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「短期連載版」金貨に執着する聖女の話  作者: 山田 勝


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2 この世は馬鹿ばかり

「聖女様、ここに金貨一枚がございます。亡き主人が貯めたお金でございます」


 街をながしていたら、マダムに声をかけられた。その後ろには十二歳くらいの男子がいる。


「患者(きゃく)はどちら様ですか?」

「息子です」

「はい、聖女様、よろしくお願いします。市場役人のタイラーの息子ケントです」


「見たところ、どこも悪くないですわ」

「いいえ。これから怪我をするのです」


 マダムはとんでもないことを言ったわ。



「主人の仇討ちです。主人は市場の下級役人でございました」



 ☆☆☆回想


 市場を見回り不正がないかを確認するのが仕事でした。

 しかし、ゴロツキ達ともめて・・・


『おい、そこのゴロツキ!商人から金を巻き上げるな』

『これはみかじめ料だ。役人は宛てにならねえってよ』


 主人は真面目すぎる性格でした。

 1人なのに五,六人と棒だけで戦い。

 袋叩きに遭い。


 橋の上から投げ捨てられました。

 主人は泳げず溺死しました。


 私は寡婦になりましたわ。

 息子は十二歳、市場役人の見習いになれる歳ですわ。

 私が内職したら食べて行けます。


 でも、役所からは息子は拒否されました。



『ゴロツキに不覚を取る男の息子はいらない』

『そんな。皆様方は不正を見逃しておりましたわ』


 抗議したら・・・


『なら、ゴロツキの大将を討ち取ったら考えてやろう』


 そう仰いました。


 ご存じだと思いますが、親の仕事を継げない子はよほどのコネがなければ他のギルドにいけません。

 冒険者になるしかないのです。



「なら、冒険者になれば?」


 すると、息子が口を開いたわ。


「父上の職責を継ぎたいです!父上は賄賂を取る同輩たちからも煙たがられていました。そんな正義感の強い父上は僕の誇りです」



 結局、この依頼は断った。


「怪我をする前の依頼は受けませんわ」


「そ、そんな。聖女様!」

「母上、いいのです。ゴロツキの親分フランキーを討ち取ってみせます」

 私は去った。


 気に食わないわ。自ら怪我をするなんて、

 そう思いながら、足は市場に向かう。昼ご飯は串焼きでも食べようかしら。


「毎度、聖女様」

「どうも」


 串焼きを頬張りながら、フランキー一家の屋敷まで向かう。


「うわ、極悪聖女だ!」

「フランキーの親分!大変だ!」

「ヒィ、手には凶器のクシを持っているぞ!」


 門の所に来たら大騒ぎだ。私は騒がれる女らしい。



「おう、何用で!聖女様よお」


 小汚い甲冑を来た小太りのヒゲダルマがフランキーだ。一度治療をしたことがある。



「貴方。決闘するって本当かしら」

「ああ、そうだ」

「相手は十二歳よ」

「しかたねえだろうがよ。こちとら商人から依頼を受けて自衛団をやっているんだよぉ」


「いちいち威嚇しなければ話せないのかしら」


 この男、こう見えて人魔大戦の最中は傭兵団を率いていた。

 並の騎士よりは強い。



 現在は自警団という名の裏組織だ。


「俺達は守ってきたんだよ。盗賊夜盗に詐欺師に役人達からだ!」


 今世の役人は商人に賄賂を要求するらしい。


「それでよ。タイラーって奴が他所から移ってきて。うっとうしいくらい正義感を振りかざして、手下の者達がやり過ぎちまった。川に流してよ」


「そして、死んでしまったわね」


「手下は処罰したよ。追放だ」


「そう、それは私には関わりのないことだわ。それに十二歳の子供を討ち取っても名は更に堕ちるわよ」


「そうだよ。十二歳の子供と戦いたくねえよ」


「それなら、良い知恵があるわ。馬鹿でも出来る策だから安心しなさい」



 策を話したら、フランキーは満面の笑みをたたえた。


「おうよ。吟遊詩人を集めろ。宣伝してやるぜ。それにしても聖女様、優しいな」


「いいえ。興奮した群衆が市街戦を始めて、金もないのに治療してと懇願する貧民にいちいち断るのが面倒だからだわ」




 それから決闘の当日になった。

 場所は因縁の場所、橋の上だ。

 大勢の野次馬達が集まっている。


