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28.奴隷を迎え入れました

 学校から出た後、俺達は親睦を深める機会だというエルサの提案で学校の近くにある定食屋で飯を食うことにした。


「ここのお肉超美味しいのよ。ちょっと高いけどね」


 エルサはそう言うと、この店で一番人気のルンドル・ドラゴンのソテーを注文した。

 ルンドル・ドラゴンか・・・。確かウェホウドさんと行った剣術の最終試験の対戦相手だったっけ。


 俺が殺したあのドラゴンの肉もこうしてどこかの料理屋の元に流れているのだと考えると少し面白い。


「凄い場所ね・・・でも私あんまりお金持ってないよ?」


 高級料理店らしい敷居の高そうな雰囲気に圧倒されているの、ソフィーナはさっきからずっとキョロキョロと小さく首を回して周囲を観察していた。


 メニュー表に書かれてる値段を見るたびに驚いて自分の財布と相談している仕草も可愛らしい。


「大丈夫もソフィーナ、私が奢ったげるから!」


 さっき聞いた話だが、この中で身分が庶民なのはソフィーナだけらしい。

 親友であるエルサも伯爵の爵位を持つ貴族だそうだ。


「おい、ゾーマよ、これはチャンスなのではないか?」


 隣に座っているメルクスが俺に耳打ちを立ててきた。


「チャンス?」

「分からんのか?エルサではなくお前が奢ってやれば好感度は間違いなく上がるぞ」

 ・・・ほう、そうだな。確かにこれだけで素敵!抱いて!とはならないだろうが、嫌われはしないだろう。


 ここは、奢って甲斐性のある男アピールでもした方がいいのか?


「と、言うわけで、今日はゾーマの奢りらしいぞ皆んな!」


 え、ええ・・・。

 誰もメルクスやエルサの分まで奢るとは一言も言ってないのだが。

 まさか、こいつ最初から俺に奢らせるつもりだったんじゃ・・・


「え?本当!?気前いいじゃないゾーマ君。流石は魔族ね」

「本当だ。やっぱり魔族は違うな。ソフィーナもそう思うだろ?」


 メルクスの思惑に気付いたのか、エルサも乗っかってきた。

 てか、お前ら貴族と王族なんだから金持っとるだろうが!


「ほ、本当にいいんですか? こんなに高価な食べ物ばかりなのですよ?」

「あ、ああ。気にしないでくれ。金はあるから」


 俺はお小遣いは貰っていないが、ウェホウドさんと共にルンドル・ドラゴンを倒した時に貰った報酬金3億Mがまだ残っている。

 だから、金には困っていないのだ。


「凄いです!ありがとうございます!」

 ソフィーナはパアッと向日葵のような笑顔を見せていた。

 うん。可愛いなあ。こんな顔をされたらいくらでも奢ってあげたくなっちゃうよおじさん。


「・・・な? 俺の言った通りだろ?」


 小さな声でメルクスがそう言ってきた。

 いや、お前はただ金を使いたくなかっただけだろうが!

 金に汚い王子様め!


 ※


 それから10分後、頼んでおいたルンドル・ドラゴンのソテーが運ばれてきた。



 おお・・・自分で狩って捌いて丸焼きにしてた頃よりも見た目が美しくなっている。

 肉の焼ける香りが鼻腔をくすぐり、匂いを嗅いでるだけで腹が満たさそうだ。


「まずは一口・・・うお、すげえ」


 こんがりと焼けた肉をフォークで肉を刺すと、肉汁を溢れさせながら中にある赤身をあらわにする。

 物凄く柔らかかった。

 ルンドル・ドラゴンの肉って柔らかいんだな。

 俺はいつも丸焼きにしてたからそこら辺わからなかった。


「うまいね! うまいよゾーマ君!」

「そうだね。ルンドル・ドラゴンっていつも丸焼きでしか食ったことないから、ちゃんと料理されたドラゴンがこんなにも美味しいとは思わなかったよ!」


 今度、コックのゴボルドにソテーを作ってもらお!

