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幕間1.忌み子の生きる道


「——死体を見るのは慣れないか?小僧」


 涙を流しながら胃の中身を吐き出す俺を見向きもせず、その人は尋ねた。


 ちがう、そうではない。

答えたくても、迫り上がってくる胃酸が邪魔をして、言葉を発することができなかった。


 確かに、目の前にはおびただしい死体の山が広がっている。

甲冑を着た沢山の大人たちが、異臭を放ち、地面を赤黒く染めていた。


 普通なら、たった4年の生の中で、こんな光景を見る事はない。


 けど、俺はこんな光景を見ても、別に何とも思わない。

俺は三週間前まで、死体の山に隠れて過ごしていたから。

だから、見るだけなら平気だ。


 だけど——


「くるしい……あつい……いたい……あたまのなかで、だれかがずっと、そういってくる……!」


 胃の中のものを全て吐き出し、頭を抑え、呻きながら俺は答えた。


 今まで感じたこともない苦痛が、頭の中に伝わってくる。

まるで、自分が誰かの経験を無理やり受けさせられているような感覚だった。


 その人はふむ、と顎に手を置いて考える。


「『死の気配』、死霊の存在を認識し、感覚的な情報を受け取ることができる訳か。長い間死体の中に紛れていた副産物か、それとも、魔王の血族——『忌み子』として生を受けたが故の特質なのか……」


「……しれ、い?」


「あぁ。この世の生物達は皆、霊魂と呼ばれる命の根源を持つ。肉体が死んだ後、その霊魂は死霊となって、神の元へ誘われ、次の生が訪れるよう祝福を受けるそうだ。『善なる霊魂は死して器を離れたとき、天へと旅立ち、神の祝福を受ける。悪なる霊魂は死しても天へ昇る事を赦されず、アンデッドとなって世界に災いを振り撒く』とな。この世の理を説いた、聖天教の教えだ」


「じゃあ……ぼくがしんだときは……『しゅくふく』をくれないんだ……」


「ははっ、忌み子については、随分な嫌われようだからなな。神はそんな些事に構っているほど暇でもないだろうに。魔王が討たれて何百年も経ったというのに、人はまだそんな愚かな事を言うか」


 その人は、心底可笑しそうに笑うと、俺のそばに歩いてきた。

忌み子の俺を気味悪がるような事もなく、俺がそばにいるのを許してくれているかのようだった。


「人は弱い。時には悪と知られる事を犯してでも、生を繋ぎ止めなければならん。他の生物から生を奪ってでも、他人から財を奪ってでも、な。それで死後、魂が生まれ変われるかは神の勝手。この世界は、人が生きるには厳しすぎやしないか——っと、ガキに言っても分からんか」


 その人はツギハギだらけの手を、俺の頬に当てた。

その感触は死体に触れた時と同じく、一切の温かみを感じなかったのを、今でもはっきりと覚えている。


「おまえには、この厳しい世界を生き抜く(すべ)がない。6歳の小僧が平気な顔して生きていけるほど、緩い場所じゃないからな」


 その人は、忌み子と蔑まされ、実の両親すら見ようとしなかった俺の赤い目を、真っ直ぐ見つめた。


 冷たい眼差しに目を逸らしそうになったが、ここでそうしたら見放されるような気がして、俺はその人の目を見つめ返した。


「忌み子の少年よ。おまえは、人の道を外れる覚悟があるか?これから先、神に中指を立て、聖書に唾を吐きかけるような行いを繰り返し、人の恨みと憎しみを買い続ける。そんな人生を歩む覚悟があるなら、私が知る生きる(すべ)をくれてやろう」


 正直言って、その時は言われた言葉を半分も理解していなかった。

その決断に伴う結果も、想像してはいなかった。


 けど、後に発した俺の言葉に、その時の決断に、後悔はない。


 ——だって俺は、死にたくなかったから。

 ——俺には、それ以外生きる道がなかったから。


「——おねがいします!ボクに、『いきるすべ』をおしえてください!」


 こうして俺は、死霊魔法師——ネクロ・グレイブスとなった。

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