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18.魔王の血


 ——300年前、この大陸に1人の魔法師がいた。


 不滅の肉体、強大な魔力を持ち、世界の理に背き、この世の全てを支配せんとあらゆる暴力を振るった、最悪の魔法師。


 人はその魔法師を、魔王と呼んだ。


 200年に渡ってこの大陸に恐怖と絶望、憎悪を蔓延させたその魔王は、神々から力を与えられし英雄によって討たれたとされている。


 それから300年の時が経った今でも、魔王によって齎された悲劇は、この大陸の傷跡となって残っている。


 魔王が持つ、赤い瞳と黒髪を持つ人間を、『忌み子』と呼んで蔑むほどに、色濃く——


「——故郷の教会でそう教わった。そして、忌み子は魔王の子孫であり、世界にとっての危険因子だ、ともな」


 洞窟の岩に損傷した足を伸ばし、リブは大陸の昔話を語った。

そんな有名な話、大陸生まれの人間なら誰でも知ってるってーの。


 応援に駆け付けたギルド職員と騎士団に盗賊の身柄を渡し、連行されるのを見送った後。

俺はリブの足を治すべく、盗賊団の根城になっていた洞窟に戻り、リブの足の損傷具合を確認していた。


 生命活動が停止したアンデッドである故、骨折や切創などによる負傷の自然治癒が望めないリブの体は、施法者である俺の手で直すしかない。


 フードを外した俺は、リブのボロボロになった足に魔力を流していく。

忌み子である事が発覚した以上、コイツに対して素顔を隠す必要は無くなった。


 砕けた骨、千切れた筋繊維、破れた皮膚。

それら全てを魔力で繋ぎ合わせ、元の形に戻す。


 時間は掛かるが、死体の移植を嫌がったリブにはこの処置しか出来ない。


 で、修復を待つ間余程暇だったのか、大陸昔話を語り始める。

その意図は、まあ一つしかないだろう。


「200年生きた魔王が、子息を残したって記録は無い。だから、今忌み子と呼ばれてる人間達が本当に奴の子孫なのか、それを決定づける根拠なんてどこにも無いんだよ」


 リブの砕けた骨を慎重に繋ぎ合わせながら、俺は答える。


 魔王に関する記録は、殆ど残っていない。

300年前の大陸民達は、後世に伝える事を躊躇うほど魔王に恐怖していた、という事だろう。

今では嘘か本当かも分からない御伽話だけが、魔王の存在を仄めかす程度に伝わっている。

だから、出生や詳しい経歴、子息を残したかどうかなんて話も、魔王に関しては何も分かっていない。


 だが、不滅の体を持ち、200年も老いることなく生きたって話が本当なら、魔王が子息を作らなかった、という話は理にかなっている。

死ぬ事なく、永遠にこの世に君臨し続けられるなら、子を残す必要などない。


 魔王って奴は、生命の理から逸脱した存在。

子孫繁栄、種の存続などという生物的欲求が生える余地など無かったのだろう。


「それに、魔王は規格外の魔力を持っていたって話だ。今の魔力基準で換算すると、大陸で一番栄えている国の魔法師全員分集めても足りないんだとさ。俺には到底まかなえない魔力量だな」


 本当に俺が魔王の子孫だったら、師匠の魔力量をも凌駕し、とっくにあの人を超えていたはずだ。

たった一度、デッドリーパレードを施法するだけでぶっ倒れる俺が、片手から魔力を垂れ流すだけで30倍以上のアンデッド軍勢を生み出す、あの師匠に、だ。


「フッ。俺よか師匠の方が、よっぽど魔王の血縁者だな……」


 一度だけ見た事のある、師匠が生み出したアンデッドの軍勢を思い出し、変な笑い声が漏れた。

あの人本当に規格外だわ……


「聖天教の教えによると、便宜上子孫って呼んでるだけで、本当は英雄によって討たれた魔王の魂が大陸各地に散らばって、生まれる前の赤子に宿って、転生を企ててる、なんて話もあるらしいぜ。アイツらは何処まで忌み子を忌み子たらしめたいんだろうな?」


 ハッハッハ、と笑いながら骨の修復作業を進める俺。

もう笑うしか無いだろう。

全ての人に祝福があるよう神に祈る教会ですら、忌み子をそんな風に扱うんだから。


「まさか、貴様が忌み子だったとはな……道理でフードを取るのを嫌がった訳だ」


 砕けた骨を全て繋ぎ終えた所で、リブが神妙な顔でそんなことを言って来た。


「……さっき、盗賊に対して、自分は親に捨てられたと言っていたな。その理由も?」


「ハッ、当たり前だろ。魔王の子孫か生まれ変わりだって騒がれる存在を、誰が育てようとする?マトモな感性してたら、誰だって捨てるだろうさ」


 手が狂いそうになるので、一旦作業を止めて答えた。


 実の両親に抱いている感情は、本当にそれだけだった。


 俺は捨てられるべくして捨てられた。

それに対する恨みも、怒りも、抱いたところでどうしようもなかったから。


 大陸の地方や国によっては、忌み子は存在が露見しただけで、聖天教によって裁判なしの極刑、赤子ですら聖なる炎で浄化されるって話だ。


 それを聞けば、俺はただ捨てられただけマシだったかも知れない。

それが、実の親が俺にくれた、たった一度の慈悲だったのかもな。


「貴様は、魔王を恨まなかったのか?もし、過去に魔王が存在していなければ——そう考える事は無かったのか?」


 その質問の意図は、ハッキリ言って分からなかった。

けど、俺の答えは——


「——恨んでどうなるんだよ。過去に巻き戻って、魔王と呼ばれた魔法師をぶっ殺せるのか?そうなったら実におありがたいな。けど、そんな魔法を使える魔力が、俺にはない。無いものは、どうにもなんねぇ事は、諦める主義なんだよ、俺は」


 フード越しでなく、正面からリブの顔を見て、俺は答えた。


 俺の人生は、無いものの方が多い。

家族、友人、愛情、倫理観、そして外道以外の生き方——


 無いものはねだらず、得られたものだけを大事に抱え、それ以外は綺麗さっぱり諦める。

それが俺の生き方だ。


 俺の答えを聞いたリブは、何も言わずに顔を伏せた。


 結局質問の意図は分からず仕舞いだったが、リブはそれ以上何も言ってこなかったので、俺は体の修復作業を再開させた。

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