↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
望まぬ転生をした俺は、三度目の生を生きる  作者: 放浪猫
緑の怪物

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
18/40

18話

(ヴォルヒルド視点)


この剣を手放す日が来るとは、思っていなかった。


 父から授かった剣だった。騎士に叙されたあの日、領主である父が自らの手でヴォルヒルドの腰に佩かせてくれた。そのとき、父は言った。守る者であれ、と。


 それが父の願いだった。ヴォルヒルドという名も、同じ願いから父がつけたものだ。守り。その古い言葉を根に持つ名を、父は生まれた娘に贈った。守る者であれ、と。そして成長した娘に剣を授けるとき、もう一度同じ願いを託した。名と、剣と。二度、父は同じ祈りを手渡したのだ。


 ヴォルヒルドは、その願いを生きてきたつもりだった。民を、弱き者を守る騎士であれ。その道をまっすぐに歩いてきた。だが——この森で、彼女は、自分よりもその言葉にふさわしい者に出会ってしまった。


 この、緑の、名も知れぬ者。こいつは、守った。見返りも求めず、憎まれてすらいい相手を、命がけで。怖がりながら、震えながら、それでも退かずに。ヴォルヒルドが剣を教わり名を授かってようやく身につけようとしてきたものを、こいつは生まれつきその魂に持っていた。


 守る者であれ、と父は言った。だが、本当の守る者は、ここにいる。

 だから、決めた。この剣をこいつに託そう。父から受け継いだ願いを、誰よりもその願いにふさわしい者に渡そう。

 剣を握らせ、その胸に手を当てて、彼女は言った。


 「ヴァルド」


 守る者。その名で、こいつを呼んだ。それから、父の言葉をそのまま贈った。


 「守る者であれ」


 通じないことは、わかっていた。それでも、言わずにいられなかった。この剣に、この名に込めた願いを声にして渡したかった。

 そして、もうひとつ続けた。父の願いではない。彼女自身の願いを。


 「生きて」


 声がわずかに震えた。こんな森の隅で、たった一人、名もなく生きてきたお前が、どうか生き延びて。守る者であれと願うと同時に、彼女は、この者自身の生を願わずにいられなかった。


 「——いつか」


と言いかけて、口ごもった。

 いつか、この名の意味を知る日が来れば。お前に贈った名が何を意味するのか、それを贈った私が何を想っていたのか。いつか、お前がそれを知る日が来れば。だが、その先は言葉にならなかった。そんな日は来ない。こいつはゴブリンで、自分は人だ。二度と会うことはない。わかっていた。


 それでも、心のどこかで願っていた。いつか。どうか、いつかと。


 ヴォルヒルドは、こいつの顔を見た。剣を握りしめて、じっと見つめ返してくる。その目に理解の色はない。当然だ。言葉は通じていない。だが、その目は必死だった。彼女の言ったことを、なんとか受け取ろうとするように。意味がわからなくても、想いだけは逃すまいとするように。


 それでいい、とヴォルヒルドは思った。意味は伝わらなくていい。ただ、この者が大切にされたこと。誰かがこの者の生を願ったこと。それだけが胸に残ってくれれば。


たとえ、その理由を生涯知らずとも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。