20.魔王の故郷に引っ越しました。
12歳になった。
本来ならば、魔族の誕生日は国全体で祝う一大イベントとなっているのだが、
俺としては、自分の誕生日くらいは静かに過ごしたかったので、屋敷の中だけで祝って貰うことにした。
誕生日プレゼントも沢山もらった。
使用人達には手作りのお守りを貰った。
みんな今年学生になる俺の健康と安全を願いながら作ってくれたそうだ。
中でもエルフィンは2ヶ月分の給料をつぎ込んで最高級の守りを買ってきてくれた。
実にありがたかった。
レイナスからは、本を貰った。
めっちゃ分厚い本だった。
本の題名は、「白髪の騎士と七つの魔人」というファンタジー小説だった。
ファンタジー小説か。
生前の頃はたくさん読んでたけど、この世界に来てからは一度も読んでいないな。
レイナス曰く、この本は魔界中で読まれている人気の小説らしい。
入学した際に、友達作りのきっかけになってくれればとレイナス入っていた。
余計な心配をかけてしまって申し訳ない。ありがとう! マイマザー
魔王には、俺の小ちゃい銅像を貰った。
すげえ、いらない。と思ったが、周りからは大絶賛だった。
我が家のリビングに置く予定らしいが、物凄く恥ずかしい。
そして、最後にウェホウドから金色に光る短剣をもらった。
一流の鍛冶師に叩いて貰った大変高価な剣らしい。
ウェホウドは最後まで偉大な師匠だった。
俺は笑顔でお礼を言うと、ウェホウドは号泣しながら俺を抱きしめてくれた
※
それから1週間後、俺たちはサタンの提案で住処をダーク・テリトリーから、サタン達の故郷であるグレイモアに移すことにした。
居住先を映した理由は、俺が今年王学を受験するからということもあるだろうが、
やはりサタン達も故郷であるグレイモアが恋しかったのだろう。
使用人達は久方ぶりの故郷にはしゃいでいたし、レイナスやサタンも嬉しそうだった。
ちなみに、移動手段は俺が魔法を無効化してしまうので、転移魔法ではなく馬車だった。
5日かけて馬車で山を登る度は非常に面白かった。
やっぱ地球では味わえないシチュは燃えるな!
両親と使用人達は車酔いでげんなりとしていたが、俺は終始笑顔で旅を楽しんでいた。
馬車で旅をして5日後。
俺達は、ついにグレイモアに到着した。
「この城門、凄いですね」
目の前にある分厚く巨大な城門に圧倒される。
ダーク・テリトリーにも城門はあったが、
あそこは田舎なのでグレイモアほど大きくもなかったし、門番もいなかった。
「まあな。この城門は、200年前に初代魔王様と剣聖が一緒に作ったと言われている、魔界一の門じゃ」
「初代様と剣聖が?」
「そうじゃ。お前も知っていると思うが、200年前の戦争は剣聖と初代魔王様のご活躍で終結した」
「そうですね。お二人の活躍で魔界に平和が訪れました」
そう言えば、初代魔王の名前は知っているし、教科書にも載っていたが剣聖の名前は聞いたことがないし、本にも記されてなかったな。
日本の文化をこの世界に広め、俺よりずっと前にこの世界にきて魔界を平和に導いた男。
それが剣聖だ。
こいつには気になる点が多すぎる。
彼は何故、俺と同じように魔界にやってきたのか。
そして何故、彼は自分への情報を世間に隠したのか。
彼はいったい、何者なのか。
剣聖について知れる情報なら、何でも手に入れておきたい。
「剣聖様のお名前ってなんですか?」
「なんじゃったかのお……アサクラなんとかって名前じゃった気がするがのお」
アサクラ? やっぱり名前からして日本人か・・・。
「あれ?」
そう言えば、俺の地球時代の名前って何だったっけ・・・。
思い出せない。
苗字と名前共に漢字で2文字ずつだった事は覚えているんだが、名前を鮮明に思い出そうとすると、脳に靄がかかり、何も思い出せなくなる。
というか、地球時代の思い出もだんだんと薄れてきている。
まあいいか。生前の俺の名前と、剣聖が関係あるわけでもない。
そんなことよりも、さっさと入国手続きを済ませてしまおう。