 そう俺が胸中で思っているのをよそに、他の3人はキョトンとした顔で俺を見ていた。

 さっきまで動かしていた箸は止まっており、咀嚼行為すら一旦やめている。


「・・・え?? 今ゾーマ君なんていった?」

 エルサが俺に訪ねてきた。なんかおかしな事いったか?


「いや、俺2年前からよく古の森にいって、魔獣を狩って丸焼きにしてたからさ」


 たまにコックのゴボルドに調理してもらうことはあるが、基本的にはその場で丸焼きにして食っていた。


「古の森って、危険な魔獣がいるから絶対に近寄らないでってお母さんに注意されたことあるよ」


 ソフィーナが少し引きながらそう言ってきた。

 ちょ・・・ドン引きしないでくれよ。

 別に危険区域にいっても、今生きてるんだからいいじゃないか。

 これは話の流れを変えなくては!


「あ。あのさ、ところでーー」


 俺が話を変えようとした時であった。

 背後から、複数人のおっさんの汚い声と、悲鳴をあげる少女の声が聞こえた。


「おい、テメェ!その首輪を見ればわかるぞ!奴隷だな!」

「汚ねえな!店まで汚れんだろ!入ってくんな!」

「すみません・・・お願いします。残飯だけでも良いんです。もう一週間近く何も食べれてなくて」


 暴力を振るわれていた少女は、俺よりも小さな子だった。

 種族はエルフなのだろうか。耳が長く、顔立ちも整っていた。

 奴隷生活によって疲弊しきった顔とパサパサに傷付いた赤い髪の毛にボロボロな服さえなかったらかなりの美少女だろう。


「・・・店の品位と客の質は全く違うな。あれは魔神教の教えに反している」


 メルクスが少女に暴力を振るっている輩共を睨みながら呟いた。

 魔神教の教えは、魔族の紋章の意味とほぼ同義だ。


 長い間勃発していた戦争に勝ち、やっと生まれた平和という名の火種をみんなと協力して幾年の時間をかけて立派な業火にして見せようという、平和と平等を象徴としている宗教だ。


