4話
やってみるか。目を閉じて、意識を眉間の裏へ集めた。流れが抜けていく、その手前で押し留める。せき止める。器の形を思い描く。
痛い。頭の芯が軋んで、ほんの数秒で脂汗が滲んだ。それでも押さえ続けた。抜けていく量が、わずかに減った気がする。だが——
漏れる。押さえたそばから、指の間の水みたいに逃げていく。器の壁が薄いとか、そういう話ではなかった。そもそも、留まる気がないのだ。この身体の中に、それを置いておける場所がない。器を思い描いたところで、水を素手ですくっているのと変わらない。
三十を数えたところで限界が来た。意識を緩めると、流れは元通り外へ抜けていく。
俺は寝台に倒れ込んで、天井を睨んだ。息が上がっている。心臓が早い。たったこれだけで、この身体はもう音を上げている。当たり前だ。十二年、垂れ流しの筒として生きてきた身体に、いきなり栓をしろと言っているのだから。
やり方が違う。呼吸を整えながら、俺はそう考えていた。せき止めるのが間違いなのだ。流れの中に器を置こうとするから、流れに押し流される。この身体の内側に置き場所がないのなら——
この身体の外に、置けばいい。
思いついた瞬間、前世の記憶が引っかかった。授業で聞きかじった、次元の話。紙の上に住む生き物には高さがわからない。紙に小さな穴を開けて、そこから下へ袋を垂らしてやれば、紙の上の連中には点にしか見えないのに、中にはいくらでも物が入る。
アニメや漫画に出てくる、あの便利な四次元の道具。ようは、外から見たら小さいのに中はいくらでも入る、あれだ。
馬鹿げた発想だと思った。だが、俺は既に、この世界の理屈から外れたことを身体でやっている。今さら一つ増えたところで、どうということはない。
もう一度、目を閉じた。今度は器を思い描かない。代わりに、眉間の裏のあたりに、この世界とは重ならない一枚を——薄い層のようなものを、思い描こうとした。ここでもなく、どこでもない場所。そこへ流れ込む先を繋げてやる。
繋がらなかった。当然だ。頭の中で漠然と念じたところで、何がどうなるものでもない。手応えは何一つなく、流れはこれまでどおり、俺の頭を抜けて外へ出ていった。
それでも、俺は寝台の上で笑っていた。
できないことがわかったからではない。やり方の目星がついたからだ。せき止めるのではない。別の場所へ流す。この身体の内側で完結させようとするから無理があるのであって、そもそも置き場所を用意してやればいい。あとは、それをどうやって形にするかだけの話だった。
この欠損を治せるのはわかっている。あの白い場所で、俺は自分の魂の欠けに神気を注ぎ続けた。埋まりかけていた。時間さえあれば塞がっていたはずだ。それを、天使どもが待ってくれなかっただけの話で、傷そのものはあのとき何も変わっていない。要るのは量と、時間だけだ。
問題は、その量がどれだけなのかを、俺が知らないことだった。神界では汲めば汲むだけ湧いたから、量を測る必要がなかった。この漏れ具合を見るかぎり、一日で貯まる量はたかが知れている。一年か。二年か。もっとか。どちらにせよ、今日明日の話ではなかった。
俺は右手で顔を覆って、焦るな、と自分に言い聞かせた。打たれ続けて、黙って、事故として処理されて。そんなことがあと数年増えたところで大差はない。
変わったことがひとつある。これまでは、ただ耐えるだけだった。これからは、貯めながら耐える。それだけの違いで、この離宮の天井が少しだけましなものに見えた。
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