5話
動いてた。考えるより先に、身体が——魂に人の姿を得た、その身が動いてた。あふれる力を、右手に集める。森で、剣の刃にまとわせた、あの見えないもの。壁にもなったし、刃にもなった、あの力。それがいまは、汲んでも汲んでも尽きない。剣なんてなくてもよかった。俺の手そのものが、刃になった。
振るった。目の前の、俺に詫びていた神へ。
神は、避けなかった。避けられなかったのか、避ける気がなかったのか——たぶん、後者だ。あの大きな存在は、最後まで、俺のほうへ、あの憐れむような眼差しを向けたままだった。斬られることさえ、償いの一部だとでも言うみたいに。
見えない刃が、神を裂いた。
手ごたえなんて、なかった。岩でも肉でもない。ただ、あの白い輪郭が、断たれた紙みたいにほどけて、散った。光の粒になって、白い場所に溶けていく。あれだけ大きくて、あれだけ格が違ったものが。——あっけなく。
一柱、消えた。俺は、待った。胸のあの穴が、少しでも埋まるのを。
埋まらなかった。何も変わらなかった。神を一柱殺したところで、相棒は戻らない。妹も戻らない。両親も。あのあたたかい毎日も。冷たい火は、燃やすものをもらったどころか、もっと飢えた。足りない。こんなんじゃ、全然足りない。
——こいつじゃない。
どこかで、わかってた。この神は、俺を弄んだやつじゃない。詫びてた側だ。むしろ、俺に報いようとしてた側だ。そんなことは、わかってた。わかってて、それでも止まれなかった。本当に斬りたいやつは、ここにいない。手が届かない。だから——手の届くものを、斬るしかなかった。
白い場所が、ざわめいた。いくつもの気配が、こっちへ集まってくる。神ほどじゃないけど、人間よりはずっと大きな者たち。背中に翼みたいなものを広げてる。前世で見た宗教画や、ゲームに出てくる天使を、そのまま引き伸ばしたような姿だった。俺を止めようとしてるのか、それとも崩れかけた場を鎮めようとしてるのか。
使徒。天使。前世で本や絵の中に見た、そういう名で呼ばれる連中だ。
止めに入ったそいつらを、俺は斬った。
振り向きざまに、一体。踏み込んで、二体。手が刃なら、間合いも向きもいらない。力はいくらでも湧いた。翼が裂けて、白い輪郭がほどけて、光の粒になって散っていく。何体斬ったかなんて、覚えてない。
「出せ!」
俺は、叫んでた。声が戻ってたことに、自分でも驚くくらい、はっきりと。
「あいつを出せ!俺を弄んだ、あいつを!!ここへ連れてこい!!」
答えは、なかった。誰も答えられなかった。あるいは、答えられるやつなんて、とっくにいなくなってたのかもしれない。
俺は、暴れた。手当たり次第に。近づくものを、遮るものを、片っ端から。白い場所はもう、静かな祈りの場所じゃなかった。散った光の粒があちこちに舞って、俺っていう一点を中心に、崩れて、乱れていった。
止まれなかった。止まる理由なんて、どこにもなかった。埋まらない穴を抱えたまま、俺はただ、斬り続けた。
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ダメ出し、もう見ないコメでもなんでもオケです




