22話
翌朝から、俺は町を歩いた。
まず、西へ抜ける手前の宿に張りついた。逃げてくる荷馬車は、たいていそこで一晩休む。御者を捕まえては、同じ話を繰り返した。空の荷台に木箱を積んでくれれば、王都の教会が受け取りの判を押す。運び賃はそのとき出る。
三人に断られて、四人目が話に乗った。年嵩の男で、この街道で二十年商いをしてきたという。
「石が減れば、司祭が起きるのか?」
「起きます。三人とも、削れきったわけではないはずです」
「そんならやる。やってやるとも。俺の孫が、この町の水を飲んでるんだ」
それで一台が動いた。話が伝わって、次の日に二台増えた。
三台に分けたのは、俺が頼んだからだ。十六箱なら、詰めれば一台に載る。だが載せてしまえば、その一台が潰されたときに全部が終わる。
人手のほうは、エーリクがギルドの張り紙を出した。等級不問、王都まで、日当銅貨二十枚。夕方には四人が名乗り出た。全員が、仕事を失って王都へ戻る組だった。
積み込みは三日後と決まった。
その三日のあいだ、俺は堂の中で木箱を数え、割れかけた箱を打ち直し、荷崩れしないように詰め替えた。一箱に五十ほど入って、全部で十六箱あった。誰も手伝いに来ないので、一人でやった。
石を触っていると、腹の底が疼く。
箱から一つ摘み上げて、意識を通せばいい。三つ数えるほどで、その石は灰色になる。あとは同じことを、八百回繰り返すだけだ。
できる。
だが、それをやったら、この町は俺の顔を覚える。
荷車の話も、張り紙も、御者の孫の話も、全部が無駄になる。町の人間が自分たちで石を出したという事実が消えて、代わりに、通りすがりの聖者が奇跡を起こしたという話が残る。その時一人に跪いても次に石が溜まったとき、この町にできることが何も残らない。
俺は箱に蓋をして、釘を打った。
二晩目の夜だけ、俺は例外を作った。
祭壇の裏側、床に直に置かれた箱が二つある。いちばん古いぶんだ。板が湿って黒ずんで、そこだけ床石の色が変わっている。井戸へ滲んでいるのは、ここからだった。
三日後まで待てば、その三日ぶんが地面へ落ちる。
俺は灯を落として、その二箱を開けた。
中身を手に取っては、意識を通す。溶ける。次。溶ける。一箱ぶんも通さないうちに、腹の底が膨れてきた。指先が痺れる。器はいくらでも呑むが、通す俺のほうが追いつかない。
途中で一度、手が止まった。
冷たい火が、底で首をもたげていた。
——ここまでやるなら、全部やればいい。
俺の声だ。あの白い場所で聞いたのと同じ。
俺は膝をついて、息を整えた。井戸端で水を汲んでいた女の顔を思い出す。列に並んでいた老人を。粥を分けてくれた男を。それを順に並べていくと、火は少しずつ小さくなった。
五十を少し越えたところで、俺は手を止めた。東の空が白みかけていた。床石の色は変わらないままだったが、あの饐えた匂いは薄くなっていた。
浄めた石は、もとの箱に戻さなかった。十六箱に少しずつ散らして、混ぜた。捨てれば数が合わなくなるし、一箱だけ灰色になっていれば、蓋を開けた誰かが必ず気づく。散らしておいて、紛れ込んでいたと勘違いしてくれることを期待する。
三日目の朝、荷車が教会の前に並んだ。
三台。御者が三人と、探索者が四人。町の人間が十数人、遠巻きに見ていた。エーリクが書いた紙は、司祭の枕元で判をもらってあった。
最初の箱を荷台へ上げたところで、鐘が鳴った。
町の南だ。見張り櫓の鐘が、間を置かずに二度、三度と鳴っている。
御者の一人が縄を落とした。
「……来た」
何が来たのかは、すぐに分かった。石壁の向こうで、空気が変わっている。腹の底が、はっきりと反応していた。王都の林で嗅いだものとも、この町に薄く漂っていたものとも違う。
濃い。そして、動いている。




