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二重露光  作者: 凪篠
第一章

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第三話 誰のことも特別じゃない

 昼休み。中庭のベンチ。いつものメンバーでお弁当を広げる。


 私はコンビニのサンドイッチ。マリは手作りの弁当、彩りがすごい。卵焼きにブロッコリーにプチトマトにウインナー。


「マリの弁当って毎回写真映えするよね」


「お母さんが趣味みたいなもんだから笑」


 お母さんが。


 別にいいんだけど。全然気にしてないんだけど。


 翔太と拓海がカフェテリアからトレーを持ってきた。二人とも唐揚げ丼。男子って本当に唐揚げ好きだよね。


「あ、そうだ」


 翔太が鞄からビニール袋を出した。メロンパン。


「コンビニで買ったやつ余ったから——いる人いたらあげる」


 拓海が速攻で手を伸ばした。「もらい!」


 翔太が一瞬だけ私のほうを見たような気がしたけど、拓海がもうパッケージを開けていた。翔太は何も言わずに唐揚げ丼に視線を戻した。


 ……今の、もしかして私にくれようとしてた? いやまさか。考えすぎだ。


 こういう時間が好きだ。特別なことは何もないけど、ここにいる全員が全員のことをなんとなく好きで、なんとなく居心地がいい。


 途中で、隣のクラスの転校生が中庭の入口に立っているのが見えた。こちらを見ているけど、近づけないでいる。一人でお弁当を抱えている。


「おーい! こっちこっち!」


 手を振ると、その子がおどおどしながら歩いてきた。


「座んなよ、ここ空いてるよ」


 ベンチの端を詰めて場所を作る。マリがにっこり笑って「よろしくね」。その子が少しだけ笑った。よかった。


 ——こういうの、別に大したことじゃない。困ってたら手伝う。ひとりだったら声をかける。それだけ。理由なんてない。だって、一人でご飯食べるのって寂しいじゃん。知ってるよ、私はさ。


「ユキってさ」


 翔太が唐揚げを頬張りながら言った。


「ん?」


「誰にでもそうだよな」


「そうって、何が?」


「こうやって、誰といても同じテンション。知らない子でもすぐ輪に入れてさ。嫌いな人とかいないの?」


 嫌いな人。考えてみるけど、ぱっと思いつかない。


「うーん……いないかも? 嫌いになるほど誰かに興味持ったことないのかな」


「それはそれで怖くない?」


「え、なんで?」


「……誰にでも同じってことは、誰のことも特別じゃないってことだから」


 翔太はそこまで言って、はっとしたように口を閉じた。


「いや——なんでもない。忘れて」


 唐揚げに逃げた。箸の動きがちょっと乱暴だった。


 なんだろ。変なこと言ったかな。


 私は誰のことも嫌いにならない。それっていいことだと思ってたんだけど、翔太の「誰のことも特別じゃない」って言葉が、胸の変なところに引っかかった。


 特別——かあ。


 マリは特別だよ。中学から一緒だし。翔太も大事な友達だし。みんな特別——って言ったら、翔太はまた変な顔するのかな。「全員特別」は「誰も特別じゃない」と同じだって、そういうことを言いたいのかな。


◇ ◇ ◇


 放課後。翔太と帰り道が一緒になった。


 しばらく無言で歩いた。翔太はたまにこうやって黙る。考え事をしてる顔だ。


「ねえ」


「ん」


「さっきの、昼の話。ごめんね、変なこと言って気使わせた?」


「は? 何の話?」


「誰にでもそうだよな、ってやつ」


「ああ——」


 翔太が空を見上げた。夕方の手前、まだ青い空。


「別に。俺が変なこと言っただけ」


「変じゃないよ。ちょっと考えちゃった。私、誰のことも特別にできてないのかなって」


 翔太が足を止めた。


「——そういう意味で言ったんじゃない」


 声が低かった。いつものへらへらした感じじゃなくて、まっすぐな声。


「ユキはそのままでいいんだよ。変わんないでほしい。……俺が勝手に思ってるだけだから」


 なんだろう。なんか今の翔太、いつもと違う。


「翔太?」


「——はい、ここ俺の分岐点。じゃ、また明日」


 交差点で翔太が手を挙げて、反対方向に歩き出した。早歩き。振り返らない。


 「変わんないでほしい」。


 いい言葉だと思ったけど、なんで翔太があんな顔で言ったのかは、わからなかった。

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