45話
「線が、外へ出ている」
クラウスは紙の中心に指を置いて、そこから外側へ滑らせた。
「陣の図というのは、どれも中へ向かう。集めて、束ねて、一点へ持っていく。あの穴を開けるというのは、そういう作業なのだろう。だが、この一枚だけは逆を向いている」
「集めたものを、外へ出している」
「そうだ。だが、どこへ出す?」
俺は答えなかった。答えは分かっていた。
穴の向こうへ出すなら、他の図と同じことだ。わざわざ逆向きに描く必要がない。中心に集めたものを、穴とは別の、この世界の側へ出す。
つまり、送らずに済ませる。
「三十二年、この線がどこへ行くのか分からんかった」
クラウスは紙から指を離した。
「昨日、お前が話した柱と同じだ。中心に一本立っていて、そこから伸びたものが、どこにも繋がっていない」
部屋が静かになった。
外で荷車が通り、宿の下の通りで誰かが笑った。それが遠くに聞こえた。
「あの建物を作った連中は」クラウスが言った。「向こうへ送るのを、やめようとしたんじゃないか?」
俺は水の椀を置いた。
「送らずに、どうする」
「聖堂の中で、最後まで済ませる。瘴気を消すところまで、自分たちの手でやる。……そのつもりで、真ん中に一本立てた。だが、届かなかった」
届かなかった。だから未完成のまま残り、後の誰かが継ぎ足そうとして、それも失敗した。
筋は通る。通りすぎて、俺は口の中が渇いた。
クラウスが顔を上げた。
「小僧。お前は、それをやっている」
「……何の話だ」
「とぼけるな! 腹で作って、胸で変えて、上へ送っていると言ったのはお前だぞ。送った先は神ではない。お前の中にある、どこでもない場所だ。そこで最後まで済ませて、余ったものを垂れ流している」
三年前、クラウスの家で口を滑らせた説明を、この男は一言一句覚えていた。
「あの柱がやろうとしたことを、お前は身体でやっているのだ」
言葉にされると、妙な感じがした。
俺は自分のことを、ずっと出来損ないだと思っていた。魔力が測れず、奉納もできず、制度の中に居場所がない人間。二十人の司祭が一日がかりでやることを黙って毎日やっていても、それは隠すべき欠陥でしかなかった。
その欠陥が、あの建物を建てた人間の考えていたことと、同じ形をしている。
「……偶然だろう」
「偶然でも構わん。同じ形をしているという事実だけが要る」
クラウスは古い紙を丁寧に畳んで、油紙に戻した。それから、思い出したように付け足した。
「もっとも、私の三十年は、これで振り出しに戻ったわけだがな」
その日から、四日が過ぎた。
俺は受け入れ所へ通い続けた。石を数え、箱を運び、日当の銅貨五十枚を受け取る。夜は宿でクラウスの手伝いをした。十四枚の写しを、この男は毎晩並べ替えている。並べ方の順番を変えると、繋がる線と繋がらない線が出るのだという。
金にはまだ余裕がある。
次の儀式は六日後だ。もう一度潜り込めば、取り損ねた三枚が埋まる。埋まったところで全部にはならないが、埋めないよりはいい。
やる気でいた。
五日目の昼、土間へ戻ると、ハンネが帳面を閉じてこちらを見ていた。
いつもは筆を止めない人だ。
「儀式の日のことでね」
嫌な間があった。
「あの日、あんたは休みだった。うちからは誰も出していない。……なのに、昼過ぎに石の箱を担いで坂を下りてきたね」
「はい」
「浄め終わった石を戻す班は十人だ。名前も分かってる。あんたはその十人に入っていない」
俺は箱を置いた。置く手が遅れなかったのは、我ながら上出来だった。
「五日、黙ってた。書かずに済ませられないかと思ってね」
ハンネは帳面の上で指を組んで、俺を見ている。責めている目ではない。困っている目だ。
「あんた、あの日、何をしていたんだい?」




