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望まぬ転生をした俺は、三度目の生を生きる  作者: 放浪猫
三度目の生
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1話

 その日も、私は打たれていた。

 中庭に集まった見物人たちの、押し殺した笑い声が聞こえる。石畳の上で膝をついた私に影が落ちた。木剣を肩に担いだ、義弟のラインハルトだ。


「兄上。もう終わりですか?」


 十歳の弟が、十二歳の私を見下ろして笑った。


「まだ三合ですよ。稽古になりません」


 私は答えなかった。答える言葉を持たなかったからだ。左腕は肘から先がなく、右目は光を映さない。生まれたときからそうだった。木剣を握るのは右手一本で、それも、まともに振れたためしがない。


「ケルナー卿。兄上は、どうも剣がお嫌いなようだ」


「なりませぬ、殿下」


 騎士団副団長のケルナー卿が、うやうやしく頭を下げた。伯爵位を持つこの男は、いつも同じ顔で同じことを言う。


「王子たるもの、剣のたしなみは必須にございます。ジークベルト殿下も、いずれはこの国を支えるお方。今のうちに、しっかりとお身体に覚えていただかねば」


 覚えさせられているのは剣ではない。怪我をしない打たれ方だ。どこを打たれれば骨が折れずに済むか。どう倒れれば次の一撃がましになるか。三年もこれをやっていれば、そういうことばかり上手くなる。


 立て、と目で促される。動かすたびに痛む体に鞭をうち立ち上がる。立たなければ終わらない。

 ラインハルトが踏み込んできた。年齢の割にはかなり速い。性格は悪いが剣は真面目に修練しているのだろう。私は右手の木剣を上げたが間に合わず、肩口に衝撃が走って視界が傾いた。また、石畳の砂利をなめた。


「兄上は、本当に何もお持ちでない」


 倒れた私の頭の上で、弟の声がした。


「腕もない。目もない。魔力すら、ないと聞きました。測定した者が困り果てていたそうですね。数値がまるで出ない、と。——奉納の儀にも出られぬそうではありませんか。魔石ひとつ浄められぬ王族に、いったい何の値打ちがあるのでしょう」


 それは事実だった。この国の人間は、生まれた子の魔力量を測り、属性の適性を見て将来を占う。とりわけ王族にとって、それは占い以上の意味を持つ。大きな魔石を浄めるには、聖職者の力だけでは足りない。魔力を持つ者が、それを教会へ奉納しなければならない。王族が魔力を求められるのは、そのためだ。国が背負う浄化の一端を、血の値打ちとして差し出す。それが務めだった。


 私の測定は何度も繰り返されたらしい。魔力があれば動くはずの測定の針が動かなかったからだ。

 魔力なし。属性なし。そして欠損ふたつ。私には生まれつき右目と左腕がなかった。ないない尽くし。それがこの国の第一王子である私だった。


「そんな兄上が、なぜ長子なのでしょうね?」


 ラインハルトが、木剣の先で私の頬をつついた。


「順序を間違えて生まれてきただけの、ただの出来損ないだ。父上も、内心では持て余しておいでですよ。あなたさえいなければ、この国の継承はもっと綺麗な形に収まったのに」


 見物人の誰かが、堪えきれずに噴き出した。それも事実なのだろうと思う。この国の第一王子は剣も握れず、魔力も持たない。私がいなければ誰も困らなかった。


「さあ、立ってください。まだ稽古は終わっていない」


 私は石畳に手をついた。立たなければ終わらないと、三年でわかっている。倒れたままでいれば、彼らは飽きるまで打ち続ける。早く終わらせるには立つしかない。

 だが、その日は少しだけ違った。立ち上がった私の腹の底で、何かが動いた気がしたのだ。三年間、一度も湧いたことのないもの。熱くはない。むしろ、冷たかった。

 右手の木剣を、握り直していた。


「おや」


 ラインハルトが笑った。


「やる気になりましたか、兄上」


 言葉は出なかった。ただ、目を逸らす気にはならなかった。それだけのことが、この三年で初めてだった。弟の顔から、笑みが消えた。


「……気に入りませんね、その目」


 踏み込みがそれまでと違った。稽古の中の決まりきった型ではない、本気で打ち据えにきた者の動きだった。

 打ち下ろされる剣に合わせ私は木剣を上げた。木剣と木剣がぶつかって、乾いた音が鳴る。見物人がざわめいた。

 自分でもよくわからなかったが、私が剣を受けた。三年間、一度もできなかったことだ。腕が痺れて足がふらついたが、倒れはしなかった。ラインハルトの顔が歪んだ。


「ケルナー卿」


「は」


「兄上に、しっかり教えて差し上げろ。身の程を」


 ケルナー卿が前に出た。こいつの身分は伯爵家、騎士団の副団長を務める、大人の男だ。十二歳の、それも身体に欠損のある子供に向けるべき剣ではないものを、稽古という名目で私にふるってきた。そしてそれをラインハルトが許している。


「失礼いたします、殿下」


 風の音がしたと同時に、側頭部に衝撃を受けた。避けようとしが、避けられるはずがなかった。


 世界が、白く弾けた。


 石畳が近づいてくるのが、やけにゆっくり見えた。ぶつかる音も遠かった。誰かが何か言っている。ざわめきが遠のいていく。ああ、これはまずいやつだ、と他人事のように思った。暗くなる。沈んでいく。

 ——ここは、どこだ。

 暗い。何も見えない。だが、この暗さを私は知っている気がした。ずっと前から知っている。


 そして、流れ込んできた。

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ダメ出し、もう見ないコメでもなんでもオケです

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