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17.思ったより進学校で、その中で先輩は

「えー、ご存じの通り、当校は進学校です。実は。大丈夫? みんな知ってた?」


 七月の頭、放課後に中庭に行ったら、藤也(とうや)の演説が始まった。え、何?


「部長の話が長引きそうなんで、サクッとまとめると、三年生はそろそろ引退します」

「こら、待て、俺が話してる途中だろうが!」


 三年生の副部長が割って入って、藤也は騒ぎ出した。

 そうか。三年生はもういなくなっちゃうのか。早くない?


「三年は受験があるし、園芸部は別に大会とかねえから、だいたい一学期の期末試験前に引退するんだ。つっても、文化祭くらいまではみんな勝手に来てるんだけどね。かくいう俺も推薦だから、別に受験勉強とかねえし」

「それはそれとして、次の部長と新しい体制は決めないといけないから、まあケジメっつうか区切りってことで、いったん三年生は期末試験前で引退ってことにしてる。次のことは須藤と俺と二年の副部長と教頭で一応考えてるんで、二年生中心に打診するからよろしくね」


 副部長がそう言って、その場は解散になった。

 といっても、私と世菜(せな)先輩はそのまま二人で裏門担当になるんだろうけど。

 たぶん、二年生の副部長が部長になって、二年生と一年生から新しい副部長を決めていく感じになるのかな。


「世菜先輩は、部長とかそういうのにはならなかったんですね」

「うん。柄じゃない。俺はのんびり花をいじってるのが好き」

「そうですよねえ。私も役職がつくのは面倒だなあ」

「あと単純に、裏門担当が去年の三年生が引退したときに俺だけになっちゃったから、俺が役職を引き受けると裏門が回らなくなる」

「それ、来年先輩が引退したら、そうなるんじゃ?」

「そうならないように次の一年生を入れたいね」


 そんなことを言いながら、二人で裏門に向かった。

 日陰の多い裏門だけど、暑いものは暑いし、雑草もすごい勢いで伸びている。

 虫も増えるから、水やりの後は二人でしゃがんで草むしりをする。

 家でもずっとやっているから、我ながら手際が良くなってきた気がする。

 そして、素早く作業を終わらせたら、試験勉強をしないといけなかった。


桔花(きっか)蓮乃(はすの)花菜(かな)は頑張って学年十位以内に入ってくれ。それより下だと親父に嫌みを言われます。俺が」


 なんて藤也が言ったからだ。


「無理だよー」

「そう?」「十位以内でいいんでしょ?」

「五位だと分かんないけど」「三位くらいまではいけるんじゃない?」


 双子は余裕そうに勉強しているし、他の一年生や先輩たちも何てことなさそうに勉強していた。

 ……園芸部にはこういうところがある。

 全体的に落ち着いて物静かな先輩が多いから、一年生もそういう雰囲気の子が集まっていて、園芸についても勉強についても、困ったことや分からないことがあると先輩たちはさらっと教えてくれる。

 昔からそういう文化があるのだと、藤也から聞いていた。


「世菜先輩は、成績いいんですか?」


 中庭にあるベンチとテーブルで勉強しながら、隣で宿題をやっている世菜先輩に声をかけた。

 他のテーブルでも、園芸部員が同じようにみんなで勉強している。


「園芸部内だと下の方。学年で三十位くらいかな」

「園芸部の二年生十人以上いるんだけど!?」


 それ、学年上位の半分くらいが園芸部員ってこと?

 怖いんだけど?


(みどり)黄乃(きの)さんは、去年は十位から二十位くらいを維持してたよ。俺は入学当初は学年で真ん中だったけど、先輩たちに教わってここまで上げたって感じ」

「はわ……」

由紀(ゆき)さんは?」

「入学したときは四十位くらい。そのあとの学力テストは藤也に教わって三十位くらい」

「なら大丈夫。今回ちゃんと要点を絞って勉強すれば二十位前後はいけると思うよ」


 それ、どんな自信なのさ。

 いつもはふにゃっとした世菜先輩が、黙々と勉強したり教えてくれるのは、それはそれで悪くないけど。

 藤也は二年生の女の子たちに勉強を教えていて、桔花と蓮乃は二人で地理の教科書を読んでいた。


「メルボルン」「オーストラリア南東」

「ウィーン」「オーストリア東部」

「モスクワ」「ロシア」

「サルミアッキ」「フィンランド」

「お菓子混ざったけど?」


 つい突っ込んだら双子はあはあは笑った。

 相変わらず自由だ。


「かなちゃ……由紀さん、そこの単語、逆」

「えっ」

「動詞が先だよ」

「……世菜先輩って、先輩なんですね」

「実はね」


 先輩はニコッと笑って、また手を動かし始めた。宿題は化学らしくて、ノートには化学式がずらりと書かれている。

 ぜーんぜんわかんない。

 先輩はそれをやりながら、ちらっと見ただけで私の英語の間違いにも気づいたのか……すごいな。

 それでも三十位。

 園芸部の中では下の方。

 そんな中で藤也はずっと学年一位を維持してるわけで。

 なにそれ。もしかして、結構頑張んないとヤバい?

