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9話

崩れ落ちた俺の周りに、いくつもの気配が集まってきた。

 斬り残した連中だ。遠巻きに俺を囲んでる。誰も踏み込んでこない。踏み込めないんだろう。俺の指はまだ動いてたし、周りの力はいくらでも俺の中に流れ込み続けている。倒れてはいたけど、体力が尽きたわけではない。このまま傷が癒えれば俺はまた立ち上がる。そしてまた斬りはじめる。


 どうすることもできないという空気を感じる。討ち取ろうにも、まともにやり合える連中はあらかた散らされたあとだ。かといって放っておけば俺はまた暴れ出す。同じようなやつらが何体か出てきたところで、止められはしないだろう。もっと上のやつが出てくれば、俺なんて一息で消されるのかもしれない。だが、そういうものは出てこなかった。少なくとも、いま俺を囲んでいる連中の中にはいない。


 だからそいつらは、最後の手段をとった。

 俺の魂に何かをするつもりらしい、というのは分かった。中身は分からない。ただ、そいつらが動きはじめた瞬間から、俺という形がほどけはじめた。


 何体もの天使がいっせいに手をかざした。

 荒っぽい光だった。あたたかくも冷たくもない。ただ俺っていう魂を、まだ形も定まらないうちから力ずくで引き剥がして、どこかへ押し流そうとする流れだった。

 待て、と思った。傷がまだ塞がってない。あと少しだ。あと少し時間があれば。


 そんな都合を聞いてくれる相手じゃなかった。抗おうとした指先から力がほどけていく。踏ん張るための足も、もう俺のものじゃなかった。

 白い場所が遠ざかる。光の粒も、散った神々の名残も、遠巻きにこっちを見下ろす連中の顔も、何もかもが薄れて遠くなっていく。振りほどこうとした。届かなかった。上も下もない白から、どこか別の場所へ俺は落ちていった。


 落ちながらふと、また始まってしまうのかと思った。

 望んでなんかいなかった。もうじゅうぶんだった。二つの生を生きて、二度失って、二度死んだ。もういい。もう眠らせてくれ。でも俺の願いを聞いてくれるものは誰もいない。あの詫びてた神は俺が斬った。願いを託せる相手は、もう俺自身が消しちまってたんだ。


 俺を押し流す力に最後まで抗おうとしたが、そいつは俺よりずっと大きかった。

 落ちていく途中で、俺は魂に刻まれた傷だけが変わらないことに気づいた。

 神の一撃が抉った左腕と右目。時間の許す限り力を注いだが、傷はまだ埋まりきってなかった。あと少し時間があれば塞がったのかもしれない。でも、その時間は与えられなかった。


 新しい生へ注ぎ込まれていく俺の魂がほどけて、運ばれていくなかで、欠けは塞がらなかった。二つの傷だけが黒く欠けたまま残ってた。

 やがて遠くにあたたかい鼓動が聞こえてきた。

 誰かのお腹の中。新しい器。俺の魂はそこへゆっくり沈んでいく。人の子として生まれ直すために。

 沈みながら、俺は最後に感じた。魂の欠けが、生まれ落ちるその形にそのまま写し取られていくのを。左腕のないところ。右目のないところ。二つの生で失って神界でも取り戻せなかったものが、今度は生まれつきの欠けとして、新しいこの身体に刻み込まれていく。


 ああ、と思った。どこまでもついてくる。

 俺は目を閉じた。閉じる目も、まだはっきりとは形になってなかったけど。

 次に目を開けるのがいつになるのか。そのとき自分がこの何もかもを覚えてるのかどうか。それすらもわからないまま、俺は三度目の生に向け、いちばん暗い底へ沈んでいった。

評価・星頂けたら嬉しいです


ダメ出し、もう見ないコメでもなんでもオケです

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