第三話 誰のことも特別じゃない
昼休み。中庭のベンチ。いつものメンバーでお弁当を広げる。
私はコンビニのサンドイッチ。マリは手作りの弁当、彩りがすごい。卵焼きにブロッコリーにプチトマトにウインナー。
「マリの弁当って毎回写真映えするよね」
「お母さんが趣味みたいなもんだから笑」
お母さんが。
別にいいんだけど。全然気にしてないんだけど。
翔太と拓海がカフェテリアからトレーを持ってきた。二人とも唐揚げ丼。男子って本当に唐揚げ好きだよね。
「あ、そうだ」
翔太が鞄からビニール袋を出した。メロンパン。
「コンビニで買ったやつ余ったから——いる人いたらあげる」
拓海が速攻で手を伸ばした。「もらい!」
翔太が一瞬だけ私のほうを見たような気がしたけど、拓海がもうパッケージを開けていた。翔太は何も言わずに唐揚げ丼に視線を戻した。
……今の、もしかして私にくれようとしてた? いやまさか。考えすぎだ。
こういう時間が好きだ。特別なことは何もないけど、ここにいる全員が全員のことをなんとなく好きで、なんとなく居心地がいい。
途中で、隣のクラスの転校生が中庭の入口に立っているのが見えた。こちらを見ているけど、近づけないでいる。一人でお弁当を抱えている。
「おーい! こっちこっち!」
手を振ると、その子がおどおどしながら歩いてきた。
「座んなよ、ここ空いてるよ」
ベンチの端を詰めて場所を作る。マリがにっこり笑って「よろしくね」。その子が少しだけ笑った。よかった。
——こういうの、別に大したことじゃない。困ってたら手伝う。ひとりだったら声をかける。それだけ。理由なんてない。だって、一人でご飯食べるのって寂しいじゃん。知ってるよ、私はさ。
「ユキってさ」
翔太が唐揚げを頬張りながら言った。
「ん?」
「誰にでもそうだよな」
「そうって、何が?」
「こうやって、誰といても同じテンション。知らない子でもすぐ輪に入れてさ。嫌いな人とかいないの?」
嫌いな人。考えてみるけど、ぱっと思いつかない。
「うーん……いないかも? 嫌いになるほど誰かに興味持ったことないのかな」
「それはそれで怖くない?」
「え、なんで?」
「……誰にでも同じってことは、誰のことも特別じゃないってことだから」
翔太はそこまで言って、はっとしたように口を閉じた。
「いや——なんでもない。忘れて」
唐揚げに逃げた。箸の動きがちょっと乱暴だった。
なんだろ。変なこと言ったかな。
私は誰のことも嫌いにならない。それっていいことだと思ってたんだけど、翔太の「誰のことも特別じゃない」って言葉が、胸の変なところに引っかかった。
特別——かあ。
マリは特別だよ。中学から一緒だし。翔太も大事な友達だし。みんな特別——って言ったら、翔太はまた変な顔するのかな。「全員特別」は「誰も特別じゃない」と同じだって、そういうことを言いたいのかな。
◇ ◇ ◇
放課後。翔太と帰り道が一緒になった。
しばらく無言で歩いた。翔太はたまにこうやって黙る。考え事をしてる顔だ。
「ねえ」
「ん」
「さっきの、昼の話。ごめんね、変なこと言って気使わせた?」
「は? 何の話?」
「誰にでもそうだよな、ってやつ」
「ああ——」
翔太が空を見上げた。夕方の手前、まだ青い空。
「別に。俺が変なこと言っただけ」
「変じゃないよ。ちょっと考えちゃった。私、誰のことも特別にできてないのかなって」
翔太が足を止めた。
「——そういう意味で言ったんじゃない」
声が低かった。いつものへらへらした感じじゃなくて、まっすぐな声。
「ユキはそのままでいいんだよ。変わんないでほしい。……俺が勝手に思ってるだけだから」
なんだろう。なんか今の翔太、いつもと違う。
「翔太?」
「——はい、ここ俺の分岐点。じゃ、また明日」
交差点で翔太が手を挙げて、反対方向に歩き出した。早歩き。振り返らない。
「変わんないでほしい」。
いい言葉だと思ったけど、なんで翔太があんな顔で言ったのかは、わからなかった。




