1 優しいは弱い
近頃、王都に流行るもの。
夜盗に昼は盗賊、偽王命。デマ吟遊詩人。
成り上がり貴族と没落貴族に
主を失った傭兵達にコジキになった聖戦士たち。
決済日にドロンと消える爆弾手形に・・・
「聖女様、息子を治療して頂きたい。この手形にお願いします」
「あら、決済日は?」
「三ヶ月後でございます」
「なら、三ヶ月後に来て下さいませ。治療は治ったら金貨1枚ですわ」
「この強欲聖女め!」
そして、強欲聖女の名が王都で流行しております。
金ピカな懐中時計を持った紳士に捨て台詞を言われたこの私を人は強欲聖女と呼ぶ。
私も王都の流行り物の一つらしい。
時計を売れば金貨1枚など用意できましょうに。
人は生活のレベルを落すことは出来ないようだ。
私は強欲聖女、サトコ・ヤマノシタ。
家門はお母様、父親は王子様だった。
今は流しの聖女。聖女服を着て通りをながし。
冒険者ギルドから依頼が来ればどこにも行くしがない聖女よ。
「おい、聖女サトコだな。俺のナニを治療しやがれ」
「治ったら金貨1枚でございます」
「えへへへ、普通の聖女様なら絶対に治療をしないから助かるぜ」
路地に入りゴロツキ風の患者の患部を見た。
腐病に苛まれている。
聖魔法を患部に浴びせ腐病前に治したわ。
「おお、スゲー、ナニが肌色に戻ったぜ」
「もっと、清潔に保つことをお薦めします。では、お代を頂きます」
「ヒヒヒヒヒ、この治ったナニで天国を見せてやるぜ。それで金貨1枚な」
こんな輩がたまにいる。
「左様ですか?ならキャンセルで」
また、聖魔法を浴びせ元の状態に戻した。
「ヒィ、何で、更にただれている!」
これはお母様から習ったわ。治療はイメージが大事だ。
☆☆☆回想
『サトコ、聖魔法は治った時の状態をイメージして浴びせるのよ』
『イメージって?』
『そうね。日本の言葉よ。強く念じるのよ』
『フ~ン』
・・・・・・・・・・・・・・
「ヒィ、悪かった。治せよ!」
「でしたら、金貨二枚、一枚は先ほど治した分、更に今回の分ですわ」
「ヒ、ヒドい!そんなの払えるわけねえ!」
だいたい、通常の雇い人の年収が金貨3枚。
「聖女だろ!ただで治せや」
男の避難を背に路地を抜けた。
お母様は異世界ニホンアから召喚された聖女だった。
人魔大戦では前線で兵士の治療、戦後は王都で無報酬で治療をさせられたわ。
☆☆☆回想
『サトミ、治療院の前に行列が出来ているぞ!さっさと開けないか!』
『殿下、昨晩から体調が悪くて・・・』
『ええい。聖女なのに体調管理も出来ないのか?我の名声が落ちる。さっさと開けろ!』
いつも、叱られている母を見て育った。
夫なのに殿下呼びだった。
来る人々は・・・
『聖女様、二重にして下さいませ』
『昨日、飲みすぎちゃって』
『若返りの魔法をかけて下さらない』
そんなレベルだった。
『お父様、お母様を休ませて下さい』
『はあ?異界混じりが!父と呼ぶな!』
お前が産ませたのだろう。
父と呼ぶことさえ許可されなかった。
・・・・・・・・・・・・・
「おい、サトコ、久しいな。探したぞ」
「殿下」
大通りを歩いていたら、殿下がいた。老けている。
「父と呼ぶことを許可する」
「殿下、治ったら金貨一枚ですわ」
「うむ。跡取りが病気なのだ。屋敷に来てくれ」
「それなら分かりました」
馬車に乗せられ屋敷に向かう。
屋敷には夫人がいた。太った男がいた。私よりも年上かしら。
お母様は第二夫人だったようだ。
「まあ、これが?聖女・・・」
「知っているよ。強欲聖女でしょ?」
「これが跡取りだ。どうも最近体調が悪いみたいでな」
診察する。食べ過ぎのようだ。
生活慣習病、聖魔法を当てて体を整えた。
「お野菜もお食べ下さいませ。でないとまた体調が悪くなりますよ」
「指図するなよ」
「金貨一枚頂きます」
「ほら」
殿下は投げて渡したわ。
私がかがむと跡取りの視線をお尻に感じる。
「でだ。流浪の聖女では何かと大変だろう。復帰を許可する」
