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05.先輩はときどき影がある

 ゴールデンウィークの最終日。

 世菜せな先輩と水やりをした後、中庭に戻ってみんなで昼を食べた。


藤也とうやの弁当、今日は誰が作ったの?」

「親父」

「いいなあ、私のと交換して」

「アホか」


 交換はしてくれなかったけど、卵焼きと唐揚げを分けてくれたから、私はお弁当のミートボールとインゲンのゴマ和えを譲った。

 卵焼きも唐揚げもおいしい。藤乃ふじのくんが作ったと思うと、それだけでもすごくおいしい。唐揚げは冷凍だと藤也がつぶやいたけど、そういう問題じゃないんだよ。


花菜かなの弁当はみおさんが作ってるんだろ?」


 藤也がミートボールを食べながら言った。もちろん冷凍ではなく手作りだ。


「そうだよ。うちのごはんは基本全員分ママが作ってる」

「澪さんのごはんは美味えよな。花菜と柚希ゆずきは作らねえの?」


 須藤家は、中学生以上になると家事が完全分担になる。

 藤也も桔花きっか蓮乃はすのも、食事作りから掃除、洗濯まで全部分担していると聞いた。


「料理はねー、私と柚希は長期休みだけだな。パパが、ママのごはんじゃなきゃ嫌だってごねたから」

瑞希みずきさんらしい」


 藤也が吹き出した。


 パパはママの作るごはんがすごく好きだ。

 そのために働いているのだと言うくらい、好きだ。

 だからママも台所は譲らないし、普段のごはんはパパの好みのものばかりが出てくる。

 なんていうか、ずっと仲良しなんだ、あの二人は。

 見ていてむずがゆいような、うらやましいような。

 先に食べ終えた藤也が弁当箱を片付けて立ち上がった。


「先に行って台車出してくる」

「あ、私も行くよ」


 私も弁当箱を片付けて立ち上がり、見回すと、世菜先輩が少し離れたところで他の二年生と固まってまだお弁当を食べていた。

 食べている途中なら、別にいいか。

 藤也を追いかけて、倉庫に向かった。



 藤也とあと何人かで台車を押して学校の裏門に向かうと、門の外にうちのトラックが停まっていた。


「パパー」

「お、来たな」


 門を開けて、トラックを駐車場に入れてもらった。

 ホロを開けると、パパが中から苗を下ろしていき、私はそれを受け取って台車に積み、藤也はリストを見て種類と数に間違いがないか確認していく。

 荷台が空になったらパパは藤也の手元のリストを覗き込んだ。


「これでおしまい。藤也、間違いは?」

「ないです。ありがとうございます、瑞希さん」

「はいよ。藤也はしっかりしたなあ。別に俺がなんかしたわけじゃねえけど、嬉しい」

「俺は瑞希さんにそう言ってもらえるのが嬉しいです」


 それこそ私は何もしていないけど、パパが藤也を見て嬉しそうにしているのも、藤也がパパに褒められてニコニコしているのも、どっちもすごく嬉しかった。


「花菜もすごいしっかりしてますよ。部活中も助かってますし」

「だろ? 俺の娘だからな!」

「パパの娘だからね! パパ、苗ありがとう。大事に育てるね!」

「おう。お前らに任せとけば大丈夫だろ。じゃあ、帰るわ。花菜も遅くならないうちに帰れよ」

「うん、気をつけてねえ」


 手を振ってパパを見送った。

 藤也と門を閉めて、中庭に戻った。

 今日は届いた苗を植える場所ごとに仕分けをしておしまいだ。

 藤也からリストをもらって確認していたら、世菜先輩がいたので駆け寄った。


「あ、世菜先輩。このリストの仕分けお願いしていいですか」

「わかった。裏門の分だね」


 藤也から受け取ったリストのうち、先輩が担当している分をお願いした。

 たぶん、自分が頼んだ苗は確認したいだろうし。

 私も手元のリストを見ながら、苗を仕分けしていった。


***


 翌日の部活は、届いた苗を植えていくことになっていた。

 授業の後に中庭に行くと、藤也がパシパシと手を叩いた。


「ゴールデンウィークも終わったし、今日から一年生も本格的に参加してもらいます。まずは担当になる場所を決めたから発表するぞ」


 ……そうか、今までは本格的な参加じゃなかったんだ。

 私と桔花と蓮乃は、普通に先輩たちに交じって作業していたから、今さらって感じだ。


「花菜は世菜と一緒に裏門担当な。四月もゴールデンウィーク中も一緒にやってたし、引き続きよろしく」

「はーい。世菜先輩、私、今まで裏門担当じゃなかったらしいですよ」