 必死に手を動かす。

 眠くなったら、双子と一緒に教科書を音読したり、問題を出し合ったり。

 分からないところは世菜先輩や藤也に聞いて、分かるまで考える。

 なんか、部活っていうより自分たちでやってる塾みたいだった。



 七月前半の部活は、毎日そんな感じだった。

 特に二年生は、三年生がいるうちに教わっておきたいと、毎日あれこれ聞いていた。

 七月も半分を過ぎると、試験前の部活禁止期間に入る。

 そうなったら、放課後は教室に残って桃と勉強したり、桔花と蓮乃が来て問題を出し合ったりした。


「なんか私まで頭が良くなった気がする」


 桃はそう言って、勉強に付き合ってくれた。

 さすがに試験前だから、バイトは休みらしい。


「花菜は王子と勉強しなくていいの?」

「王子?」「世菜先輩?」


 双子が食いついて三人が盛り上がっていたけど、私は無視して勉強を続けた。

 世菜先輩とも勉強はしている。

 夜にビデオ電話をつないで一緒に勉強してるけど、それを言うと


「彼氏じゃん」


 って騒がれるから黙っていた。

 まあ、双子は柚希から聞いて知ってるかもだけど、自分たちからバラす気はなさそうだからよかった。


「花菜ちゃんに会えないと寂しいので声だけでも聞かせて下さい。あわよくばビデオ通話にして顔も見せてください」


 ――部活禁止期間二日目の夜に、そんな情けないメッセージが世菜先輩から来たのだ。

 たしかに部活はなかったけど(その間の水やりは用務員さんと教頭先生がやってくれる)、昼休みに図書室で藤也に教わってるときに先輩も横にいたんだけどね?

 それを言うとメソメソしそうだから、さっさとビデオ電話のボタンを押した。

 一瞬で、スマホの画面に先輩が映る。


「こんばんは、花菜ちゃん」

「こんばんは。世菜先輩、今何してました?」

「数学。花菜ちゃんは?」

「私も数学やってました。あの、たすきがけの問題の解き方を確認させてください」

「もちろん」


 先輩はふにゃっと笑って嬉しそうに、教えてくれた。

 その後はとくに喋らないでそれぞれ勉強する。

 なんか意味あんのかなって感じだけど、たまに画面を見ると先輩が嬉しそうにしていてかわいいから、悪くはなかった。

 そんな感じで一週間、放課後は桃、桔花、蓮乃と、夜は先輩と勉強をして、期末試験を迎えた。


「花菜、どう?」

「ダメってことはないはず」

「そうね……ダメってことはないと思うんだけど」


 桃と二人でヒイヒイ言いながら試験を受けた。

 そんなに手応えは悪くないんだけどなあ。

 初日が終わって帰ろうとしたら、藤也が教室に来た。世菜先輩と桔花と蓮乃も一緒だ。


「はい、試験の後は見直しをします」

「そうなの? 終わったところなんだけど?」

「試験は、答えが返ってきて間違えたところを確認するまでが試験です。ていうか、試験って習熟度を確認するものだからな? 別にゴールじゃねえから」

「なんで世菜先輩も一緒なの?」

「俺一人で三人見るの面倒だし、図書室に行けばどうせ園芸部の連中はほとんどいるから」

「そういうもんなんだよ、園芸部は」


 少し疲れた顔の世菜先輩が苦笑した。

 一緒にいた桃が、そわそわしながら私と藤也を見比べている。


「あの、私、園芸部じゃないんですけど」

「いーよ、別に。花菜の友達だろ? 嫌じゃなかったら一緒にやろう」

「はい!」


 なるほど、藤也はこうやってモテるんだ。

 なんていうか、人たらしだよなあ。本命は彼女のメイサちゃんだけのくせに。


「由紀さん」

「なあに?」

「俺もいてよかった?」

「いいよ。世菜先輩も一緒に行きましょう」

「うん」


 歩き出したら、世菜先輩がこそっと話しかけてきた。


「また夜に一緒に勉強していい?」

「いいですよ。あとで時間を決めましょう」

「ありがと。楽しみにしてる」


 図書室に着いたら、藤也の言うとおり、園芸部員はほとんど揃っていて、他にもたくさんの人たちが勉強をしていた。

 うーん。

 この学校は、思ったより進学校だったみたいだ。

 当たり前のように隣に座るこの先輩も来年には受験生だけど、どうするんだろうなあ。そして、私は。

 今はそれどころじゃないから、カバンから今日のテストの問題を取り出した。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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