 タイラーの息子、ケントは母親と親戚、市場役人と一緒に登場した。

 手には体格に合わない大きさの剣を持っている。


 対してフランキーは、大戦の時の傭兵頭の甲冑を着ているわ。手には派手な槍を持っている。

 傭兵頭は募兵のために派手な格好をしていたと言う。

 この場で見たら正に悪人だわ。



「おう、フランキーだ!」

「タイラーの息子、ケント!父上の仇を討つ!」


 見届け任は市場長だわ。


「うむ。双方死力を尽くすように」


 こいつが元凶ね。まあ、どうでも良いわ。

 私は野次馬の中に紛れて見物ね。


 フランキーに授けた策は「舐めプ」だ。

 舐めプをする者は必ず破れる。


「双方、遺恨のないように・・・それでは勝負始め!」


 勝負が始まったら、フランキーは橋の欄干に登った。


「や~い。お前の父ちゃんはここから惨めに落されたぞ!全くみっともなかったぜ!」


「何だと!」


 ケントが剣を振るう。しかし、剣に振るわれている。まるで体格に合っていない。


 不安定な場所にいるのにフランキーは簡単に剣をさばいた。


「うわ。よえーな。このフランキー様なら片手で十分よ」

「な、何だと!父上の仇!」


 圧倒的だ。左手の手甲でケントの剣を振り払っているわ。


「ほら、ほら、もっと強く打ち込んで来やがれ!情けない男の情けない息子だぜ!」


「な、何を!父上を馬鹿にするな!」


 ケントは両手で剣を持ち思い切り打ち込んだわ。



 しかし、ケントの剣を受け止めたフランキーはバランスを崩した。



「あら、あら、バランスが、おっと、おっっとっと・・・うわーーーーー!」


 橋から落ちた。

 ドボンだわ。


 もっと、自然に出来なかったのかしら。

 私の策はタイラーにしたように川に落ちて面目を失うこと。


 そして、吟遊詩人たちが騒ぎ始めた。扇動だわ。


「おお、少年がフランキーを討ち取ったぞ!」

「こ、これは、もう、少年の勝ちではないか?」


「「「そうだ。そうだ!」」」

「良くやったぞ。少年!」


 皆は騒ぎ始めた。フランキーの手下達もだ。不味いだろう。

 世論を操作する。

 これでケントの勝ちが確定かしら。


 しかし、市場長は。



「ケントよ。フランキーを討ち取れ」

「でも、市場長・・もう、勝負は付きました」

「殺せ。これは命令である!さすれば仕官を許そう」


 頑なに拒否する。この決闘の目的はフランキーに少年殺しの汚名を着せることだ。

 茶番になったから、今度は殺して裏組織の力をそごうとするのだろう。

 小知恵が働くわね。


 その時、フランキーの陣営が騒ぎ出したわ。


「親分の仇討ちだ。少年の上司!市場長に申し込む!」


「おい、親分、溺れているよ。甲冑を着ているから」

「何で分からないかな」

「半分助けて、残りは市場長をやれ!」


 市場長とその一行に襲いかかり・・・



「待て!何でだ!何でそうなる!」


 他の野次馬たちもケンカを始めたわ。


「何だか知らないけど暴れるぞ!」

「役人達には腹がたっていたのだ」

「賄賂を取るから物が高いのよ」


 マダムたちまでも石を投げ始めて・・・


 結局、市街戦になったわね。



 その後、市場長は行方不明。新任の市場長には。


「聖女様、お久しぶりです」

「ザイル伯爵・・・」


 ザイル伯爵が着任したわ。


「今回の騒動、聖女様は関わっておりませんね」

「当たり前ですわ。関わりのないことですわ。ところで見習いにケントという子はおりますか?」


「はい、おります。やっぱりですね」

 見透かされた顔をされたわ。


「ところで、子息のウェーバーです。仕事を手伝わせます。どうぞ、お見知りおきを」

「聖女様、妹がお世話になりました」


「あ、そう・・・」

「あ、嫌な顔をされて、時々お茶をして下さい」



 ザイル伯爵の子息と時々お茶を飲むことになった。

 更に。


「おら、聖女様のお通りだ!」

「治療には金貨一枚だぜ!」


 ゴロツキ達が流しについてくるようになった。



「貴方たち、何ですの?」


「俺ら、正式に私的警備と認められました」

「それに、親分の名はあがりました。少年に勝ちを譲った漢(おとこ)だと」


「「「だから、報恩感謝のお礼の警備です」」」


「いりませんわ!」



 本当、この世は馬鹿ばかりだわ。



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