「私は30年間、この国の門番をしているサンダース・サンダース・ストロングと申します! 久しぶりに魔王様たちに会えて大変感動しております!」
門番のサンダースさんは、サタンとレイナスの顔を見るや否や涙を流し、号泣してしまった。
気持ちはわかるが、大げさすぎだろ……。
「お、おお。サンダース。久しぶりじゃな。相変わらず元気そうで何よりじゃ」
「すっかり門番人が板についてきてるわね」
「魔王様とレイナス様に褒められるなんて、ありがたき幸せです!」
その後、サンダースさんは俺達が門をくぐるまでずっと泣きっぱなしだった。
「父様と母様の影響力ってすごいですね……」
俺は素直に感心するが、それに対してレイナスは少し疲れ切った表情を見せていた。
「今のは序の口よ……国に入るともっと騒ぎになるわ……国民全員がサンダースさんみたいな反応をするでしょうね」
国民全員が俺達の帰郷に歓喜し、号泣するのか……
嬉しいけど、何だかな。ゆっくりさせてほしい。
「ガハハ。これも世界を統べる魔族の宿命じゃ。受け入れるんじゃ」
俺とレイナスとは違い、サタンは満更でもない様子だった。
やっぱ魔王って凄い。
※
「魔王様たちがいらしたぞ!」
「キャー! 魔族を見たの初めて!」
「あれが魔王サタン様とレイナス様、そして御子息であるゾーマ・ベルゼブブ様か」
レイナスが言っていた通り、沢山の人々が俺達を熱く歓迎してくれた。
目前に延々と広がる人の群れから、わっと歓声が沸いた。
左右を見てみると、レンガ造りの大きな家からも、俺達を迎える歓声が聞こえた。
一人一人の表情は笑顔、興奮、感動という感情が感じ取れる。
中には、感極まってその場で泣き崩れる人までいた
……魔族って凄いんだな。
「本当……落ち着かないわ」
「ガハハハ! 皆元気でいいのう!」
げんなりとしているレイナスと、呑気に群衆の歓声に答えている魔王。
両者のリアクションが対照的なのも面白いな。
「魔王様達の人気には毎度驚かされます」
ゴブ平がそう呟き、オークンとエルフィンがうんうんと頷く。
サタンの付き人であるこいつらも、やはりこういう特別な待遇は落ち着かないのだろう。
「ゾーマもこの光景をよく覚えておくんじゃぞ」
観衆を指さし、サタンは俺に視線を移す。
「この世界の民達は血族は違えぞ、吾輩達の家族も同然! 彼らに認められてこそ、真の魔王なのじゃ」
「はい!」
今聞こえている歓声は大半がサタンに向けられたものだろう。
この鳴り止む事のない声こそ、サタンが魔王として尊敬されている何よりの証拠だ。
俺もいつか、ああなれるといいものだ。
※
それから俺達は馬車に揺れながら石畳の通路を進み、魔王城に向かっていく。
魔王城に着くには、まだ時間がかかるそうだ。
まずは今いる街である平民街を超え、その街を囲っている貴族街に進まなければいけないそうだ。
ちなみに、平民街は平民が暮らしている区画のことで、
貴族街は貴族や公爵が暮らしている区画だ。
魔王城は、その貴族街の最奥にあるそうだ。
※
それから10分ほど経ったあと、俺達はようやく魔王城に到着した。
魔王城は当然、大きく立派な城だった。
レイナスによると、この城には100近くの部屋があるらしい。
昔は部屋の数と同じくらい使用人がいたが、
住処をダーク・テリトリーに移したのと同時に、大半の使用人を第二夫人の元に預けたため、
今の魔王城には使用人はおらず、一週間前に急きょ使用人を募集したらしい
「どれだけ人が応募してくれたのか気になるわ……」
「そうですね。まあ、多分大勢の人が来てくれているでしょう」
ちなみに、使用人の志願者を一人ずつ面接し、採用してくれたのはウェホウドさん率いる魔界騎士団の連中らしい。
彼女達のセンスが試されるな。
メイド服を着た可愛い女の子ばかりだったらいいな。
逆に執事服の男たちばかりなのは勘弁してほしい。
頼んだぞ! 魔王の部下よ
「まあ、そんなことは城の中に入ればわかることじゃ」
ニヤリと笑い、サタンは扉を開ける。
メイド服来い。メイド服。来い!
