2話
その白さが動いた。どこからともなく、それは近づいてきた。姿がある、とは言えなかった。人のようでもあり、光そのもののようでもあり、見ようとすると輪郭がほどけて、また結び直す。ただ、大きかった。俺という小さなものを、まるごと包んでしまえるほどに。そして、その存在の全部があの静かな眼差しでできていた。
俺は、竦んだ。身体もないのに、竦んだ。あの、いちばんでかいやつを初めて見上げたときよりも、なお深いところで。これは、格が違う。俺のような小さなものが、対峙していい相手ではない。本能のもっと奥がそう告げていた。
だが、それは、俺を害さなかった。代わりに、伝わってきた。
——済まなかった。
声ではなかった。音ですらなかった。口も、言葉も、そこにはない。ただ、意味だけが、白い場所そのものを通って、まっすぐ俺の中へ流れ込んできた。悔いて、赦しを乞うような——そういう色をした意味が。この、大きなものは、俺に、詫びていた。頭を垂れるように。
わけがわからなかった。なぜ、これほど大きなものが俺のような小さなものに。俺は、こいつに何もされていない。損なわれた覚えも、ない。それなのに、詫びられている。詫びられる筋合いがどこにあるのか。
俺の戸惑いを、それは受け取ったらしかった。次の意味が流れ込んできた。今度は、もっと重く、もっと深く。
——お前は、弄ばれてきた。
弄ばれた。もてあそばれた。俺が。何度も。この生だけではない。その前も。そのまた前も。俺の知らない、覚えてもいない、いくつもの生を通して、俺という魂は、ずっと、誰かの慰みものにされてきた。
誰か。その意味の底に、俺は、もう一つの気配を感じた。この、詫びている大きなものとは、別の。もっと、暗くて、粘つくもの。俺の苦しみを、上から覗き込んで、笑っていた何か。この白い場所のずっと向こう、手の届かないどこかで、それは今も——。
像は結ばなかった。名も、わからない。ただ、その気配だけが俺の中に冷たいしみを残した。
誰かが俺を弄んでいた。あの森の生が。相棒の死が。俺自身の死が。俺があんなにも懸命に生きて、失って、守って、死んだ、その何もかもが——誰かの、退屈しのぎの一齣だったというのか。
まだ、飲み込めなかった。あまりに大きすぎて、うまく形にならなかった。ただ、足元が——足など、ないのに——崩れていくような、そんな感覚だけがあった。
大きなものの眼差しが俺を包んだ。憐れむように。そして、うながすように。
——知るがいい。
その意味とともに、それは、俺の魂の、いちばん奥の、固く閉じられていた扉に、そっと触れた。
次の瞬間、堰が切れた。
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ダメ出し、もう見ないコメでもなんでもオケです




