28話
間に合った。
俺の張った見えない壁があのでかいやつの武器を受け止めていた。頭の上で、鉄の塊が止まっている。壁は、割れていなかった。
あの日とは、違う。相棒を守れなかった、あのもろい壁とは。今の壁は硬い。拒む気持ちを込めているからだ。入ってくるな。この女に触れさせない。奪わせない。二度と、俺の大事なものを——その気持ちが壁を鋼のように硬くしていた。
でかいやつが俺を見た。小さな緑の何かが自分の一撃を止めた。それが信じられないようだった。落ち窪んだ目が俺をじっと見る。それから、その目が細くなった。俺のことを、覚えているのかもしれない。あの日、逃した獲物。相棒を連れていた、はぐれの個体。
覚えていろ。俺は、お前を覚えている。
背後で、気配が動いた。俺が守った、あの女だ。剣を教えてくれたほう。振り向かなくても、わかった。息を呑んで、俺を見ている。
守れた。今度は、守れた。だが、まだ始まったばかりだ。
俺は、壁を弾けさせた。受け止めていた壁を、内から破裂させるように、でかいやつの武器を押し返す。そいつの巨体がわずかにのけぞった。その隙に、俺はあの女の前から跳び出した。
地を蹴る。熱を込めた脚で。身体が軽い。あの殺し合いの日々で、いやというほど繰り返した動きだ。でかいやつと、あの女のあいだに割って入る。そいつの狙いを、あの女から俺へ移すために。
こっちを見ろ。相手は、俺だ。
でかいやつが吠えた。地を揺るがす声。周りの群れがそれに応えてざわめいた。数えきれないほどの緑。そして、その中から進み出てくるやつらがいた。鎧のような外皮の、大きなやつが三体。あの、見えない礫を飛ばす痩せたやつが、その後ろに三体。あの日、俺と相棒を追い詰めた連中だ。
だが、あの日の俺ではない。
鎧のやつらが三方から駆けてきた。速い。だが——見える。あの日は、目で追うのがやっとだった動きが今ははっきり見える。俺の身体がそれより速くなったからだ。
俺は、地を蹴った。一体目の突進を、横へ跳んでかわす。熱を込めた脚が地を噛む。跳んだ先で、すぐに止まっている。間を置かず、次を蹴る。二体目が俺のいた場所へ突っ込んでくる。その脇を、すり抜けざま、剣を薙ぐ。刃に、壁を纏わせて。
鎧のやつの胴が裂けた。硬い外皮ごと斬り抜いた。斬ると同時に、纏わせ直す。あの、四つ目の獣で掴んだ、あの感覚。一体。
残る二体が左右から挟み込もうとする。あの日なら、これで詰んだ。囲まれれば、逃げ場がなかった。だが——今の俺は速い。挟まれる、その前に、片方の懐へ、自分から踏み込む。相手の、振り上げた腕の内側へ。そこは、あいつの武器が届かない。
至近で、剣を突き上げる。壁を纏わせた切っ先が顎から頭へ突き抜けた。二体目。
最後の一体が俺の背へ迫る。振り向きざま、ではない。俺は、足を使った。半歩、横へずれる。相手の武器が空を切る。その、伸びきった腕を、上から断ち斬った。三体目。
鎧のやつら、三体。地上で、事足りた。
空を使うまでもなかった。あの日、俺と相棒を追い詰めた連中を、今は地を駆けるだけで捌ける。それだけ、俺は変わっていた。
次は、あの、見えない礫を飛ばす痩せたやつらだ。
あいつらが両手を掲げた。来る。見えない礫。あの日は、あれを壁で防ぐしかなかった。今は——避ける。俺は、地を蹴って走った。まっすぐではない。左右に、細かくステップを刻みながら。礫が俺のかすめた地面を抉る。当たらない。あいつらの見えない礫は、まっすぐにしか飛ばない。読めれば、避けられる。
走りながら、間合いを詰めた。一体目の痩せたやつの懐へ。そいつがぎょっとした顔をする。遅い。剣に壁を纏わせ、その胴を薙ぐ。二体目を斬り、最後の一体へ向かう。
だが、そいつは、こちらの勢いを見て、群れの中へ逃げ込んだ。緑の波の中へ。追えば、囲まれる。俺は、舌打ちして、追うのをやめた。一体くらい、あとでいい。
——そう思ったのが甘かったと知るのは、もう少しあとのことだ。




