12話
その日から、俺は二人ぶんの食い物を探すようになった。
いや、三人ぶんか。動かないもう一人——あとで、こいつにも名前があると知るのだが、そのときの俺はまだ知らない——も、いつか目を覚ませば腹を空かせるはずだ。だから、三人ぶん。
誰に頼まれたわけでもなかった。
考えてみれば、変な話だ。それまでの俺は、自分の腹を満たすだけで精一杯だった。
他人のために食い物を探すなんて思いつきもしなかった。他人というものが、そもそも俺の世界にいなかった。
なのに、あの朝、剣を教わってから、俺の中の何かが変わっていた。あの二人が腹を空かせているかもしれないと思うと、いてもたってもいられなかった。
俺は森を回った。あの拳ほどの虫を捕った。木の根を掘って、食える部分を集めた。
前に甘い実が落ちてきた、あの木のところにも行った。
実はまだいくつかなっていた。俺はしばらくそれを見上げていた。
そうしたら、またひとつ、ふたつと落ちてきた。俺はそれを拾った。
実の生る木の下にいれば、実は落ちてくる。そういうものだ。
集めたものを抱えて、俺はねぐらへ戻った。
剣を教えてくれたほうは穴の外にいた。俺の姿を見つけると、少し身構えた。
だが、俺が両手いっぱいに食い物を抱えているのを見て、その身構えを解いた。俺は集めたものを、こいつの前にそっと置いた。
こいつはそれを見て、それから俺を見た。何か言った。短い、けれど、さっき「違う」と言ったときとは響きの違う音だった。柔らかい音。俺には意味はわからなかったが、悪いものではないと感じた。こいつは実をひとつ手に取り、口に運んだ。それから、うなずいた。
うまい、と言っているのだと思った。俺の胸が、またあたたかくなった。
だが、そのときだ。穴の奥で動く気配がした。
動かなかったはずの、もう一人。あれが目を覚ましていた。壁にもたれて半身を起こして、こちらを——いや、俺を、見ていた。
その目を見た瞬間、俺の身体がすっと冷えた。
剣を教えてくれたほうの目とは、まるで違った。
こいつの目には、あのあたたかい何かがひとかけらもなかった。あるのは、まっすぐな——今なら、それが何かわかる。憎しみだ。あれは俺を憎んでいた。剥き出しの、混じりけのない憎しみで、俺を見ていた。
俺は動けなくなった。何もしていない。食い物を持ってきただけだ。なのに、その目は俺の存在そのものを許さないと言っていた。なぜだ、と思った。俺が、何をした。——だが、その答えを俺は持っていなかった。俺は自分が何なのかも知らなかったのだから。
剣を教えてくれたほうが、何か鋭い声を奥のほうへ投げた。たしなめるような響きだった。目を覚ましたほうは、それに低い声で何か言い返した。二人の間で、短い、けれどとげのある言葉が行き交った。意味はわからない。だが、俺のことで二人が言い争っているのだということは、わかった。
俺はその場にいづらくなった。持ってきた食い物をそこに残して、俺はそっと森のほうへ退いた。二人の言葉の届かない木の陰まで。そこでしゃがんで、膝を抱えた。
あたたかくなった胸が、また少し寒くなっていた。