 しかし、中には彼らのように平等を嫌い、自分より下の者を作って自身の心を満たそうとする人の心を捨て、魔神の教えから背いた人間もいるのだ。

 魔神教の道から堕ちていった最低最悪の人種のことを、サタンは魔道堕ちと呼んでいた。


「我慢なりませんね・・・私も庶民ですから差別される苦しみはわかります」


 ソフィーナは、キリッとした鋭い目でおっさん達を睨んでた。

 いつも放っている可愛らしいふわふわした雰囲気を一層し、剣呑な空気を醸し出す


「そうだな・・・」


 この世界では奴隷制度が設けられているが、このような虐待みたいな行為は禁止されている。

 いや、厳密にいえば、10年前までは奴隷には人権がなく何してもいいという法律があったが、サタンがそれを廃止させたのだ。


 今目の前で行われている行為は、魔界の法律に逆らったものであり、魔族に叛く行為だ。

 何よりもこの世界を良くしようと懸命に頑張っているサタンの努力すら嘲笑っている。

 それが何よりも許せなかった。

「おい、ゾーマどこへ行くんだ!」

「ちょっと、あいつら黙らせてくる」


 俺は席を立ち上がり、少女を複数人でリンチしているおっさん達の元へゆっくりと歩いた。


「おら!あひゃひゃ!こいつ、泡吹いて倒れてやがるぜ!」

「良く見れば可愛いじゃんこいつ!奴隷なんだから、何やっても良いよな?」

「ギャハハハ! トドメの一発・・・」


 少女の腹目掛けて蹴ろうとしている1人の男の頭を手刀で叩き、失神させる。


「な!? 何だお前!」


 残りの4人が俺を睨んでくるが、全く怖くなかった。

 これならルンドル・ドラゴンの威嚇の方が迫力があったくらいだ。


 まあ、ルンドル・ドラゴンは料理としては逸品だったが、

 こいつらは、物理的に料理しても、野太い悲鳴しか出てこなさそうだけどな。


「女の子1人に何人で殴ってるんだよ。恥ずかしくないのか?」

「ああ!? 何だお前、お前みたいな餓鬼がこんな所に来てるってことは、さては結構な身分なんだろ?」

「そうだとしたら?」


 普通の人なら、俺が貴族以上の身分だと気付いた瞬間に、涙を流しながら頭を下げて許しを乞うはずだ。


 身分による上下関係が強いこの世界で、貴族、王族、魔族の言動主張は正義そのものだからな。


 それだったら俺もこれ以上手を加えることはなかった。


 単純に、奴隷による暴力を止めたあと、周りの客に迷惑だから出て行けと命令するだけですんだからだ。


 しかし、こいつらは逆の反応を取っていた。

 許しを乞うどころか、自虐的な笑みを浮かべている。


 恐らく、俺を攫って身代金を親に請求する気なんだろう。

 なら、俺も安心だ。

 遠慮なく潰せる。


「おいおい、温室育ちの貴族様ヨォ!こちとら裏社会で生きてる人攫い軍団だぜ! 喧嘩売る相手選べや!」


 おっさん達5人の手からはそれぞれ異なった属性の魔法が、俺に向かって放出される。

 四方八方から降り注がれる魔法の雨。

 しかし、魔法消去者マジックキャンセラーを持つ俺には一切通用しなかった。


「ギャハハ!!怖くて声も出ないってか・・・ってええ!!」


 1人のおっさんが無傷の俺を見て驚き、尻餅をつく。


「ど、どうしてだよ・・・」


 2人目のおっさんも足を震わせながら、棒立ちしたまま何もしていない俺を見ていた。


「クソ、この餓鬼!どんなトリックを使いやがった!!」


 3人目のおっさんは、魔法が通じないと理解したのか、小さなナイフを抜き出し俺の腹部目掛けて振り下ろしてきた。

 当然その攻撃は軽々とかわし、ナイフを持っていた手を掴んで背負い投げをお見舞いする。


 そんな見え見えの奇襲が俺に通用するはずがないだろ・・・。


「い、いでぇ・・・!何なんだこのガキは!!」


「お前ら、人攫いだって言ったな。人攫いは大犯罪だ。今すぐ魔王を呼んで取り調べを行う」

「は、はあ? 笑わせんな。いくら貴族のボンボンだからって、そんな簡単に魔王様を呼べるはずが・・・」


 俺は帽子を取り、頭部に生やしている金色の角を見せる。

 他の魔人とは違い、この金に輝く2つの角は、魔界最上位の種族である魔族の証。


「嘘だろ・・・こいつ、魔族だ!!」

「やばい!逃げろ!!」


 5人のおっさんは涙目になりながら逃走を試み、店から出ようとする。


「ちい、追いかけるか」

「いいえ、ゾーマ君。その必要はありませんわ」

「え??」


 ソフィーナは俺の隣まで歩くと、手から光属性の縄を具現化し、逃げ出した5人のおっさんに向かって投げる。

 縄は驚異的な速度でおっさん達に近付いていき、彼らの手足を縛り上げた。

 捕獲完了だ。


「ソフィーナ、凄いじゃないか」


 俺は素直に感心する。

 流石、サタン以来の全属性を持って天才少女だ。


「うふふ。ありがとうございます」


 ソフィーナは頬を染めながらにこりと笑う。

 その笑顔は咲きたての百合の花のように汚れのない新鮮な笑顔だった。


「おいおい、良いムードじゃないか、やはり俺の提案のおかげだな」

「そうねメルクス君。ヒューヒュー、熱いねご両人」


 メルクスとエルサはニヤニヤと笑いながら俺とソフィーナを見ていた。

 何だお前ら!冷やかす暇があるんなら手伝えよ!


