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12.スキルvs5トンの木刀

 修行開始から二日目

 待ちに待った剣の稽古がはじまった。

 俺は今、ウェホウドさんと召使い3人組と一緒に森へ来ている。


 森といっても俺の家にある領地の一部だ。

 最初はレイナスに危険だからといって森での修行を反対されていたが、ウェホウドさんが側にいるということで何とか森での稽古を了承してもらった


 まあ、危険な魔獣がいるエリアは森の奥のほうだし、今回の稽古ではそんな所まではいかないらしいから安全面は問題なさそうだ。

 万一に魔獣に出くわしたとしてもウェホウドさんと召使達がなんとかしてくれるだろう。


「いやあ。久々にこの森へきましたね。ゾーマ様とここで遊んだのは何年ぶりでしょうか」


 いや、ゴブ平よ。今日は遊ぶんじゃなく修業をしにきたんだ。


「俺はちゃんと覚えてますよ。15年前にここでボール投げをしましたよね?」


 誰との思い出話をしているんだオークン。俺は今10歳だ。


「私はちゃんと覚えています。5年前の9月15日の午前7時から午後の15時まで二人で森の探索をしていました。

 魔獣の「ユニコーン」に怯えるゾーマ様に胸をキュンキュンさせたのは午前8時。

 私のお弁当を美味しそうに食べていたゾーマ様を見て涎を垂らしてしまったのは午後一時。

 ゾーマ様と手をつなぎながら歌を歌ったのは――」


「いや、おまえは覚えすぎだ! あと、鼻血出てるから」


 エルフィンは興奮しすぎて息遣いが荒くなっていた。

 うん。これにはさすがの俺もドン引きだよ。

 軽く貞操奪われるんじゃないかと気にするレベル。


「ハハハ。魔王様の使用人たちは個性的な方が多いですね」


 ウェホウドは苦笑を浮かべる。

 いきなりウェホウドさんに恥ずかしい過去を暴露されて俺としては恥ずかしくて今すぐ家に帰りたいレベルだが、そうもいってられない。

 よし、修業頑張るぜ!


 ※


「さあ、早速お稽古をしましょうか」

「はい!」


 よっしゃー。やっと始まるぜ! 俺の人生逆転劇の第一歩が!

 何をするんだ? いきなり打ち込みをするのか?

 それともこれからカッコいい剣を買いにいくのか?

 ま、まさか。必殺技を伝授されちゃったりして!

 うおー。考えるだけでもわくわくしてきた!


「今からこの木刀を振ってもらいます」

「え?」


 ウェホウドさんはバックからどしりと重量感のある木刀を取り出し、地面に置いた。

 瞬間、木刀が大きな音を立てて地面にめり込む。

  重すぎだろ!何キロあるんだよこの木刀!


「あの、打ち込みとかはしないんですか?」

「あははは。ゾーマ様、打ち込みなんて100年早いですよ」

「え? そんなに!」


 これじゃ王学の受験に間に合わないじゃないか!


「まあ、100年は冗談ですが、打ち込みの前にはまず素振り、そして素振りの前にはまず基礎体力を作ることですね。基礎をおろそかにしてはいけません」


「ま、まあそうですけどね。でも、基礎体力つくりを飛ばしていきなり素振りということは、僕にはもうそれなりの土台ができているということですか?」

「違いますね」


 即答されてしまった。笑顔で。

 じゃあ、このやけに重そうな木刀はいったい何なんだ。


「本来なら基礎体力つくりに半年、素振りに半年くらいは最低でも費やしたいのですが、ゾーマ様には時間が2年半しかありませんので、時間を短縮するために体力作りと素振りのほうを平行してやってもらいます」


「なるほど。じゃあ、この重い木刀を振ることによって、体力もつくし、剣の技術も上がるということなんですね?」

 

 俺の問いかけに、ウェホウドは首肯する。


「これは筋力強化用の木刀です。重さは5トンあります。ゾーマ様には一ヶ月以内にこれを10回以上振れるようにしてもらいます」

「 ご……5トン!?」


 おいおいウェホウドさん。

 いくらなんでもそれは無茶だろ……

 確かに魔族は魔界の中でも怪力な部類の種族だし、俺は勇者討伐に向けて密かに毎日筋トレはしていた。

 多分、500キロ程度のベンチプレスくらいなら片手で持ち上げられるだろう。


 この年にしては中々の筋力だとレイナスにも褒められたことがある。

 それでも、いきなり5トンは厳しすぎる。


「無茶を言わないでください! 身体ができた大人の

 魔族ならともかく、ゾーマ様はまだ10歳ですよ! これでゾーマ様が怪我でもしたら私は悲しくて悲しくて……」


 涙を流しながらエルフィンが俺を抱きしめる、

 いや、心配してくれるのはうれしいんだけど、怪我しても回復魔法で治せるし、あと抱きしめたついでに俺の匂いを嗅ぐのはやめてくれないか?


