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10話

本日2話目


やっとタイトル回収です

 ——痛い。

 後頭部に割れるみたいな痛みがあった。俺はうめいた。その声が自分の耳にはっきり届いた。魂の身に響く、あの遠い意味の流れじゃない。空気を震わせて喉から出る、生々しい人間の声だ。


 目を開けばそこには、見慣れない、でも知ってる天井があった。石造りの高い天井。天蓋のついた大きな寝台。差し込む光はあの果てのない白じゃなく、窓から入るただの朝の光だった。

 俺はこの世界に人間として生きてた。

 ゆっくり右手を持ち上げてみる。そこにあるのは細い子どもの手だ。それから左を持ち上げようとして、動かない。あるはずのものがそこにはない。左腕は肘のあたりから先が生まれつきなく、右目も光を映さなかった。


 この欠けを、俺は知ってる。

 そう思った瞬間、堰が切れたみたいに全部がなだれ込んできた。

 森。相棒。剣を教えてくれた、あの女騎士。ヴォルヒルド。彼女がくれた名前——ヴァルド。人間だったころの生。妹。神界。白い墓場。斬り続けた、無数の神々。抉られた左腕と右目。落ちていく、あの感覚。二つの生と、そのあいだの全部を俺は思い出してしまった。


 あとで聞かされたが、俺は三日眠ってたらしい。剣の稽古の最中に頭を強く打って倒れたんだ、と。稽古と大人たちは言った。でもあれは稽古なんかじゃない。欠けた身体で生まれて疎まれてきたこの国の王子を、弟とその教育役が面白半分に打ち据えてただけだ。あれはただの暴力だ。


 その一撃が、俺の頭の奥の固く閉じてた扉を叩き開けた。

 皮肉な話だと思った。最初の生も頭を打って目覚めるところから始まった。森で、何もわからないまま。そしていま、三度目の生も頭を打つことで始まり直した。打たれて思い出した。俺が何者だったのかを。


 寝台の上で、俺はしばらく動けなかった。膨大な記憶が小さな子どもの身体には重すぎた。二つの人生の喜びと痛みと喪失を、この細い身体にいっぺんに抱えてる。息をするのがやっとだった。

 でも混乱の底で、ひとつだけ静かに灯るものがあった。


 彼女のことだ。ヴォルヒルド。俺に名前をくれて、最後に俺を看取ってくれた人。あのとき彼女は剣を構えたまま、ずっと何かを話しかけてた。意味はわからなかった。ただ、震えた声の響きだけがいまも耳に残ってる。言葉が戻ったいまでも、あれが何だったのかはわからないままだ。

 でも、なぜだろう。あの響きは別れの言葉にしてはやわらかすぎた気がする。まるでこの先のことを願ってるみたいな。


 ——彼女も俺みたいに、この世界のどこかへ生まれ直してたりするんだろうか。


 ただの願いだ、根拠なんて何もない。叶うあてもない、ちっぽけな願いだ。それでもその問いは、重すぎる記憶を抱えた俺の、たったひとつのあたたかい灯りだった。

 俺は右手で寝台の縁を握った。まだ力の入らない子どもの手で。

 起き上がらなきゃ、と思った。あの白い場所で頭をよぎった嫌な予感。あれが本当なのかどうかも、この世界で生きていればいずれわかる。


 二度奪われた。二度死んだ。もう失うのはたくさんだ。だから、今度こそ。

評価・星頂けたら嬉しいです


ダメ出し、もう見ないコメでもなんでもオケです

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