3話
翌日、マルタが朝食を置いて下がったあと、扉を閉めて独りになってから、俺は自分の身体を検分にかかった。やることは決まっている。確かめるのだ。この身体が、あのときと同じものかどうかを。
森にいたころ、俺は身体の奥にある熱を無自覚に使っていた。傷が塞がるのが速かったのも、跳べる距離が異様だったのも、あれのおかげだ。神界では、それが大河のように湧いた。あの感覚を、俺は覚えている。
目を閉じて、呼吸を落として、身体の内側へ意識を向ける。
——あった。
驚くほどあっさりと見つかった。腹の底に、薄く、けれど確かに流れているものがある。冷たくも熱くもない。ただ、そこにある。ゴブリンだったころは名前も知らず「熱」としか感じていなかったもの。神界で汲み放題だったもの。それが、この十二歳の身体にもちゃんとあった。
当たり前か、と思った。魂に刻まれた傷が持ち越されたのなら、性質だって持ち越される。器が変わっても中身は同じだ。
問題はその先だった。意識を沈めたまま、俺は流れを追いかけた。腹の底で生まれたものが、どこへ行くのか。
上がっていく。胸のあたりで質が変わった。腹にあったときよりも澄んで、軽くなる。さらに上がって、眉間の裏あたりまで来て——そのまま外へ抜けていった。
「……は?」
思わず声が出た。もう一度やってみたが、同じだった。腹で生まれ、胸で変わり、頭を通って、そのまま身体の外へ流れ出していく。溜まらない。一滴も残らない。蛇口をひねりっぱなしの水道だ。栓がない。
俺は目を開けて、天井を見上げた。そういうことか。
この国の人間は、生まれた子の魔力量を測る。俺の測定はいつまでも終わらなかった。針が動かなかったからだ。魔力なし。属性なし。測定不能の出来損ない。
違った。俺の身体は、魔力を留めていなかっただけだ。生まれた端から勝手に上へ上へと押し上げて、別のものに変えて、外へ捨てていた。だから針が動かない。測る場所に何も残っていないのだから。十二年間、俺は垂れ流し続けていたのだ。
何を、とは、もう考えるまでもなかった。魔力ではない。いわば神力——神気とでも呼ぶべきものだ。白い場所に満ちていた、あのあふれる力。神が息をするように世界へ流していたもの。それと同じものを、この身体は腹の底で作って、外に漏らし続けていた。
馬鹿げていた。俺は寝台に寝転がったまま、乾いた笑いを漏らした。
魔力がないと侮られてきた。属性のひとつも持たない出来損ないだと。城の連中がそう言うたび、俺は黙っていた。事実だったからだ。ただ、理由が逆だった。魔力が生まれないんじゃない。生まれたものが、魔力なんかで留まっていられなかっただけだ。
俺は身を起こして、窓の外を見た。手入れのされていない庭に雑草が伸びて、その向こうに城壁があり、さらに向こうに王都の屋根が並んでいる。
腹の底で生まれるもの。その材料は、どこから来ているのか。意識を下げて、もう一度、流れの根元を探った。
入ってきていた。外から、空気の中から、じわじわと。目には見えない、薄い、澱んだ何か。それが呼吸のたびに身体に入り、腹の底で捕まえられ、上へ送られていく。
知っている。あの森で、俺の身体が勝手に取り込んでいたもの。神界で下界に降りていくと聞かされたものの、逆。瘴気だ。
この世界は瘴気に満ちている。それを木が吸い、作物が蓄え、人が食い、魔物を討って魔石に固め、教会が浄化する。そうやって回っている——というのは、家庭教師のヨナスに教わった、子供でも知っている話だ。
だが、俺の身体はそのどれとも違うことをしていた。吸って、変えて、捨てている。木でもなければ人でもない、そのどれにも当てはまらないやり方で、この痩せた十二歳の身体が、寝ているあいだも勝手にやり続けている。しかも、貯めもせずに垂れ流しで。
「……無駄遣いにも、ほどがあるだろう」
自分の腹を見下ろしてつぶやいたが、同時に、はっきりしたこともある。栓がないのなら、栓をすればいい。腹で作り、胸で変え、頭で捨てている。なら、捨てる前に留めればいい。頭のところで器を作ってやればいい。神界では汲むだけで満ちていたから考えもしなかったが、ここでは自分で溜めるしかない。
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ダメ出し、もう見ないコメでもなんでもオケです