「エルフィン落ち着け! ウェホウド様のことだ、きっと考えがあるんだろう」


 ゴブ平はエルフィンの頭をぽかりと叩く。


「ええ。勿論あります。普通ならこの歳で5トンの木刀なんて振れるはずがありませんが、ゾーマ様には成長を速める「超成長」のスキルがあります」

「なるほど、「超成長」で一気に身体能力を上げようってことですね!」


 オークンの問いかけに、ウェホウドはにっこりと笑ってうなずく。


「エルフィンさんの言う通り、スキルがあるとは言え、少し無茶な修行方法ですが、2年と言う短い期間で剣術を完璧に会得するにはこれくらいしなくてはいけません」

「うん。やっぱそうですよね」


 俺はうんうんと頷く。

 今が頑張り時なんだ。これくらいの修行で音を上げていちゃ、俺は魔王にだってなれやしない!


「俺は大丈夫だよエルフィン。きっと無事に修行を終えて見せるから」

「ゾーマ様……立派になられて……私はゾーマ様を応援しています!」


 そう言うと、エルフィンはまた号泣して俺を強く抱きしめた。


「おい! ゾーマ様の修行の邪魔をするな!」


 それを見たゴブ平がまた呆れながらエルフィンを小突く。


「やれやれ……話がまったく進みませんね」


 オークンは苦笑を浮かべながら俺にそう呟いた。俺も同じく苦笑を浮かべて頷く。

 心配してくれるのは嬉しいけど、こいつらドタバタしすぎなんだよお!


 閑話休題


 ドタバタモードが終わり、やっと本格的に修行が開始される。


「まずはこの木刀を持ってみてください」


 ウェホウドさんは5トンある木刀を両手で持ち、俺に差し出した。

 あの華奢なウェホウドさんが軽々と持てているってことは、実は5トンというのは俺を驚かすための嘘だったんじゃ……


「うわあ!」


 木刀を受け取った瞬間、木刀の重さに腕力が耐えきれず、体ごと地面にめり込んだ

 重! こんなの振る以前にまず持てるわけがないだろ!


「あらら。これでは修行ができませんね」


 面白おかしそうにウェホウドさんは地面に体を埋める俺を見ていた

 この人、もしかしてドSなんじゃ……。


「駄目だ、ぜんぜんビクともしない」


 倒れた身体を起こし、地面に埋もれている木刀を持ち上げようと、全身の力を両腕に捧げるが、一ミリも動いてはくれない


「まあ、最初は持ち上げられなくて当然です。私もこれを持ち上げられるようになったのは20の時ですし、魔族の中でも最強と呼ばれるサタン様ですら15を超えた辺りだといわれています」


 うおおおお! 持ち上がれ!頑張れ、俺の身体!

 ……あれ? 今少しだけ持ち上がらなかったか? 

 何だか木刀を持っている手が、だんだん地面から離れてきているような気がするんだが……


「「超成長」を持ってるとはいえ、ゾーマ様でもこれを持てるようになるのに一週間。素振りができるまでには一ヶ月くらいかかるんじゃないですかね……って、ええ!?」


「うおおおおおおおお!」


 木刀が少しずつ地面から離れていく。

 持ち上げようと両腕に力を入れるたびに、身体の中で大きな力が爆発的に増えていっているのがわかる。


 俺の筋力が急速に進化しているからなのか、木刀も時間が経過していくたび最初感じていた膨大な重量感は消えていき、どんどん軽くなっている気がした。


 勿論木刀が軽くなったわけじゃない。

  5トンの重さが軽いと感じる程に、俺の腕力が急速に成長しているのだ。


「はあ……あっ! もう簡単に振れるわ」


 木刀を胸の高さにまで持ち上げ、そのまま上下に振

 る。

 一瞬だけ大きな重量が身体を襲うが、すぐにその重みも消えていった。

 成長を早める「超成長」のスキルが早くも効果を見せてくれたのだ。

 まさかここまで凄いスキルだったなんて……


「驚きました……まさかほんの数分でこの重さを克服するなんて」

 

 ウェホウドさんは驚愕の色を浮かべながら俺に拍手を送ってくれた。


「そうですね……僕も驚いています」


 まさか一週間はかかる予定だった課題を数分で終わらせられたんだ。

 自分でも信じられない。


「どうやら基礎体力つくりは直ぐに終わりそうですね。このまま素振りをしましょう」

「はい!」


 俺は元気よく返事をした後、木刀を持って素振りをした。


「これは久しぶりに面白い逸材がやってきましたね。鍛えがいがありそうです」


 ウェホウドさんはニヤリと何かを企むような笑みを向けた後、ボソリと呟いた。

 何を言っているのかは聞こえなかったが、恐ろしく嫌な予感がした。

 ま、まあ頑張ろう!


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