4話
神は、まだ何かを語り続けてた。
詫びそして慰め。これから起きることの説明。たぶん、そういうことだったんだと思う。あの神なりの、償いのつもりだったのかもしれない。でも、その言葉はもう、俺の中に入ってこなかった。
伝わってくる意味の流れが、水の中で聞く声みたいに輪郭をなくして、ただの遠い響きに変わっていく。聞いてなかった、っていうより、聞ける状態じゃなかった。頭の中で、まったく別のことが起こりはじめてたからだ。
バラバラだったはずの記憶が、ひとつに繋がろうとしてた。
あの森のこと。相棒を殺した、あのでかいやつのこと。——いま思えば、おかしな話だった。前世でやったゲームでいえば、あれはボスキャラだ。ゴブリンの群れを従える、一段格上の親玉、たぶんゴブリンジェネラルとかキングとかいう奴だったんだろう。でも、なんであんなものが、あの森にいた? なんであの群れは、あそこまで異常に増えて、森から溢れ出して、よりによってあの日、俺と相棒の前に現れた?
理由なんて、ひとつしかなかった。弄ばれてたからだ。誰かの退屈しのぎのために、あの災いは仕組まれたか、面白がって見過ごされたか。どっちにしろ、同じことだ。
妹のことも。あの子を蝕んだ病気も。両親を奪った事故も。金がなくて、力がなくて、俺が何ひとつ守れなかったあの日々も。——全部、同じだ。
ひとつの手だ。俺の人生の何もかもを、上から弄んでた手が、ひとつあった。森での生も。人間としての生も。覚えてすらいない、その前の生も。バラバラの不幸だと思ってたものが、いま、一本の線で繋がった。その線の先にいるのは、あの暗くて粘っこい気配——笑いながら俺を見下ろしてた、あいつだ。
相棒を殺したのは、あのでかいやつだと思ってた。だから、あいつを討った。討って——何も戻らなかった。当たり前だ。あいつは手先ですらない。ただの駒だ。盤の上で動かされてた、緑の駒。本当に相棒を殺したのは、その盤を上から眺めて楽しんでたやつのほうだ。
妹を殺したのも。両親を殺したのも。俺を、何度も何度も殺してきたのも。
全部、あいつだ。胸の奥で、あの火が燃え広がった。
相棒を失ったあの夜、俺の中に生まれた、冷たい火。暗くて静かな、あの敵意。ボスを討つまで俺を立たせ続けた、あの火。消えたと思ってた。討ち果たして、燃やすものがなくなって、すっと消えた——はずだった。
消えてなんかいなかった。ただ、燃やす相手を間違えてただけだ。あのでかいやつなんて、薪にもならなかった。本当にくべなきゃいけないものは、もっとずっと奥にいた。それがわかった瞬間、火は、今までとは比べものにならない勢いで、俺の魂そのものを舐めはじめた。
殺す。あの、笑ってたやつを。俺の生を全部おもちゃにした、あいつを。この手で。
でも——どうやって? 俺は魂だけの身だ。人の姿は取り戻したけど、そんなのはただの器でしかない。剣もない。頼れる肉体の力もない。あの、身体の奥の熱だって、いまはもう——。
そこまで考えて、気づいた。
この場所に満ちてるもの。むせ返るくらい濃い、あの白いもの。あれが何なのか、いまの俺には、感じ取れるようになってた。神から、絶えず溢れ出してる力。——神気、とでも呼ぶべきものなんだろう。でも、そのときの俺にとっては、ただ、あふれてやまない力でしかなかった。この世界の、ありとあらゆる力の源。
そして、俺のあの熱——森でいつもすぐ尽きた、あの力。あれは、これと同じものだった。俺の身体がなぜかこれを作り、力に変えてた。ただ、森ではこれが少なすぎたんだ。だからすぐに枯れた。相棒を守りきれなかったのも、自分の死を止められなかったのも、突き詰めれば、それが足りなかったからだ。
でも、ここは違う。あふれてる。汲んでも汲んでも尽きないくらいに。ここでなら、俺のあの力は——枯れない。
試しに、自分の中にそっと熱を巡らせてみた。森でやってたのと同じように。
湧いた。とめどなく。森では一滴だったものが、ここじゃ大河みたいに。俺っていう小さな魂じゃ抱えきれないほどの力が、いくらでも流れ込んでくる。
これなら、届く。
俺は、顔を上げた。まだ遠くで何かを伝え続けてる、あの大きな存在へ。俺に詫びていた、神へ。
その眼差しに、俺は初めて、まっすぐ向き直った。冷たい火を灯した目で。
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ダメ出し、もう見ないコメでもなんでもオケです




