。
「チッ!炎魔法が使えればなっ!」
隣で応戦するリブも、歯痒い思いをしながら次々と襲ってくる植物を斬って回る。
現在俺達は、ガイセルから離れた森の中を進んでいた。
盗賊達を捕らえた謝礼金を受け取り、いよいよリブの故郷へ向かう旅を進めた矢先にこれだ。
小型から大型まで、夥しい数の植物魔物地獄。
植物型の魔物が多く生息するこの森は、侵入者を簡単に進ませはしないらしい。
「やはり迂回した方が良かったんじゃないか?」
「セガナドの街に行くにはこの森突っ切った方が早いだろ!」
「それで命を落としたら元も子もないだろうが!貴様が死んだら私も死体に戻るんだろう!?」
「あー言えてる!クッソ!事前に森の生態とかあれこれ調べとくんだった!」
「やはり貴様は何処か詰めが甘い!」
ギャーギャーと口論を繰り広げながら、次々と襲ってくる蔦を斬り裂いていく。
斬っても斬っても、襲い掛かる植物の数は一向に減らない。
蛇のようにうねる蔦の包囲網を切り崩しながら、俺達はとにかく前へ進むしかない。
「おい、ネクロ!貴様の死霊魔法でなんとかならんのか!このままではジリ貧だぞ!」
「植物に降霊の魔法は効かねえし、ゴーストボールぶつけても青植物だからそんなに燃え広がらねえ!こっちも打つ手なしだよ!」
「クッ!やはり『オーバーアクセル』で、一気に薙ぎ払うしか——」
「ダメだッ!」
自分のリミットを外そうとするリブを、俺は強く止めた。
「アンタはもうあの技使うな!次体を大きく損傷したら、今度こそ他の死体を移植する事になるんだぞ!」
「構わん!最悪顔さえ無事だったら、家族も私と認識してくれるだろ!」
「だから、『やめろ』っ!」
聞き分けのないアンデッドめ!
長らく使っていなかった、強制命令のルーツ語を放つ。
リブの体に呪いが作用し、自由を奪う。
「なっ!?貴様、何を!?」
リブに襲いかかる蔦を、前に出て斬り捨てる。
「仮にアンタがツギハギだらけの死体で故郷に戻ったら、アンタの家族は俺に何を言う!どうせあられも無い疑いをかけて、聖天教にチクるのがオチだ!アンタの体は、そのままの体で送り届ける必要があるんだよ!」
「貴様……こんな時まで保身の事か!見損なったぞ外道!」
「……なんとでも言えよ!俺は元々『忌み子』だっ!」
たとえ外道と呼ばれても、俺は死にたくねえんだ!
俺は手持ちの死霊達を解き放ち、手のひらに集める。
そこに大量の魔力を注ぎ込み、ゴーストボールを生み出す。
いや、まだだ!
「ゴーストボールの火力じゃ足りない!なら、存在進化させりゃあいい!」
いくら弱いと言えど、ゴーストボールも歴としたアンデッドの魔物。
条件が揃えば、より高位の魔物へと、存在進化を遂げる。
条件は、大量の死霊と魔力。
俺の手持ちじゃ数が足りないが、それでも構わない。
死霊の数が足りないなら、周りの魔物を殺して補充する。
俺は死霊魔法師。
死霊と死体、死を弄ぶ事に特化した、外道の中の外道だ。
襲い来る植物型魔物達を、俺は次々と剣で斬り裂き、そいつらが持つ霊魂を、死体から引き剥がして成長するゴーストボールに与えていく。
掌ほどのゴーストボールが、どんどん大きくなっていく。
動けないようにしたリブに襲い掛かる魔物達も、俺の手で仕留めていく。
数十体ほどの死霊を与えたゴーストボールは、俺と同じくらいのサイズにまで膨れ上がった。
俺の全魔力の半分ほど注ぎ込み、条件は揃った。
蒼い炎が蠢き、形を成していく。
四足歩行の鋭い顔、ゆらめく炎は毛皮に。
目に映ったあらゆる生物に襲いかかり、その魂を焼き尽くす。
『ヘル・ブレイズ』。
ルーツ語で冥界の炎を意味するその魔物は、アンデッドの上級に位置する魔物。
膨大な魔力を持ったゴーストボールが、大量の死霊を取り込む事で辿り着く、進化の先だ。
『グルウォォォォォォォォォン』
蒼炎の獣は、空に向かって遠く吠えた。
強者の圧倒的存在感に、周りの植物型魔物達は怯む。
さあ、狩りの時間だ。
俺は急いでリブを抱え、木蔭に身を隠す。
瞬間——森の中が青く爆ぜた。
ヘル・ブレイズが吐いた炎の息は、周りを取り囲んだ魔物達を瞬く間に消し炭に変える。
圧倒的火力。
その力の前に、植物達はなす術なく蹂躙される。
「ハッハ……こんな馬鹿げた話あるかよ……」
あんな化け物を生み出しておいて何だが、いくらなんでも滅茶苦茶だ。
緑生い茂る地に、蒼炎が迸る。
俺達を襲った植物地獄は、別の地獄へと姿を変えた。