「嫌ですわ」
「そうか、なら力ずくだ!」
ドアから騎士達が現われた。手には拘束具を持っている。
剣はあるが金ピカだわ。実戦経験がない騎士達ね。
「我だってサトコの身を案じているのだ。治療院をここで開け。婿も用意してやろう」
「いりませんわ。もし、私を力ずくで捕まえるのなら、殺しますわ」
「捕まえろ!」
「全く、小娘が!」
「俺たちを何だと思ってやがる!」
私は指先にイメージする。
お母様の言葉だ。
☆☆☆回想
『聡子、これが貴方の名の漢字よ。貴方の名は日本では賢い意味よ。音は私の名から取ったわ』
『はい、お母様、この文字・・・難しい』
『フフフフ、無理もないわ。聡子、日本ではレーザーがあってね。悪い場所を切り取ったりするのよ』
『お母様はニホンアでも聖女だったの?』
『いいえ。看護師よ。あら、日本ではが、ニホンアに訛ったわね。日本ではと言い過ぎたわ』
・・・・・・・・
「ギャアアアアーーーーーー!」
「目が、目が!」
「ヒィ、ヒィ」
騎士達の目を潰し体に穴を開けた。
跡取りは失禁し。殿下は腰を床につけた。
「あら、もう騎士様として働けませんわね。死にたい方は挙手をお願いします」
「ヒィ、治して」
「わ、悪かった」
「命令で仕方なく・・」
「金貨一枚ですわ」
「き、貴様には人の心がないのか?」
と殿下は叫んだが人の心?
「ないわ」
と答えるしかない。
殿下の額に指先を当てて問い詰めた。
「何故、今更、私を呼び戻そうとしたのかしら?」
「そ、それはサトコを不憫に思って」
「嘘、仰い!」
指先に少し熱を当てた。レーザー照射の準備だ。
「わ、分かった。大公家を興せるかどうかの瀬戸際なのだ・・・」
殿下は人魔大戦中の後方支援担当の王子だった。
「サトミが死んでから功績不十分だと判断された・・・良いのか?腹違いの兄が王宮の掃除人になっても」
どうやら、王族の身分は一代限り。跡取りの頭もそんなに良くないのは見て分かる。
王宮役人になるしかないみたいだわ。
「ええ、いいですわ。私には関係のないことでございます」
「あの女が簡単に死にやがって」
カチンときたが・・・
「では、失礼します。またのご用命がありましたらお声がけをして下さいませ」
そのまま屋敷を後にした。
ご家来の心配よりも自分のことしか考えていない。
・・・ほんと、この世は馬鹿ばかり。
こんな私だから敵が多い。
いつも高級宿を転々としている。
気配を感じた。
これは王宮のカゲ?にしては丸分かりだ。
どうせ貧民が治療して欲しいと後をつけているのだろう。
路地に入り対峙した。
若い金髪の男だ。私が路地で向きを変えたらアタフタしたのでこちらから問い詰めた。
「貴方は患者ですか?」
「はい、そうです。妻と息子を治して頂きたい」
「なら、金貨二枚になります」
「今はない。しかし、必ず払う」
この男は小娘である私を非難もすることも脅すこともしないで土下座して懇願した。
「聖戦で領地が荒らされた。武術しか出来ない私は仕官が出来ない。剣も値崩れして売れないがそれを差し上げる」
「いりません。金貨二枚です」
「なら、この命を差し上げる。如何様に使われても結構だ」
命か・・・どうせ戯言だろう。しかし、解剖をしてみたかった。
母が亡くなり王宮を放り出されてからは道ばたの死体で人体の構造を観察したわね。
しかし、動く内臓や筋肉は直に見た事はない。
「面白いことを仰るのね。なら、対価は生きたまま解体ですわ」
男は一瞬悲痛な顔をしたが・・・
「それで良い。とにかく診て下さい!」
貧民街に行った。あばら屋だ。
奥様と舅らしき老人がいた。
「おおお、聖女様が来て下さった!でかしたぞ!アルベルト!」
「義父上、何とかお連れしました」
品性卑しからぬ家族だ。
剣がおいてある。外見はボロボロだ。殿下の騎士とは大違いね。
まあ、それはどうでも良いわ。
「さあ、聖女様、お湯ですが・・・どうぞ!」
お茶がない。
「では、診させて頂きます」
