13.流派を決めました
「ところで、ゾーマ様は流派をお決めになられていますか?」
「りゅ、流派?」
素振りをしている最中に、ウェホウドが突然そんなことを聞いてきた。
流派? 何それおいしいの?
「すみません。どの流派にもない持ち方や素振りをしているので気になってしまいました……」
そうか。普通は先に流派を決めてから、その型を真似て素振りをするのか!
俺は流派を決めるどころか存在自体を知らなかったから凄い適当に振ってた……。
もう本能に任せて振っているだけだったよ……
「いえ、流派はまだ決めていません。というか、流派の種類も知らない状態です」
「あらら……」
ウェホウドさんは呆れるように苦笑を浮かべた。
「あはは。すみません……」
「そうですね。まずは、剣術にある2大流派について説明しようかなと思います」
勉強不足の俺にウェホウドさんは優しい笑みを向けてから、その流派とやらを説明してくれた。
まず、剣術には2つの流派があるらしい。
まず一つは剣聖流
初代魔王の右腕として有名な剣士、剣聖の名を借りた、魔界で一番の知名度を誇る流派らしい。
防御よりも攻撃を優先としてきる攻撃に特化した流派だそうだ。
この流派は、とにかくガツガツ攻撃をするらしく、
その分防御力が他流派と比べて弱くなるが、剣聖流そのものが「攻撃は最大の防御」を地で行っている流派なので、そこのところは問題ないらしい。
相手の剣技を凌ぐほどの技量があり、接近戦を好むものにお勧めだとウェホウドさんは言っていた。
次に、「剣壁流」
剣聖流とは真逆な、専守防衛をモットーとしている流派だ。
片手剣だけの剣聖流とは違い、この流派には盾の装備が必須となる。
盾で相手の攻撃を躱し、相手の隙を見つけて剣を突き刺す流派だ。
盾で常に体を守っているため俊敏性にはやや欠けるが、そこら辺は速度を上げる魔法か、生まれながらの機動力でカバーすれば問題ないらしい。
生まれながらの機動力でカバーするしかない俺にとっては地獄みたいな流派だな。
これは余談だが、防御を専門としている流派なだけあって、この流派を心得ている者の殆どは、王宮の騎士や兵士などといった守ることが職業に就いているそうだ。
現に、俺の所に使えている兵士も殆どが剣壁流の者らしい。
「ゾーマ様は、どちらの流派を選びますか?」
うーん。そうだな、まあどちらも、魅力的だけど魔法を無効化できて、自動回復スキルもある俺には剣壁流みたいな盾は必要ないんだよな。
だから剣聖流でいいかな
「僕は剣聖流を学びたいと思います。ウェホウドさん! よろしくお願いします!」
「わかりました! では、まずは剣聖流の素振りをやってませますから、私の真似をしてゾーマ様も剣を振ってください」
そう言いながら、ウェホウドさんは腰に据えていた愛剣を取り出し、剣聖流の素振りを見せてくれた。
俺も見よう見真似で剣を振る。
うーん。中々上手くいかないな。
「左足を前にして、剣は頭上に振り上げる構えです。そこから、目前の相手を目掛けて思い切り振り下ろしてください」
ウェホウドさんに言われた通りにやってみる。
次は一発で綺麗な素振りができた。
「おお!今のはいい素振りでしたなあ、ゾーマ様!」
「お見事ですね。綺麗な剣さばきでした」
「ゾーマ様・・・あんなに逞しくなられて・・・エルフィンは嬉しうございます」
木陰に座りながら俺の稽古の様子を見ていた使用人三人衆はそれぞれ違った反応で俺を褒めてくれていた。
大げさな・・・ただ素振りに成功しただけだろ。
「やはり筋がいいですね。では、次は落ちてくる葉を、先程のような完璧な素振りであててみてください」
ウェホウドは俺の目の前に木の葉をひらりと落とす。
「あ。あれれ」
木の葉を目で追うと集中力が乱れ、剣の型が安定せず、俺の太刀筋は見事に空ぶってしまった。
俺の初心者らしい素振りを見てウェホウドは微笑む。
「最初は誰だってそうですよ。私も安定したフォームで木の葉を完璧に捉えきるのに数週間はかかりました。まあ、超成長を持っているゾーマ様なら一週間程度で克服できるんじゃないでしょうか」
そう言って、ウェホウドさんはまたひらりと木の葉を落とす。
「ふん!!」
あ。当たった。
さっきとは違って一切乱れがない綺麗なフォームで、木刀の切っ先は木の葉の中心を叩く。
「・・・」
「・・・」
沈黙が俺とウェホウドさんの間に降りてくる。
え、何だこの空気。何でウェホウドさんはこんなにぽかんとしてるんだ?