「そうみたいだね。いつも一緒にいたから、すっかり担当だと思ってた」

「私もです。今後ともよろしくお願いします」

「こちらこそ」


 世菜先輩がニコッと微笑んだ。

 先輩となら、まあ大丈夫だろう。


「部長から由紀ゆきさんと一緒でいいか聞かれて、勝手にいいって答えちゃったけど大丈夫だった?」

「全然大丈夫」


 なぜか世菜先輩が困ったような顔をした。

 なにか大丈夫じゃないことでもあるんだろうか。


「どうしたんですか」

「えっと、俺はいいけど、君は俺と裏門担当で嫌じゃないかなって」

「なんで? 私、先輩のこと嫌だって思ったことないですよ」


 鈍くさいし、ちゃんと片付けしないし、ぼんやりしてるし、集中しすぎて周りが見えていないことも多いけど、別に嫌いではない。

 最近はあまり散らかさなくなったし、先輩がぼんやりしていたら私が声をかければいいだけのことだ。


「あ、そうなんだ……?」


 今度は顔を赤くして慌てだした。なんだこの人、情緒不安定だな。


「先輩は、私とだと嫌ですか? うるさいし、横暴だし」

「そんなこと、思ったことないよ! えっと、花菜ちゃんが一緒で、嬉しいです」

「ならよかった。苗運んじゃいましょう」

「うん……!」


 台車に昨日仕分けした苗を積み、一緒に運んだ。

 まずは、今植えてある花を抜かないといけない。


「チューリップの球根の引き上げ、先輩にお任せしていいですか?」

「もちろん」

「先輩は鈍くさいですけど仕事が丁寧なので、お願いします。傷つくとうまく発芽しなくなるので」

「今、褒められた?」

「いえ、事実しか言っていません。それに、そのチューリップは先輩が大事に育ててきたものじゃないですか。だから、先輩にお願いします」

「……うん」


 世菜先輩にスコップと軍手、球根を入れるカゴを渡し、私はそれ以外の花と雑草を抜いていった。その後、土に落ち葉を混ぜて柔らかくしておいた。

 どちらも一時間くらいで終わったから、次は新しい苗を植えていく。


「ホスタとベゴニアですね」

「うん、どうかな」

「いいと思いますよ。裏門は日当たりが悪いですけど、育ちやすいと思います」

「由紀さんのお墨付きがあるなら大丈夫だな」

「そんな大したものじゃないですけど。私が運びますから、先輩は並べてください」


 先輩は苗を並べて私を見た。


「どうかな」

「いいんじゃないですか? 少しだけ間隔を空けましょうか」

「由紀さんは『こう置きたい』みたいのないの?」

「世菜先輩が並べたのでいいんじゃないですか。だってこの苗、先輩が植えたくて選んだんですよね。なら、先輩がしたいようにするのがいいと思います」

「そっか」

「それに私、先輩のセンス好きですよ。まだ春の花壇しか見ていませんけど。だから、今後も苗を植える場所は先輩が決めてください」

「……そっかあ」


 先輩は顔を赤くして頷いた。

 その後は二人で手分けして植えて、たくさん水をやっておしまいだ。


「よし、今日はここまで。片付けようか」

「はい。私が運びますから、先輩は台車に積むのをお願いします」

「俺に運ばせると転ぶから?」

「そうです」

「由紀さんは優しいなあ」

「そうかなあ」


 転んでほしくないし、ホースやスコップを落とされたくないから、私がやりたいんだけど、それって優しさなのかな。

 その感覚って、私には普通のことだけど、先輩を侮ってると思われたら怒られても仕方ないのに、この人は笑って受け入れる。

 変な人だ。


「由紀さんに心配かけたくないから、気をつけるよ」

「私が心配してなくても気をつけてください」

「そうだけどさ。俺、由紀さんに心配されるの好きなんだよね」


 ほんと、何言ってるんだろう、この人。

 持ってきた道具とカゴを全部台車に積んで、中庭に向かった。

 台車を押すのも私がしたかったけど、それは断られた。


「これくらい、見栄張らせて」

「誰にですか?」

「んー、由紀さんと、ぶちょ……いや、なんでもない」


 世菜先輩は、ときどき藤也に対抗したがったり、嫉妬したり、ひがんだりする。

 何があったのか私は知らないし、別に知りたくもないから、台車を押すのは任せて、その後をのんびりついていった。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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