奥様は結核、お子様は風病、それも命に関わるレベルだわ。
吐血の跡がある。
「レントゲン!!」
透視だ。これもお母様からならった。
患部に手かざしで聖魔法を当てる。これでも丁寧な治療だ。
「後は栄養ですわ。もう、こんなの食べておりますの?」
「ええ・・・肉を奮発して」
「馬鹿ですか?安いので良いから野菜と麦を買って来なさい」
聞けば貴族の出でこの大戦で没落をした。日雇いで生計を立てているそうだ。
病気の娘と孫には良い物を食べさせようとしたらしい。
「さあ、野菜スープと麦粥です。水物ですが今はこれをお食べなさいませ」
「「はい!」」
らしくない。料理までした。普段は聖魔法をかけて治るまで放置なのに。
一晩つきっきりで看病したら治った。
「聖女様、有難うございます」
「聖女様・・・ありがとう」
「おお、マルガリッタよ。リヒターも元気になってワシは嬉しいぞ」
さて、報酬の話だわ。舅が切り出した。
「聖女様にお渡しするお金ですが・・・」
「義父上!聖女様には私がお仕事を手伝うことになっております」
「そうか、アルベルト、しっかりお仕えするのだぞ!」
「はい、義父上、私のいない間、妻と息子をお願いします」
アルベルトが遮って嘘を言った。まあ、いいわ。
私はアルベルトの前を歩き。解体できそうな人目のない草原まで行く。
まあ、どうせ逃げ出すのだろう。
草原についた。後ろを振り向く。
男はいなかった。
「やっぱりね。慌てて引っ越しという感じかしら」
これでこの世は信用できないと再認識出来た。
さあ、今日の宿はどこにしようかしら。
【聖女様!申訳ございません。靴紐が切れて・・】
男はいた・・・・草原から急に現われたと思ったが、かがんでいたようだ。
「あ、ここですか?この岩場に寝れば聖女様が解体しそうですね」
男は自らまな板に仰向けで寝た。
手がプルプル震えている。
「何故かしら?」
「お、や、約束でしょう・・・」
顎もガチガチ震えている。
「だから、何故、約束を守るのかしら。逃げる機会は沢山あったわ」
「それは・・・私にも分かりません」
☆☆☆回想
母の言葉と重なったわ。
『ゴホ、ゴホ』
『お母様!何故、治療するの?お母様も体悪いのに、誰にも感謝されないのに・・・』
『それは私にも分からないわ。強いて言えば・・・』
『本当に助けるべき方が中にはいるからよ』
『助けるべき方?』
『そうよ。助ける価値のある人、1万人に1人かもしれないけどね』
・・・・・・・・・
まさか、この男が助ける価値のある人?そんなわけがない。優しさは弱さだ。人は優しさを見せると途端に群がってくる。
指からレーザーを少し出す。
男は目を瞑ったわ。
「あら、残念、うっかりしていましたわ。今日はお母様の命日でしたわ。無益な殺生はしないことにしておりますの」
「えっ」
「金貨二枚、お支払い下さいな。月々少しでも良いからお支払いして下さればいいわ」
「聖女様・・・・」
聖魔法を空に向かって撃った。
「せ、せいじょひゃま、必ず、必ずはらいましゅ・・」
男はうなだれて深く頭を下げた。
私が草原を去るまでずっとその姿だったわ。
やっぱり生きたかったのじゃない。
そうだわ。馴染みの患者の家に行こう。
令嬢を治療した事のある伯爵家の門を叩く。
すぐに応接室に通された。
「サトコ様、ようこそ来て下さいました。そう言えばサトミ様の命日が近いですね。当家から献花させて下さい」
「ごめんなさい。1人で祈りたいですわ。ところでザイル伯爵、この家には爺やはおりませんね」
「はい、何を仰っているのですか?」
「ゴホン、新興の家門で代々の使用人がいない」
「まあ、そうですが・・」
「私が身許保証人になるから、爺やと従者雇ってみませんか?」
「信用できるのですか?」
「ええ、命をかけて約束を守ろうとする男を知っています。その義父も人品卑しからず」
「聖女様がそう言うのなら・・・」
まあ、取りはぐれても嫌だからね。
これは断じて優しさではない。