「ま、まあ。偶然木の葉に当たることは良くありますよ。それが最低でも3回は続かないと完璧とは言えませんね」
ウェホウドさんは信じられないと言った風に目をパチクリさせた後、もう一度木の葉を落とした。
「それ!」
また命中させる。
「・・・ま、まあ2回くらいなら」
ウェホウドさんは顔を引き吊らせながら3枚目の木の葉を投げた
それを、俺はまた正確なフォームで、叩き落とす。
「・・・お。これはもう完璧なんじゃないですか?」
なんだ、意外と簡単なんだな。
「嘘・・・ただ当てるだけじゃなくて、全部木の葉の中心に当たってる・・・しかも、普通の木刀じゃなくて5トンの木刀で・・・何なのこの才能」
ウェホウドさんがガクガクと震えていたが、どうしたんだろ?寒いのかな?
「ウェホウドさん、次は何をすればいいんですか? まだ素振りですか?」
「凄い逸材だわ・・・2年間ひたすら無茶させ続けたら、いったいどれだけ強くなるのかしら」
俺の問いかけを無視して、ウェホウドさんは何かブツブツと呟いていた。何だろ。嫌な予感しかない。
「ウェホウドさーん!」
「ヒャ、ヒャゥ!」
俺の呼びかけに奇妙な奇声で応じた後、ウェホウドさんは咳払いをして首を横に振った。
「もう剣聖流の素振りはいいです。もう一段階上の修行をして貰おうと思います」
「お! もう新しい稽古をするんですか!」
やったぞ! サクサク進むのはとても良いことだし、楽しく剣の修行ができる。
「まあ、でも新しい稽古は明日にしましょう。もうお昼の時間です」
「そう言えばそうですね」
ウェホウドさんとの剣の稽古はお昼までだと決まっている。
その後は軽くご飯を食べてから、魔界の勉強をやって、最後はサタンの格闘術の稽古が待っている。
うーん。中々のハードスケジュール。
まあ、それで強くなれるんなら俺は全然良いんだけどね。
「でも何をやるのか気になりますね。明日は何の稽古をする予定なんですか?」
素振りの一段階上の修行ってなんだろ。
ウェホウドさんと模擬戦とかするのか?
でも、ウェホウドさんって確か魔界1の剣士なんだよな?
そんな実力者といきなり剣を交えるのは流石にきつくないか?
ウェホウドさんもそこまで俺に対してハードな修行はさせないだろう。
「それはですね〜。私と模擬戦をするのは取り合えず決定で」
あれ、決定しちゃうんだ!
「古の森にいって魔獣討伐も加えようかなーと思ってるんですよね!」
ウェホウドさんはキラリと眩しい笑顔でとんでもない事を言い出した。
「ま、魔獣??」
魔獣って、ゴブ平とかオークンみたいな理性も知能もない、ただ暴れるだけの危険な獣のことだろ?
しかも、古の森って危険な魔獣ばっかが集うこの国1の危険区域だって聞いたんだけど。
「古の森は危険区域となっていますが、ベテランの冒険者か、魔界騎士団の隊員が同行していれば大丈夫なので問題ありませんね!明日が楽しみですね、ゾーマ様!」
「は、はは・・・」
勇者を倒す前に、まずこの2年間を俺は生きていられるのかなと本気で思った。
ま、まあ頑張ろう!