 ※


「さて、次はこの子だ」


 傷だらけになって倒れている少女の方に寄る。

 整った顔も、あのおっさん達に殴られていたせいで酷く腫れあがっていた。


「俺は回復系の魔法が使えない。ソフィーナ、頼んだ」

「はい」


 ソフィーナは少女に回復魔法をかける。

 てか、今更気付いたけどソフィーナ、さっきから無詠唱で魔法を発動させてるんだな。


 無詠唱ができる魔法使いは一流の証で、学校で学んでようやく出来る芸当って聞いた事があるが、ソフィーナもメルクスも既に無詠唱ができている。

 やっぱりこいつら凄いんだな。


「ん・・・」


 起き上がった少女は周囲をキョロキョロと見回した後、俺の角を見て体を震わせた。


「ま、魔族様・・・すみません、お見苦しいお姿をお見せしてしまいました。今すぐこの場から立ち去ります」


 恐怖の色を目に浮かべながら、少女は慌てて店から出ようとする。


「いや、待ってくれ」


 離れようとする彼女の手を掴む。

 少女はビクッと体を動かしながら振り向いた


「な、何ですか?」

「君には帰る所があるのか?」


 俺の問いに、少女は瞳に涙を浮かべながら、首を横に振る。


「どこにもありません。帰る場所なんて・・・ご主人様にも見捨てられてしまいました」


 少女は自分にかけられている首輪を触りながらそう呟く。

 この首輪がある限り、彼女は永遠に奴隷のままだ。


 奴隷だったら先程のように店に入っても飯は貰えず、宿にだって泊めてもらえない。

 このまま彼女はこじき同然の暮らしを強要されてしまうだろう。

 それは嫌だった。


「そうか」


 そう返すと、俺は少女の首輪を見つめる。

 奴隷を一生縛り付ける呪いの首輪は、奴隷商会の者によって付与された呪術魔法がかけられている、とウェホウドさんから聞いた事がある。


 その呪術を解けるのは奴隷商会の人間が、奴隷だった者をただの庶民に戻す時だけらしいが、基本的には奴隷は一生奴隷として人生を終える。


 この呪術が解かれたケースなんてほぼないらしい。

 そんな人生は、あまりにも可哀相だ。

 だから、俺は少女の首輪に触れた。


 一生消えることの無い呪いがこの首輪にかかっていたとしても、

 俺の魔法消去者なら、その呪いすら打ち消せる。

 彼女を自由の身にしてやれるのだ。


「そ、そんな・・・」


 効力を失った首輪は少女の首から離れ、カランという音を立てながら地面に落下する。


「帰る場所がないのなら、魔族の元で働いてみないか?」


 俺の提案に、少女は恐れ多いと首を振った。


「私は奴隷です。この世で一番低俗な身分なんです。魔族の元で働くなんて・・・」

「君はもう奴隷じゃない。勿論、俺も奴隷として雇う気はない。普通の使用人として、大事な家臣の1人として君に働いて貰いたい」


 俺の言葉が信じられないのか、少女は涙を流した。


「私は奴隷です。汚れた存在なんです。そんな最底辺の物が、魔王城に足を踏み入れることなんて、神様が許してくれるはずがありません」

 

 どうして、こんな小さな子供が泣きながら、自分を傷付けるようなセリフを吐けるのだろうかと俺は心底思う。


 この奴隷社会が、身分による差別が彼女をここまで傷付けてしまったのだ。

 それなら、我ら魔族が責任を持って償うべきだ。


「いいんだよ、そんな事」


 この世界はまだ色んな面で汚い部分がある。

 俺は将来魔王として、その魔界の闇に立ち向かわなくてはならない。


「自分がどうだったか何て過去の事はどうでもいい。問題は、今自分がどうしたいかだ。ぜひ、働いてくれ。名前は?」


 俺は彼女に手を差し伸べる。

 少女は大粒の涙を流しながら、俺の手をゆっくりと握った。


「私はアイダと申します。どうかよろしくお願いします」

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