7話
きりがなかった。斬っても、斬っても次が来た。散らせば散らすほど、白い場所の奥から新しいやつらが湧いてくる。力は尽きない。でも、向こうも尽きなかった。ここは敵陣のど真ん中だ。
そのうち、俺は一方的に屠る側じゃなくなってた。
光の刃が掠める。雷が焼く。何重もの囲みが、じわじわ俺の逃げ場を削っていく。——森で、あった。あの日と同じだ。数で囲んで追い立てて削る。あのときと同じことを、今また神が俺に仕掛けていた。
受けた傷は治しながら戦った。傷を負っては力で塞いで、また前へ出る。ここでは力は無尽蔵だったからそれができた。でも――
一体の神の渾身の一撃が、俺の左腕を捉えた。
肘から先が消えた。見覚えのある光景だった。あのでかいやつに断たれたのと、同じ場所。同じ、左腕。俺はとっさに力を集めた。戻れ!元通りに!いつもみたいに!!ここでならいくらでも——。
塞がらなかった。治すための力はあふれてた。いくら汲んでも尽きなかった。なのに、断たれた腕は戻らなかった。掠り傷なら、力を流せばすぐ塞がる。でも、今回は違った。深いところをやられたのがわかった。神の一撃は、俺の姿をの表層じゃなくその奥の——俺っていう魂そのものを、深く抉ってた。
注いだ力が、少しずつその傷を埋めていくのはわかった。続けていれば元通りに治せるのはわかるが――遅い。あまりにも遅い。この傷を元通りにするには、治すのに集中する時間が要る。戦いの真っ最中に、そんな余裕はどこにもなかった。
——森でも、そうだった。
いちばん治したいときに、俺の力は応えなかった。相棒を救えなかった。あのときは、力が足りなかったからだと思ってた。でも、違ったのかもしれない。本当に大事なものは、そのタイミングなども含めた上での力が必要なのかもしれない。
意識がそれていた隙に次の一撃が、俺の右目を潰した。
視界の半分が、闇に落ちた。左腕を失って、右目を失って——何の因果かゴブリンだったあの日と、寸分たがわない姿に、俺はなってた。
痛みは気にならなかった。わずかに感じる痛みが生きてる証を感じさせた。今の状態は生きているとは言い難いが、意識の上では俺は生きていた。そしてもう一つ、あの冷たい火で焼かれる心が、その炎で目の前の存在を全て焼き尽くさんと、片目の視界の奥で静かに燃えていた。
誰かが、俺に何かを言ってた。戦いの最中、囲んでるやつらの一人が——神なのか天使なのか、声を投げかけてきた。必死な響きだった。
「……いない」
切れ切れに、いくつかの音が耳をかすめた。
「お前が、探している……ここには……掟を破り……封じられて……手の届かぬ……」
言葉は聞こえた。ひとつひとつは、知ってる音だったのかもしれない。でも、真っ黒に塗り潰された俺の頭は、それを意味に組み上げることができなかった。水がざるを通り抜けるみたいに。声は、俺の中を素通りしていった。
聞き逃した言葉は、そのまま俺の底のどこかに沈んだ。いまの俺にはただ、届かないものへの渇きしかなかった。
左腕もない。右目もない。それでも俺は、残った右手を握りしめた。手の刃を、握り直すみたいに。
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