6話
白い場所の、奥のほうがざわめいた。
今度は、さっきまでの連中とは違った。詫びる神でも、場を鎮めようとする天使でもない。武器を持ち、戦うために在る神と、その使徒たち。俺っていう異物を討ち滅ぼすために、動員されたんだ。
来い、と思った。
そいつらは、強かった。さっきまでの無抵抗な神々とは違う。光の刃を振るって、雷みたいなものを落として、何重にも囲んで俺を潰しにかかってくる。まともにやり合えば、格が違いすぎる。魂ひとつで敵う相手じゃない。
でも、ここは、あふれる力の海だった。
その力は、いくら使っても減らなかった。森であんなに渇いた、あの熱。すぐ尽きて、相棒を守れなかった、あの力。それがここじゃ、大河みたいに流れ込んでくる。俺は、汲んだ。惜しみなくいくらでも。
見えない壁で、光の刃を弾いた。何枚も、何枚も。森じゃ一枚張るのがやっとだった、あのもろい壁が、ここでは鋼より硬くて、いくらでも重ねられる。見えない足場を蹴って、空を跳んだ。囲みの上へ。頭上から、手の刃で斬り落とす。
森で、命を削ってやっと掴んだ全部が、ここじゃ、息をするみたいに使えた。
俺は、屠った。
片っ端から向かってくるやつら――神を。使徒を。天使を。光の刃が砕けて、雷が散って、翼が裂けた。白い場所が、光の粒で満ちていく。散らされた神々の、なれの果てで。
いつからか、怒りの熱さは消えてた。
残ってたのは、冷たい火だけだった。静かで、暗い、あの火。俺はもう、叫んでなかった。ただ黙々と、斬った。近づくものを斬った。目の前のものを斬った。それが神だろうが、使徒だろうが、関係なかった。
胸の穴を埋めるために斬りまくったが、いつまでも埋まらなかった。終わらなかった。
一柱斬るごとに、穴はむしろ深くなった。屠った数だけ、わかってしまうからだ。——こいつも違う。こいつも、あいつじゃない。俺が本当に憎いやつは、ここにいない。この殺戮のどこにもいない。
わかってて、それでも手を止められなかった。止め方を忘れてた。
その、数えきれない一柱の中に。一体、妙なやつがいた。
そいつは、戦おうとしなかった。逃げようともしなかった。ただ、俺のほうへ、両手を伸ばしてた。何かを渡そうとするみたいに。あるいは、何かを守ろうとするみたいに。
俺は、斬った。他のやつらと同じように。
そいつが散るとき——ほんの一瞬、何かが俺の指先をかすめて、切れた。遠くへ、はるか遠くへ伸びてた、細い糸みたいなもの。あたたかかった。この冷たい殺戮の場には、あまりにも場違いなくらいに。
でも、それが何なのかは、わからなかった。
ひとつの糸が切れた。それだけだった。俺はその手ごたえのなさに、一瞬だけ立ち止まって、それから、また次のやつへ刃を向けた。
白い場所のどこかで、めぐるはずの何かが切れた。——それにも、俺は気づかなかった。