「「魔王様、レイナス様、ゾーマ様! お待ちしておりました!」」
だだ広いリビングには、90人近くの使用人がいた。
そして、その大半をメイド服を着た美人さんが占めていた。
よっしゃあああ! 夢のメイド服天国や!
思わず関西弁になるほど俺はテンションを上げてしまう。
「ゾーマ様、何か嬉しそうです」
エルフィンはむーっと俺を睨んできた。
ははは。いや、別にエルフィンに不満があるわけじゃない。
メイド服に囲まれるハーレム生活というのは男の夢なので、どうしても笑ってしまうのだ。
「ゾーマ様!! 私もメイドですよ!! 新しい使用人よりも、私の方がゾーマ様のことを知っています。 ほら、例えばゾーマ様が初めておねしょをして私に助けを求めてきた――」
「おおい! やめてくれええ」
俺は慌ててエルフィンの口を塞ぐ。
危ない。危うく恥ずかしい過去を暴露されるところだった。
いや? オネショはあれだよ? わざとじゃないよ?
仮にも精神年齢はおっさんだからね?
尿意を感じれば一人でトイレくらい行けるよ。
ただ、当時は体の方はまだ赤ん坊だったから、我慢できずに漏らしてしまっただけだよ?
「お前おねしょ何てしてたのか?」
サタンがからかうように笑いながら、俺の背中をポンポンと叩く。
うるさい。お前も小さい頃は漏らしてただろ。
「あなた達が新しい使用人さんなんですか?」
レイナスが使用人たちに問うと、彼等はブンブンと首を縦に振った。
「「私達は、魔王様とレイナス様を幼少の頃から尊敬していました! 相手に仕えることができ、真に幸せでございます!」
「「この命、全てお二人に捧げます! どうかこれからもよろしくお願いします」」
……凄いやる気と情熱だった。
90人の使用人が全員、羨望の眼差しで俺達を見ていた。
それだけ俺達に仕えることができて嬉しいのだろう。
「また疲れそうな方達ね……」
特別な待遇をされるのが苦手なのか、レイナスはまた疲弊しきった顔を見せていた。
「ガハハハ! 頼もしいなお前たち、よろしく頼む」
レイナスに反して、相変わらずサタンは能天気に使用人達に笑顔を向けている。
「おお。俺達にもやっと後輩みたいなものができたな!」
「そうだなゴブ平! お前ら!何かわからないことがあったら俺達に聞けよ!!」
ゴブ平とオークンは後輩が出来たことが嬉しかったらしく、率先して先輩風を吹かしていた。
「いい、あなた達? ゾーマ様のお世話をする時はまず私に許可を取ってからにしなさい? 私はゾーマ様専用の侍女で、朝から晩まで、そしてベッドの中までゾーマ様のお世話をしているんだからね? 気安くゾーマ様に触らないでね?」
エルフィンはありもしないデタラメな嘘を新人の侍女達についていた。
てか、お前そんな嘘をよくサタンやレイナスの前で言えるな・・・
「ゾ、ゾーマ様、そのお年でもう大人への階段を・・・」
「流石は魔族です! その豪快さ! 部下の愛すらも受け入れる器の大きさ! それでこそ魔族ですね!」
エルフィンの嘘を真に受けた侍女達は目を輝かせながら俺を見ていた。
こいつら、疑うって事を知らないのかよ!
「はあ、母様同様、僕も疲れてきました・・・」
慣れない土地に、初めての部屋に、見たこともない大人数の使用人達。
全てが初めての体験で最初は戸惑ってしまうかもしれないけど、
頑張って慣れよう。ここが今日から俺の家なのだから。




