28.私が目指している人たち
文化祭二日目も私は午前中はクラスの当番がある。
受付係なので座っていると、世菜が来た。
「今日は宣伝係だから見に来たよ」
「本当に? 代わってもらったの?」
「代わってもらった。花菜ちゃんに会いたかったので!」
「そんな堂々と……」
呆れていたら、一緒に受付をやっていた男子が私と世菜を見比べた。
「知り合い? ストーカー?」
「彼氏」
「はあ? こいつが?」
男子は顔をしかめて、世菜をジロジロ見ている。
嫌な予感がしたので、私は立ち上がった。
「この人、私がナンパされたら助けてくれるし、毎日家まで送ってくれるし、部活の迎えもしてくれるし、夏休みの宿題も一緒にやってくれて、修学旅行中もこまめに連絡をくれるスパダリなの。いいでしょ」
「えっ、何言ってんだよ、ウザ」
「私、この人とラブラブだから、余計なことしたり言ったりしたら怒るよって言ってる」
「花菜ちゃん、やめな」
世菜がさっと止めに入った。
止めに入るのが手慣れていて、おかしいけど、ちょっと腹も立つ。
「止めない」
「止めなって。文化祭中に教頭先生に怒られることないよ。今日は花菜ちゃんのご両親も来るんだろう?」
「来る。来るからこそ、舐められっぱなしでいたら怒られる」
世菜には言っていないけど、さっきこの男子に午後は一緒に回らないかと誘われていた。
彼氏と回るからって断ったから、何言われるかわかったものじゃない。
でも、世菜と男子が口を開く前に、お客さんが来た。
「花菜ちゃーん、遊びにきたよー」
「なに、花菜はまた喧嘩してるのか?」
「メイサちゃん! 藤也! いらっしゃい!」
遊びに来たのは、藤也と彼女のメイサちゃんだった。
メイサちゃんは藤也の一つ上の彼女で、今は大学生だ。藤也の家の花屋でバイトをしているから、私もたまに会ったり、一緒に買い物に行ったりしていた。
「花菜ちゃん浴衣じゃん、かわいいねえ」
「ありがと。メイサちゃんも今日もかわいい。写真撮ろうよ。世菜、撮って」
「はいはい」
「あ、花菜ちゃんの彼氏?」
「そだよ、かわいいでしょ」
メイサちゃんはニコッと笑って世菜に挨拶していた。
それを藤也が蕩けそうな笑顔で見ていて、胸焼けがしそうだ。
ふと、藤也がこっちを向いた。
「なんか揉めてた?」
だから、私も隣を見た。
「何か言おうとしてた?」
男子は気まずそうな顔でそっぽを向いた。
「……なんも」
「そっか。ごめんね、かりかりしちゃって。なんにもないよ、藤也。大丈夫。遊んでいって」
「おう、メイサ、行こう」
「うん! じゃあ、花菜ちゃん、またね」
メイサちゃんはニコニコして藤也と射的をしに行った。
「ねえ世菜、見てよ、あの藤也の顔。あれ見たら藤也とどうこうなりたいとか思えないでしょ」
「……だな。俺が入学したときから、須藤先輩あんな感じだったわ。すごかったよ、運動会の短距離走で一位取ってさ、当時の三年の席に向かって『メイサ! 見てたー!?』って叫んでて」
「あはは、やりそう」
その後少し喋っていたけど、世菜のクラスの人が来て
「宣伝係が一箇所に居座るな!」
って怒られて連れて行かれた。
それからすぐ、また知り合いが来た。
「こんにちは、花菜ちゃん」
「遊びに来ましたよ」
「こんにちは、藤乃さん、花音さん」
そう言うと、藤乃さんの目が柔らかく細められて、藤也そっくりだ。
「桔花と蓮乃のクラスには行った?」
「行ったよ、二人でディーラーしてた」
花音さんがクスクスと笑った。
二人のクラスはカジノで、桔花と蓮乃がそれぞれディーラーをやっていたルーレットとポーカーが、訳がわからないくらい人気だったのだ。
「藤乃さん、大人げない勝ち方をして二人に怒られたから出てきたんだよ」
「何やってるんですか」
「射的では気をつけるね。花音ちゃんと学年が離れていて、一緒に文化祭ってやってないから、ついはしゃいじゃって」
「とか言って、藤也が一年のときから文化祭ではしゃいでるんだよ」
呆れた顔をする花音さんを見ている藤乃さんは、やっぱりさっきの藤也にそっくりの顔をしていた。
だから、うん。
私はもう大丈夫。
「あのねえ、私、彼氏できた」
「わ、どんな人?」
二人に写真を見せると、花音さんがなぜかニヤッとして、私に耳打ちした。
「この男の子、おっとりしていて穏やかで優しいけど、ちょっと重い?」
「な、なんでわかるの!?」
「わかるよ」
そう笑う花音さんの顔は、パパと同じ顔だった。
「私とお兄ちゃん、好みが近いから」
「ああ……なるほど……」
つまり世菜は藤乃さんにもママにも似てるのか……似てるなあ……。
「ところでそれ、瑞希に教えた?」
藤乃さんが笑顔で言った。
「ううん、まだです」
「そっか。泣くかもね」
「パパ、泣くかな」
「泣くと思うよ。教える予定ある?」
「午後に来るらしいので、彼のほうが大丈夫ならそのときにしようかと」
花音さんが苦笑した。
「桔花と蓮乃に彼氏ができたら、藤乃さんのほうが泣きそうだけど」
「どうかなあ。結婚式とかなら泣くけどね。今日紹介するなら、瑞希の泣き言に付き合うから、俺の分の晩ごはんはなくていいよ」
「わかりました。じゃあ花菜ちゃん、お兄ちゃんに彼氏紹介したら教えてね。私たちにも今度紹介してよ」
「はい、必ず」
藤乃さんと花音さんは、仲良く並んで射的に向かっていった。
二人は結婚して二十年近いはずだけど、メイサちゃんと藤也くらい仲が良くて、うらやましい。
……私もいつかそうなるのかな。
なんて思うのは、先走りすぎかも。
まあ、夢見るくらいはしたっていいよね。
なにしろ、藤乃さんと花音さん、パパとママっていうお手本が、ずっと私の前にいるんだから。
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