1話
終わったはずだった。剣が振り下ろされて、あのあたたかい光の中で、彼女の顔を最後に見て——俺の生は、そこで途切れた。あとには、何もないはずだった。暗くて、静かで、痛みも寒さもない、深い無。傷ついた獣が最後にたどり着く、いちばん奥の眠り。俺はそれを受け入れていた。悪くなかった、と思いながら。
だから、目を開けたとき、俺は戸惑った。
目、と言っていいのかもわからなかった。開けるべき瞼が、そこにはなかった。見上げるべき天井も、横たわるべき地面も、ない。あるのは、白かった。どこまでも白い。上も下もない、果てのない白さの中に、俺は——俺だったものは、ただ在った。
身体がなかった。手を握ろうとした。握る手がない。左の手を失ったのは覚えている。あの、鉄の塊にもがれた。右の目も、見えない礫に潰された。だが、今、ないのはそれだけではなかった。右の手も、両の足も、貫かれたはずの胸すらも、どこにもなかった。俺は、輪郭を持たなかった。
それなのに、痛みだけが残っていた。
傷そのものはない。血もない。折れる骨もない。なのに、左の腕があったあたりが、右の目があったあたりが、まだ疼いていた。痛みの記憶、とでも言うのだろうか。身体を失ってなお、俺の何かは、あの最期の傷を握りしめていた。
ここは、どこだ。森ではない。穴でもない。草原でも、人の町でもない。俺の知っている場所は、どれもこんなふうに白くはなかった。そして、この白さは——ただの色ではなかった。何かに、満ちていた。目に見えない、けれど確かにそこにあるもの。息を吸えば胸を満たすような、水に浸かれば肌を包むような、そういう何かが、この白い場所には、あふれるほどに満ちていた。
あたたかいわけでも、冷たいわけでもない。ただ、濃い。むせ返るほどに。
そして、俺は気づいた。視られている。
誰か、が。あるいは、何か、が。姿は見えない。だが、まちがいなく、この白さのどこかから、俺は視られていた。値踏みするのでも、憎むのでもない。もっと、静かな眼差し。ずっと前から、俺を待っていたような。——俺は、ここへ、呼ばれたのだ。誰かに。何かの意図をもって。理由はわからない。だが、そう感じた。
おかしい、と思った。俺は、終わったはずだった。ちゃんと、別れを告げた。守れた、と思いながら死んだ。彼女の涙を見て、笑おうとして、あの言葉——あんたにしか頼めない、と名を呼んで。それで、いいはずだった。それで、幕が下りるはずだった。
なのに、俺は、まだ「俺」だった。
消えていない。眠れていない。無をもらえていない。
この白い場所で、身体もなく、痛みの記憶だけを抱えて、俺は、何かに視られながら、ただ在った。
——終わっていなかった。
そのことを、このときの俺は、まだうまく飲み込めずにいた。
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ダメ出し、もう見ないコメでもなんでもオケです




